事業承継信託の内容・メリットとデメリット・設定方法!
希望に沿った相続・事業承継を実現するための方法として「信託」が注目されています。
事業承継の方法としてはM&Aが、そして、相続対策としては遺言などがよく使われていますが、近年は「信託」という方法を選択肢があり、これにより従来の方法では実現できなかった柔軟な相続・事業承継を実現することができます。
今回の記事では、事業承継に使える「信託」である「事業承継信託」をわかりやすく解説します。
従来の方法でうまく相続・事業承継に対応できないと心配されている経営者としては必見です。
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事業承継信託の内容・メリットとデメリット・設定方法について
以上のポイントを、多くの事業承継に携わったM&A弁護士が解説します。
事業承継を検討している経営者や、どのように自分の望む事業承継を実現するか悩んでいる経営者の参考になれば幸いです。
信託とは何か
事業承継信託の説明をする前に、「信託とは何か」についてお話ししたいと思います。
信託の特徴は「契約に三人の人物が登場すること」です。事業承継信託を理解するためには、信託とは何か知っておくことが重要になります。信託とはどのような契約か、まずは把握しておきましょう。
信託とは
信託とは「自分の財産を託し、目的のために運用や管理をしてもらう方法」のことです。信託は基本形として、三人の登場人物が出てくるところが特徴になります。
信託の三人の登場人物は次の通りです。
- 財産を「目的のために信じて託す」人(委託者)
- 財産を「目的のために管理・運用する」人(受託者)
- 財産の「運用や管理で生じた利益を受け取る」人(受益者)
信託はこの三人の登場人物によって行います。
財産を持っている人(委託者)が「このような目的で財産を管理、運用して欲しい」という願いのもとで、財産を受託者に託します。信託という言葉は「信じて託す」と書きますから、まさにその通り。委託者が受託者に目的にそった財産を信じて託すわけです。
財産を管理運用する役目を負った受託者は、「財産を確かにお預かりします」と託されます。この財産はもちろん贈与ではありません。受託者はあくまで管理運用のために受け取るだけです。財産を信じて託された受益者は、目的に合わせた財産の管理運用を行います。
受託者が財産を管理運用していると、そこから利益が生じることがあります。たとえば株式を信託すると、配当などの利益が発生するわけです。信託では利益を受け取る人として受益者を設定します。受益者という漢字は「利益を受ける」。管理運用の利益を受ける人として設定した受益者に、生じた利益が託されるのです。
なお、登場人物は基本的に三人ですが、委託者と受益者は同じでもかまいません。
Aさんが財産を信じて託し、B信託銀行が財産の管理運用を行う。委託者でもあり受益者でもあるAさんに管理運用の利益を渡す。このように、登場人物三人の役割がすべて割り振られていれば、実際に登場する人数が三人でなくても良いのが信託です。
以上が基本的な信託の仕組みになります。
事業承継信託についても基本的な仕組みは同じです。
信託の目的
信託はさまざまな目的で使われています。教育資金や結婚資金のための信託や、法人の年金や財形のための信託などがよくある目的です。社会福祉を目的に信託が利用されることもあります。
近年は飼い主にもしものことがあったときのために、ペットの生活を守るための手段として信託(ペット信託)という方法がクローズアップされる機会もありました。犬や猫は遺産相続できず、飼い主が亡くなった瞬間に路頭に迷う可能性もあるからです。ペットのための財産を託しておけば、ペットの生活を守ることにつながります。
このように、いろいろな目的のために信託が使われているのです。事業承継信託は、事業承継が目的になっているタイプの信託になります。
信託で管理運用できる財産
信託で信じて託し、管理運用してもらえる財産は金銭だけではありません。株式などの有価証券や不動産といった財産的価値のあるものであれば比較的柔軟に信託できます。信じて託し管理運用してもらう財産のことを「信託財産」といいます。
この信託財産は受託者に所有権などが移転し、管理や運用を行うことになるのです。権利の移転という点で不安を覚えるかもしれませんが、信託は信託業法や信託法などで厳しいルールが定められています。法的なルールのもとで厳しい管理と運用が行われるため、「ただ預ける」こととは根本的に異なるのです。
以上が信託の基本的な知識になります。
基礎知識を知った上で、今度は事業承継信託について見ていきましょう。
事業承継信託とは
事業承継信託とは、事業承継を目的とした信託のことです。自社株を信託して円滑な事業承継を目指すことから、「自社株信託」などの名前で呼ばれることがあります。事業承継に利用できる信託を総称して事業承継信託と呼ぶこともあります。
事業承継という目的のために、自社株という財産を信じて託し、管理運用してもらう。これが事業承継信託の仕組みになります。
事業承継信託は自社株式を金融機関などに管理運用してもらい、後継者に渡すことが可能です。法的なルールと設定した目的にそって動く金融機関から後継者に渡すわけですから、トラブルを回避しつつ後継者に株式や経営権を引き継ぎできます。
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事業譲渡信託の特徴と必要性
自社株式を一定数所有していると、会社の経営権を握ることが可能です。事業承継では、現経営者から後継者に自社株式・経営権をどのように渡すかが問題になります。自社株式・経営権は相続や譲渡といったかたちで渡すことも可能ですが、相続時や譲渡時に揉めることも少なくありません。
相続制度や遺言によっては経営者の想定するような事業承継が実現できないことがあります。相続制度や遺言では、自社株を誰にどのように承継させるかしか指定できません。会社の財産権と経営権それぞれの承継人も指定できないため、経営者が望むかたちでの事業承継が難しいというデメリットがあります。
相続の場合は複数の親族に自社株が散逸する可能性もあり、会社の経営自体が不安定になってしまうこともあるのです。その点、事業承継信託は、経営者が会社の経営権と財産権をわけて指定できます。相続制度や遺言の活用よりも、事業承継信託の方が柔軟な事業承継と経営者の希望にそった承継ができるという特徴があるのです。
また、相続の場合は、事業承継において想像しなかったリスクが生じることも少なくありません。事業の後継者候補が複数いる場合は、後継者が対立して株式の奪い合いになることもあります。
この他に、後継者だった息子が自社株を相続してすぐに亡くなり、さらなる相続の発生で配偶者に自社株が渡ってしまうなどのリスクもあるのです。息子の配偶者が亡くなれば、息子の配偶者の親族に会社の経営権が相続されてしまうリスクも考えられます。多くの経営者にとって、これは望まない結末ではないでしょうか。
事業承継信託を利用すれば、経営権をいったん息子の嫁や娘婿などに渡すことになっても、その後に息子の嫁や娘婿の親族に相続で引き継がれることを防ぐことも可能です。
経営権を娘婿や息子の嫁に一度渡すことになっても、最終的に自分の孫などに渡すこともできます。複数の後継者を経営者の設定した順番で受益者にするなどの柔軟な使い方も可能です。経営権や自社株をまったく関係ない人に相続によって渡ることを防ぎ、経営者自身が望む人物に安定的に利益や経営権を渡すことができるのが事業承継信託の特徴です。
事業承継信託の特徴と必要性をまとめると、次のようになります。
- 相続制度や株式譲渡だと揉める可能性がある
- 相続制度や遺言の活用だと財産的な利益と経営権を分離できない
- 事業承継信託の場合は経営者が経営権と財産権をわけて承継人を指定できる
- 相続制度や遺言だと自社株が相続人たちの間で散逸してしまうが事業承継信託は株式の散逸を防げる
- 相続だと経営者候補が株式を取得後に亡くなり、さらなる相続で予想外の人物に株式や経営権が渡る
- 事業承継信託なら経営権を関係のない人物に渡ることを防ぎ経営者の望むかたちでプランニング可能である
簡単にまとめると、このようになります。
相続や譲渡による経営権、株式を渡すときのリスクを回避し、より経営者の望むかたちで会社の引継ぎができる。以上が事業承継信託になります。
事業承継には未だ相続なども使われています。ただ、事業承継信託の方が、経営者が特に心配するリスクの対策に向き、さらに経営者の目的や希望にそった事業承継をプランニングしやすいことから、事業承継に事業承継信託を利用する経営者が増えているのが現状です。
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事業承継信託の種類
事業承継信託には3つの種類があります。
- 遺言代用信託
- 他益信託
- 受益者連続信託
事業承継を経営者の希望にそってプランニングするためにも、種類の把握は重要です。
事業承継信託の3つの種類について、順番に説明します。
遺言代用信託
遺言代用信託とは名前通り「遺言の代わりになる信託」です。
たとえば、父親が亡くなったとします。亡くなったからには葬儀を出さなければいけません。加えて、父親が亡くなっても母親や子供たちの生活は続きます。生活が続くということは、生活費も必要になるということです。子供が在学中なら、学費なども必要になることでしょう。
しかし、たとえ母親(配偶者)や子供が相続人であっても、相続手続きが終わるまでは基本的に預金などの引き出しができなくなります。葬儀費用や生活費、学費などが必要でも例外は許されず、母親や子供は非常に困ることになるのです。これは、相続によくある話です。
遺言代用信託を使って本人を受益者にし、家族を第二受益者に設定しておけば、受益者である本人(例でいけば父親)が亡くなっても、スムーズに第二受益者である家族に財産を引き渡し可能です。
さらに、契約内容に本人死亡時の一時的な給付金や本人死亡時の一定額の振り込みなどを盛り込んでおけば、相続時に家族が生活費や葬儀費用などで困ることを防止できます。「本人死亡時は配偶者の口座に300万円即座に振り込む」などの内容を契約に入れておけばいいのです。
相続の場合は相続手続きが終わるまで財産を動かせませんが、信託は違います。信託は契約内容によりますので、信託銀行などの受託者は契約に盛り込まれた文言通りに即座に配偶者の口座にお金を振り込みできるというわけです。遺言代用信託は遺言代わりでもありますが、遺言ではカバーしきれない部分をカバーすることもできます。
この遺言代用信託は事業承継にも使うことができるため、事業承継信託の種類のひとつでもあります。
遺言代用信託を利用すれば、あらかじめ指定した後継者に自社株を渡すことも可能です。遺言代用信託を使って即座に自社株の受け渡しをすれば、相続にありがちな「経営の空白期間」に対処することもできます。
たとえば、相続では手続きが終わるまでに空白期間が生じてしまい、会社の意思決定が遅れてしまうという問題点があるのです。遺言代用信託を利用すれば後継者に即座に自社株を引き継いでもらえますから、経営の空白期間が生じ、会社の意思決定が遅れるようなこともありません。
また、遺言代用信託を使えば相続にありがちな自社株式の散逸や株式をめぐってのトラブルなども発生しませんから(あくまで信託契約にそって進むためです)、トラブル防止や経営権を守るための対策としても使えるのです。
遺言代用信託は金融機関で取り扱いがあります。たとえば、りそな銀行の場合、「自社株承継信託」という名前でサービスを提供しています。サービスの中に議決権留保型や受益権譲渡型などのタイプがありますが、この中の遺言代用型がいわゆる事業承継信託の中のひとつである遺言代用信託にあたるのです。
また、みずほ信託銀行でも事業承継信託の中の「遺言代用信託タイプ」の取り扱いがあります。みずほ信託銀行の「事業承継信託・遺言代用タイプ」が、遺言代用信託に該当するのです。
他益信託
事業承継信託の中でも他益信託は、「経営者に経営権を残したいが、財産権は他の人に渡したい」というときによく使われる事業承継信託です。
他益信託では、財産の委託者以外が財産の管理運用の利益を得ることになります。委託者以外の他の人が管理運用の利益を得るため「他益」という名前がついているのです。
他益信託では、手元に権利の一部を残すことができるという特徴があります。たとえば、自社株式を信託財産にしても、経営者自身はまだ経営に携わりたいと思っている。けれど、株式の財産権は後継者に引き継ぎしたいと思っている。このようなときは、他益信託にメリットがあります。
相続では、先に株式の財産権を譲渡しつつ経営権を握るということはできません。相続は死によって起こりますから、すべてセットになって後継者に渡るのです。対して他益信託は先に株式の財産権だけを渡しておき、経営者が亡くなるまでは経営権を握る。経営者が亡くなったときに経営権を後継者に渡すという事業承継をプランニングすることも可能です。
先に財産権だけ後継者に渡して後継者が財産的利益を得ることから「他益」と考えるとわかりやすいかもしれません。また、最終的に株式のすべての権利が後継者に渡されるわけですから、その点でも後継者(他人)が利益を得ています。このように理解すると、信託の名前を憶えやすいのではないでしょうか。
事業承継信託の中でも他益信託は、りそな銀行やみずほ信託銀行などで取り扱いがあります。
りそな銀行の自社株承継信託の中の「議決権留保型」「受益権譲渡型」「議決権第三者指図型」が他益信託にあたります。みずほ信託銀行の場合は、事業承継信託の中でも「生前贈与タイプ」が他益信託にあたります。
受益者連続信託
事業承継信託の中でも「受益者を連続で指定するタイプの信託」が受益者連続信託です。
事業承継をする場合、後継者も高齢になっていることが少なくありません。事業承継信託を利用して後継者に自社株を渡しても、その後継者も間を置かず亡くなる可能性があります。
後継者に自社株が渡ってすぐに後継者が亡くなると、その後継者の相続人に会社の株式が渡り、結果として事業信託を利用した経営者が予想していなかった人物が相続するというリスクがあるのです。
たとえば、自社株式を承継した後継者が承継から1年で亡くなりました。後継者の相続人である配偶者と子供は、事業承継信託を行った経営者とは縁もゆかりも血縁もない人物たちです。会社のことを何も知らない、縁すらない配偶者や子供のところに相続によって株式が転がり込んでしまうという悲惨な事態になります。予期せぬ相続によって会社の経営自体が危うくなってしまうのです。
受益者連続信託は、このような事態を回避できる事業承継信託になります。
受益者連続信託では、後継者の次の後継者も指定できます。順番に後継者を指定すれば、順番に自社株の承継が可能です。予期せぬ事態により自社の株式や経営権が縁もゆかりもない相続人や、経営の素人や自社の内情を知らない人に自社株や経営権が渡ることを防げます。
ただし、受益者連続信託は30年という期限が定められている点に注意が必要です。30年を超えると、一度しか承継できません。
期限を踏まえて後継者の指定や経営権の対策をすることが必要になる事業承継信託です。30年という信託の期限さえ理解していれば、後継者について経営者が柔軟にプランニングできる事業承継信託になります。
事業承継信託のメリットとデメリット
事業承継信託は事業承継において非常にメリットのある方法ですが、同時にデメリットもある方法になります。事業承継信託のメリットとデメリットを整理し、より事業承継信託への理解を深めましょう。
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事業承継信託のメリット
事業承継信託のメリットは5つあります。
事業承継信託は後継者を連続で指定できるなど、相続よりも柔軟に事業承継を計画可能です。相続では難しい事業承継の希望についても、事業承継信託を利用することで解決できる可能性があります。
また、後継者候補が多かったり、相続人が多人数であったりする場合は、相続トラブルや自社株の散逸リスクなどが付き物です。後継者を決めるときに融資を受けている金融機関などの思惑も絡んでくることがあり、ケースによっては非常に揉めます。事業承継信託で先に対策してしまえば、契約内容にそって自動的に後継者に承継可能です。トラブルを防止しつつ、スムーズに後継者へ事業承継できます。
事業承継信託には、会社の経営権への影響が少ないというメリットもあります。
相続では、相続手続きによって会社の経営に空白期間が生まれてしまいます。死は唐突に訪れますので、会社の事業の重要な意思決定をする段になって急に経営者が亡くなると、会社の意思決定ができず、経営のかじ取りすらできなくなるのです。会社が大損害を被るかもしれません。ビジネスチャンスを逃すことにもつながるはずです。
事業承継信託によって後継者にスムーズに経営権と株式を渡せば、会社の意思決定や経営に空白期間がほぼ生まれませんので、会社の経営への影響が小さくなります。
加えて、事業承継信託には税金対策になるというメリットがあるのです。
信託には基本的に税金がありません。これは、事業承継信託も同じです。事業承継信託を使えば、税金の負担を軽減しつつ事業承継できるのです。
なお、受託者や受益者の設定によっては、相続税が発生する場合があります。設定によって税金の発生があらかじめ予想できるため、先に税金対策しておくことなども可能です。
事業承継信託のデメリット
事業承継信託には3つのデメリットがあります。
事業承継信託を利用する際は、デメリットに留意しなければ、希望通りの事業承継を行うことが難しくなるのです。デメリットについても、よく理解しておきましょう。
- 信託契約を経営者が難しく感じることがある
- 事業承継の前提が経営者の死である
- 遺留分減殺請求への対処が難しい
信託はかなり普及し、昔よりも利用者が多くなっています。しかし、相続の遺言や生前贈与などと比較すると、まだ方法としての知名度が低いのが現状です。
事業承継信託は、遺言書などより知名度の低い事業承継方法になっています。そのため、経営者の理解が深まっておらず「難しいので使わない」という選択をしてしまうことが少なくありません。登場人物が三人いることも、信託が難しいという印象につながっているのかもしれません。
事業承継信託の知名度や普及は、事業承継における今後の課題のひとつではないでしょうか。ただ、事業承継信託を理解し実際に使おうと思っている経営者にとっては、この点は特にデメリットではありません。「まだ知名度がやや低い」くらいの把握で問題ないポイントです。
事業承継信託の問題点として、「経営者の死が前提になっている」というポイントがあります。経営者が亡くなることを前提に後継者への承継が行われますから、たとえば「早めに経営者を退いて残りの人生を旅行や趣味で楽しみたい」など、リタイアの際は使いないのです。承継はあくまで経営者の死が前提。この点はデメリットです。
もうひとつのデメリットは、遺留分への対処です。遺留分とは、相続人の必要最低限の取り分になります。配偶者や子供、直系尊属には、被相続人の死後の生活を考えて、遺産の中の必要最低限の取り分というかたちで遺留分が設定されているのです。遺留分を侵害した場合、遺留分減殺請求(遺留分を返してくださいという請求)が行われる可能性があります。
事業承継信託においては、「民法の特別法なので遺留分はない」という意見と「相続人の権利侵害なので遺留分は認められるべき」という意見が対立しています。対立したまま決着がついていないため、遺留分や遺留分減殺請求への対処が難しいのが現状です。
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事業承継信託の設定方法
事業承継信託には3つの設定方法があります。
事業承継信託を行いたい場合は、3つの方法のどれかを使うことが基本です。
あらかじめ事業承継信託契約を結ぶ方法
あらかじめ事業承継信託を扱う金融機関などと契約を結び、信託契約の準備をしておく方法になります。
契約は基本的に財産を管理運営する金融機関と、財産を任せる経営者の間で結ばれることになります。利益を得る後継者についてはデメリットがないため、信託契約を結び受益者であることを伝えるに留まるかたちです。つまり、受益者は契約の当事者としては参加しません。
遺言書に事業承継信託について記載する方法
遺言書に事業承継信託の内容を記し、遺言の効力発生とともに事業承継信託の効力も発生させる方法になります。
遺言は相続、つまり死によって効力が発生しますから、事業承継信託も同じタイミングで効力発生することになるのです。あらかじめ契約しておくだけでなく、このように遺言書を使った事業承継信託の方法もあります。
この方法の難点は、あらかじめ契約を結んでおかないことから、経営者が本当に効力発生したか、契約は大丈夫なのかを確認できないという点です。
遺言書と同時に効力発生するため、効力発生や事業承継信託の力を見るころには、経営者は亡くなっています。効力の確認ができないという点で不安を覚える経営者は少なくありません。
自己事業承継信託をする方法
平成19年の法改正から新しく使われるようになった事業承継信託です。
自己事業承継信託とは、経営者自身が委託者と受託者を兼任する方法になります。経営者自身が会社株式を委託し、自分で管理運用するのです。管理運用の際は自分の財産とは切り離します。登場人物三人のうち二人を経営者が担う方法です。
この方法は一見単純そうに見えます。ですが、信託の知識がないと委託者と受託者を兼ねることや、財産を切り離しての管理運用が難しいこともあり、経営者が財産運用や法律の知識を持っていないと難しい方法なのです。
また、委託者と受託者を経営者が兼ねるため、事業承継信託を結ぶことができないという難点があります。自分と契約は結べないからです。「これから事業承継信託を行います」という事業承継信託の意思表示と宣言で行うことになります。
事業承継信託の注意点
事業承継信託を利用する上で注意したいポイントが3つあります。メリットやデメリットを留意するとともに、3つのポイントについても注意しておきましょう。
以上が事業承継信託3つの注意点です。
すでにお話ししましたが、事業承継信託では遺留分や遺留分減殺請求への見解が固まっていないところがあります。実際に遺留分の問題が起きたときは、大きなトラブルに発展する可能性があるのです。よって、あらかじめ遺留分に配慮し、相続人の遺留分を侵害しないなどの配慮をすれば、遺留分トラブルを回避できます。遺留分は注意しておきたいポイントです。
事業承継信託では、課税関係に注意する必要があります。すでにお話ししましたが、受託者や受益者の設定によっては相続税の課税対象になることがあるのです。事業承継信託を使うときは課税関係に注意し、あらかじめ対策を練っておきましょう。
課税関係においては、事業承継税制が使用できない点にも注意してください。納税猶予等の特例が使えないため、利用する予定がある場合は事業承継信託と特例どちらのメリットが大きいか比較し、慎重に決断する必要があります。
まとめ
事業承継の方法としてはM&Aの各種手法や相続制度における遺言書の活用などがあります。事業承継信託も事業承継方法のひとつです。近年は事業承継信託のメリットから、よく事業承継に使われるようになりました。
事業承継信託はメリットの多い事業承継方法ですが、デメリットや注意点もあります。ニーズに合った事業承継ができるか。経営者自身の望む事業承継を事業承継信託で実現可能か。事業承継信託の内容を理解し、よく考えた上で有効に活用しましょう。