適切な事業承継が出来ずスムーズに経営権を移譲出来なかった場合に起こり得る悪影響とは?承継の方法と手順も解説
事業承継で経営権を移譲する際、スムーズに履行出来なければ様々な悪影響が起こる可能性があります。
この記事では適切な事業承継が出来ずスムーズに経営権を移譲出来なかった場合に起こりうる悪影響について解説していきますので、事業承継を検討している方は参考にしてください。
⇒事業承継対策(紛争対策・相続税対策・株価対策・後継者対策)なら!
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。
その際に引き継ぐ経営資源には、主に「人(経営)・資産・知的資産」の3つがあります。
どの経営資源の引き継ぎも重要ですが、特に重要なのは、会社を経営出来る権利である「経営権」の引き継ぎです。
スムーズな経営権の引き継ぎに失敗すると、後継者の会社経営に支障をきたすなど、会社にさまざまな悪影響が起こってしまう可能性が高くなります。
このため、会社経営が傾くのを防ぐためにも、経営権をスムーズに移譲出来るように準備しておくことが重要です。
ちなみに、近年の日本では中小企業・小規模事業者の経営者の高齢化が進んでおり、事業継承は重要な課題となっています。
実際、2020年に中小企業庁は公表している資料によると、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者の約127万人の後継者が未定だと回答しました。
(出典:中小 M&A ガイドライン -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて)
仮に多くの会社が事業継承出来ず次々に会社が無くなってしまうと、従業員の働き先が無くなるだけでなく連鎖倒産が起きる可能性もあり、日本経済に大きな打撃を与えてしまいかねません。
日本経済のためにも、事業承継の重要性を理解しておくようにしましょう。
適切な事業承継が出来ずスムーズに経営権を移譲出来なかった場合に起こりうる悪影響
事業承継に失敗してしまうと会社経営にさまざまな悪影響を与える可能性があります。
ここでは、事業承継に失敗してしまうことで起こりうる代表的な悪影響について解説します。
事業承継が出来ずに会社が廃業になる可能性がある
当然ですが、事業承継が出来なかった場合は、会社が廃業になってしまいます。
廃業になっても良いと考える経営者もいるかもしれませんが、廃業してしまうと従業員を雇用し続けることが出来なくなるうえに連鎖倒産を招いてしまう可能性があり責任は重大です。
一方、廃業を望んでいない場合であっても事業承継が見込めない場合は、経営者が経営に身が入らなくなり、業績が悪化して徐々に事業が縮小してしまう可能性があります。
それに伴い、事業の悪化を察知した従業員が離職したり、取引先が心配をして他の取引先に乗り換えられてしまうと、経営資産や経営資源が散逸して企業価値の棄損に繋がりかねません。
最悪のケースでは、企業価値がゼロになり破綻したり廃業に至ってしまう事態も十分に考えられます。
このような事態を防ぐためにも、スムーズな事業承継が出来るように綿密な準備をしておきましょう。
従業員や取引先の信用が失墜する可能性がある
事業承継で経営権をうまく移譲出来ないと、後継者が自身の判断で重要な経営判断をすることが出来ません。
その状態が続いてしまうと、従業員や取引先に「会社の経営は大丈夫なのか?」という不安を与えてしまいます。
当然ですが、このような不安を払拭出来ないと「有能な人材が流出する」、「良質な取引先との契約が終了する」などの事態が起こりかねません。
そのため、会社の信用力低下や業績の悪化などに繋がる可能性があります。
事業承継がうまくいかないと、このような危険性があることを理解しておきましょう。
会社の後継者が経営に悪影響が出る可能性がある
後継者が株式の3分の2以上を所有出来ず経営権の移譲に失敗してしまうと、後継者の会社経営に悪影響が出る可能性があります。
同族株主や少数株主など、他の株主から経営や事業を干渉される可能性があるためです。
例えば、M&Aなどの大きなチャンスがあったとしても、他の株主に反対されてしまい後継者が思うような経営が出来ないケースもあります。
そうなってしまうと、後継者の経営に対するモチベーションが下がってしまい、経営に身が入らなくなる可能性も高いです。
このような事態を防ぐためにも、後継者が経営に集中出来るだけの経営権を移譲しておきましょう。
同族内紛が起きる可能性がある
後継者を経営者一族から選んで事業承継を行う場合に、経営権の移譲がスムーズに出来ていないと、同族内紛が起きる可能性があります。
例えば、経営者の生前に経営権を移譲出来ておらず亡くなった後に後継者に株式を集中しようとした場合、他の相続人が有する「相続権・遺留分」に配慮しなくてはならず、株式が分散してしまいかねません。
株式が分散してしまうと、後継者以外が経営に関与してきて会社が混乱する状態になる可能性があります。
このため、親族を後継者にする場合は、株式が後継者に集中出来るように、他の相続人に株式の代わりとなる財産を用意して相続させられるように準備しておきましょう。
社内に対立派閥が出来てしまう可能性がある
経営権の集約が出来ていないと、後継者の対立派閥が出来る可能性があります。
仮に後継者と同等の経営権を持っている方が存在してしまうと、社内に対立派閥が出来てしまい意思の統一が出来ない可能性が高いです。
このため、会社の方針を後継者が打ち出したとしても、会社が一つの方向を向いて活動が出来ない状態になり、経営に悪影響を及ぼしてしまいかねません。
このような事態を防ぐためにも、経営者が事業承継を実行する前に、経営権を集約出来るように準備しておくことが必要になります。
経営権を集約するための手間がかかる
事業承継した後に、経営権の集約が出来ていない状態から経営権を集約することは非常に手間がかかります。
反主流派の取締役の解任や少数株主に対する対応を行う必要があるためです。
その点、創業者や現経営者の場合は経営権を握っているため、後継者に経営権を集約するのは事業承継後に後継者が行うよりも遥かに簡単です。
したがって、経営者の方は後継者に経営権を集約する準備が整ってから事業承継を実施しておきましょう。
⇒事業承継対策(紛争対策・相続税対策・株価対策・後継者対策)なら!
特に非上場会社の事業承継には綿密な準備が必要な理由
非上場会社の場合は、特に事業承継を行うために綿密な準備が必要になります。
非上場株式会社の株主は経営者とその家族であることが多く、同族内紛や経営権紛争が発生する可能性が高いためです。
また、近年は従業員への承継やM&Aによる承継も増加しているため、検討するべき内容が増えています。
仮に事業承継に失敗してしまうと、前述したような数々の悪影響を受ける可能性があるため、事業承継を行う際は綿密な準備をしておきましょう。
事業承継の種類
事業承継の種類には下記の3つがあります。
上記の方法の内容やメリット・デメリットについて解説していきます。
ちなみに、詳細については下記の記事で解説しているので気になる方は参考にしてみてください。
親族内の事業承継
配偶者や子どもなどの経営者の一族から後継者を指名して行う事業承継です。
従来の日本の中小企業で数多く実行されてきましたが、少子化による後継者不足や価値観の多様化などにより、親族内の事業承継は減少しています。
なお、親族内の事業承継のメリットは下記の通りです。
- 後継者を選定が容易である
- 従業員が受け入れやすい
- 取引先の心情的な理解を得やすい
- 会社の所有と経営の
- 株式や資産について贈与や相続で事業承継が出来る
- 後継者教育の時間を確保出来る
一方で、下記のデメリットも存在します。
- 親族内で後継者を巡って揉める可能性がある
- 後継者に任せられる親族がいない可能性がある
- 親子間では感情的になりやすい
- 後継者教育をしていても親族に後継者になることを拒否される可能性がある
特筆すべきメリットは、後継者をじっくりと育てることが出来る点です。
また、従業員も受けていてくれる可能性が高いため、事業承継がスムーズに出来る可能性も高くなります。
ただし、後継者本人のモチベーションが低い場合もあるため、本当に後継者に指名するつもりの親族が経営者になることを本当に望んでいるのかをよく見極めるようにしてください。
従業員への事業承継
従業員への事業承継はその名前の通り、会社で働いている従業員を後継者に指名して事業承継する方法です。
この事業承継方法には下記のメリットがあります。
- 会社のことをよく理解した後継者が選べる
- 親族内の事業承継よりも候補者が多い
- 後継者の教育期間が短く出来る
- 企業文化を引き継げる
- 従業員からの理解が得やすい
- 取引先からの理解を得やすい
- 株式を売却することで現金が得られる
一方で、下記のデメリットがあることも理解しておきましょう。
- 会社の株式を後継者に買い取ってもらう必要があり、資金が足りなくて辞退されてしまう可能性がある
- 親族から反対される可能性がある
- 大胆な改革が出来ない可能性がある
- 優秀な社員が優秀な経営者になるとは限らない
従業員は会社の仕事や理念を理解しているため、教育期間を短く出来るのが大きなメリットです。
ただし、子どもなどの親族に対して事前に説明しておく必要があり、説明が不十分だと経営権の移譲に時間がかかってしまうという懸念もあります。
このような事態を防ぐためにも、スムーズに経営権を移譲するための準備が重要です。
第三者への事業承継
第三者への事業承継とは外部から後継者を招聘する方法です。
例えば、M&Aによる事業承継が該当します。
主なメリットは下記の通りです。
- 身近に後継者がいなくても幅広く後継者を探せる
- 新たな価値観やノウハウを持っている後継者が見つかる
- 買い手とのシナジー効果で事業の拡大が期待出来る
- 株式の売却により現金を得られる
- 買い手側の企業は企業価値の向上が見込める
一方で、下記のようなデメリットも存在します。
- 後継者探しの手間と時間がかかる
- 希望する条件で事業承継出来ない可能性がある
- 手続きが複雑で時間がかかる可能性がある
- 従業員や役員が不満を持ちやすい
- 「企業理念・社風・労働条件」が変わる可能性がある
第三者への事業継承の一番の問題は、信頼出来る後継者を外部から見つけてくることが容易ではないことです。
外部の後継者の経営方針の折り合いがつかずに事業承継に失敗したというケースも多いため、後継者候補を慎重に検討する必要があることを理解しておきましょう。
⇒事業承継対策(紛争対策・相続税対策・株価対策・後継者対策)なら!
事業承継で株式を譲渡する方法
事業承継で後継者に株式を譲渡する方法には、主に以下の3つがあります。
- 生前贈与
- 相続
- 第三者への株式譲渡
ただし、「生前贈与」と「相続」は親族を後継者にした場合に限られます。
この3つの方法について解説するので、内容をよく理解しておくようにしてください。
生前贈与
生前贈与とは、経営者が生きている間に所有している財産を譲る方法です。
この生前贈与を活用して親族の後継者に株式を譲渡することも出来ます。
なお、生前贈与の主なメリットは下記の5つです。
- 経営者の生前に株式を譲渡出来るので後継者の立場を安定させることが出来る
- 経営者が健在のうちから法的にも後継者が早期に経営に関与出来る
- 取得時の対価として金銭的な負担が生じない
- 相続財産を減らすことが出来る
- 特例措置を利用出来る可能性がある
一方で、生前贈与には下記の3つのデメリットも存在します。
- 相続よりも諸経費が安く済む可能性があるが、必ずしも安くなるわけではない
- 後継者に「登録免許税・不動産取得税」などの税の負担が発生する可能性がある
- 贈与の条件によっては遺留分の争いが生じる場合がある
特筆するべきなのは、経営者が健在のうちから後継者が法的にも経営権を持って事業に参加出来る点です。
そうすることでスムーズに事業承継を行うことが出来ます。
ただし、税金対策として利用する場合は、相続のほうが課税額が安くなる可能性があるので注意しましょう。
なお、経営者が生きているうちに親族へ株式を売却して株式を譲渡する方法もあります。
贈与と違って後継者が贈与税を支払う必要がないメリットがありますが、親族に売却する場合は株価が安いうちに売却しないと譲渡できないといった事態に陥る可能性があるので注意してください。
相続
相続とは被相続人が亡くなった際に、所有していた財産や権利を法定相続人に引き継ぐことです。
事業承継では、相続によって会社を経営するために必要な株式を後継者に譲り渡すことが出来ます。
この相続で株式を譲渡する方法のメリットは、下記の4つです。
- 遺言によって後継人を指定しておくことで、株式をその後継者に与えることが出来る
- 生前に経営者が遺言書などを残しておくことで法定相続人が遺産分割の方法に悩まずに済む
- 株式取得するための資金が必要ない
- 贈与よりも納税負担が少なくなる可能性がある
一方で、相続で株式を譲渡する方法には下記の4つのデメリットがあります。
- 相続人同士の紛争が起きやすい
- 手続きが必要になることが多いため、経営者が亡くなったとしても後継者に資産が引き継がれるのに時間がかかる
- 他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があるなど、法的な争いの余地を残す可能性が高い
- 事前に効力を持つ遺言書の準備が必要
このように、相続による株式譲渡は後継者に株式がスムーズに譲渡されずに、事業承継に時間がかかる可能性があります。
このため、確実に後継者に経営権を移譲したい場合は生前贈与を選択するようにしてください。
第三者への株式譲渡
「従業員・第三者」いずれが後継者となる場合でも、後継者に株式を売却して事業承継を行う株式譲渡という方法が使えます。
株式譲渡のメリットは下記の4つです。
- 他の法定相続人とのトラブルに発展する可能性が少ないため後継者の地位が安定しやすい
- 相続時における遺留分の問題が発生しない
- 経営者は株式を現金化して得ることが出来る
- 後に覆される恐れが少ないので、法的な不安要素が小さい
ただし、下記の3つのデメリットもあります。
- 不相当に安価であると評価された場合、生前贈与として扱われる可能性がある
- 後継者となる者が取得資金を準備しなければならない
- 経営者が譲渡所得税を支払う必要がある
第三者への事業継承の一番の問題は、信頼出来る後継者を外部から見つけてくることが容易ではないことです。
外部の後継者の経営方針の折り合いがつかずに事業承継に失敗したというケースも多いため、後継者候補を慎重に検討する必要があることを理解しておきましょう。
事業承継で経営権を移譲する際の流れ
親族内・従業員への事業承継の事業承継の手順や流れは下記の通りです。
一方で、第三者への事業継承の手順は下記の通りです。
- 会社の現状を把握する
- 事業承継に向けた経営改善を行う
- 買い手企業とマッチングしてM&Aを実行する
ちなみに、詳細については下記の記事で解説しているので、気になる方は参考にしてみてください。
事業承継で弁護士が対応する内容
ただし、弁護士であれば誰しもが対応出来るわけではありません。
事業承継に詳しい弁護士に依頼しないと解決に繋がらない可能性があるので気をつけるようにしてください。
少数株主に対する対応
事業承継を失敗しないためには、敵対的少数株主対策を行う必要があります。
少数株主が会社に敵対してしまうと、後継者だけで経営判断が出来なくなり、経営が難しくなってしまうためです。
このため、「少数株主と任意交渉して株式を売却してもらう」や、「スクイーズ・アウトを検討する」などの対策を行う必要があります。
また、少数株主が株主権を行使した場合に法定な防御などの対応が出来るように準備しておかなければなりません。
しかし、上記のような対応は法的な専門知識が必要になることも多く、自身で行うのは困難です。
したがって、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで適切な対応をしてくれるため、スムーズな解決を見込むことが可能です。
役員問題に対する対応
後継者の経営権がスムーズに移譲出来ていない場合に経営権問題の原因となる、取締役との対応問題なども弁護士に相談することで解決出来る可能性があります。
取締役辞任交渉・取締役の解任手続き、解任取締役の損害賠償請求訴訟の法的対応などを弁護士が代行してくれるためです。
取締役などの役員を解任するのには多くの労力が必要となるため、弁護士に相談するようにしましょう。
株式に関する対応
事業承継の株式に関するさまざまな対応も、弁護士に相談することで解決出来る可能性があります。
主な相談内容は以下の通りです。
- 持株会社化・従業員持株会・一般社団法人・種類株式を利用した株式の集約と分散防止
- 名義株がある場合の解決にかかわる作業
- 相続発生前の株式対策
上記のように、株式を後継者にスムーズに移譲出来るように尽力してくれるため、事業承継を行う際は弁護士に相談するようにしましょう。
M&Aに関するアドバイス
M&Aは専門的な知識が必要になるため、トラブルを防止するためにも弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで以下のようなアドバイスをもらえるためです。
- M&Aトラブルを防止するための法務デューデリジェンス
- M&Aトラブルを防止するためM&A契約書の作成
- 適切なM&Aを行うためM&A全般に対するアドバイス
- M&A後にトラブルが起きた際の裁判など対応
上記のようなアドバイスをしてくれるため、弁護士に相談しておくことでトラブルなくスムーズに事業承継を行うことが出来ます。
なお、M&Aに関する相談先は以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。
⇒事業承継対策(紛争対策・相続税対策・株価対策・後継者対策)なら!
まとめ
事業承継で後継者に経営権がスムーズに移譲されないと、経営が悪化するなどのさまざまな悪影響を受ける可能性があります。
このため、事業承継を行う際は後継者がすぐに安定した経営が出来るように、綿密に準備して経営権を移譲しておかなければなりません。
そのためにも、どのような悪影響を被る可能性があるのかを知ったうえで、事業承継に強い弁護士への相談を検討するようにしましょう。