零細企業のM&A、事業承継、売却などについて、成功のためのポイントを詳細解説
現在では、企業のM&Aや事業承継、売却は年を追うごとに増加しています。
上場企業だけでなく、非上場の中小・零細企業においても今やM&A、事業承継、売却は大きなテーマの1つとなっており、実際に零細企業でも、M&A、事業承継、売却を実施した企業も存在しています。今回の記事では、零細企業がM&A、事業承継、売却を行う目的や用いる手法、M&A、事業承継、売却を成功させる上で知っておくべきコツをご紹介します。
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零細企業とは
零細企業というのは、法律上で明確な定義がなく、実際のところは慣例的な使われ方をしている名称です。あえて定義すると、中小企業の中でも特に小規模な企業のことということになります。
適用される法律によっても、零細企業が中小企業と呼ばれたり、小規模事業者と呼ばれたりします。
慣例的には、零細企業というときには、資本金1,000万円以下、従業員が5人以下の企業を指すことが一般的です。
大企業や中小企業、零細企業の区分について
まずは、企業の定義について見ていきたいと思います。一般的に様々な企業のことを大企業、中小企業、零細企業などと呼びますが、その定義はどのようなものなのでしょうか?
それぞれの規模の企業についての定義を理解しようと思います。
大企業とは
大企業についても、法律上の定義はありません。会社法上では、下記のいずれかを満たす場合は、大企業ではなく、「大会社」に分類されます。
①最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上ある会社、もしくは➁最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である会社、のいずれかを満たす会社のことを、世間一般的には、大会社と呼んでいます。
会社法上で大会社に該当する企業は、資本や負債が多額であるため、投資家保護や債権者保護の観点から計算書類の適正や情報開示に関する規制を受けることになります。また、企業統治及び情報開示に関する規制もあります。
中小企業とは
零細企業と大企業には、法律上の明確な定義がない一方で、中小企業には法律で明確な定義があります。
中小企業の定義は、中小企業基本法で定められており、「資本金の額又は出資の総額」、「常時使用する従業員の数」の次のいずれかの条件を満たせば、中小企業となります。
①「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人であって、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第4号までに掲げる業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの」(中小企業基本法第2条第1項第1号)
また、卸売業、サービス業、小売業については、上記とは異なる資本金の額と従業員数が定められています。
➁「資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人であって、卸売業に属する事業を主たる事業として営むもの」
③「資本金の額又は出資の総額が5000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人であって、サービス業に属する事業を主たる事業として営むもの」
④「資本金の額又は出資の総額が5000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人であって、小売業に属する事業を主たる事業として営むもの」(中小企業基本法第2条第1項第2号以降)
ただし、中小企業という定義は、中小企業政策における基本的な政策対象となる企業の範囲を定めたものというのが、原則的な位置づけとなっているので、法律や制度によって「中小企業」として扱われている範囲がそれぞれ異なる場合があるという点に注意が必要です。
例えば、法人税法上の定義では、資本金1億円以下の企業はすべて中小企業と呼ばれています。法人税法における中小企業軽減税率の適用範囲は、資本金1億円以下の企業(法人税法上の中小企業)が対象となっているので、中小企業基本法における中小企業の定義とは異なっています。
小規模企業とは
さらに、「製造業その他の業種で従業員20人以下の会社」または、「商業・サービス業で従業員 5人以下の会社」は、小規模企業者と呼ばれます。
小規模企業者等に該当する場合には、設備導入を行う際に、設備購入代金の半額を無利子で融資を受けることができる制度や、設備を割賦販売やリースで導入できる制度があるなど、国も積極的に小規模企業者を支援しています。
その理由は、日本の全企業数のうち上の定義で言う、中小企業(小規模企業者を含む)が99.7%を占め、私たちの生活に密着した財やサービスを提供しているからです。
また、日本では、中小企業全体(小規模事業者を含む)で約3,200万人の方が雇用されており、これは、日本の従業者の約7割に当たります。そのため、これらの中小企業がなくなれば、日本からほとんどの会社がなくなってしまい、多くの人が職を失うことになってしまいます。
零細企業とは
上述の通り、零細企業の明確な定義は法律上ではありませんが、資本金1,000万円以下、従業員が5人以下の企業を零細企業と呼ぶのが一般的です。
そのため、零細企業は、わずかな資本・設備・人数で経営する、ごく規模の小さい企業と定義することができます。
中小企業法では、上で説明したように小規模企業者を定義していますが、小規模企業者のうち、より少ない資本・設備で経営するごく規模の小さい企業が一般的には零細企業と呼ばれています。
零細企業によるM&A、事業承継、売却の目的
それでは、一般的に資本金1,000万円以下、従業員が5人以下の零細企業が、零細企業のM&A、事業承継、売却を行う目的としてどのようなものが考えられるのでしょうか。
主な目的としては、「零細企業の事業の承継」、「零細企業の売却による利益の獲得」、「零細企業の事業売却による主力事業への集中」などが考えられます。それぞれの目的について、詳しく見ていこうと思います。
零細企業の事業の承継
売り手である零細企業の経営者が高齢などを理由に引退し、誰かに企業を引き継いでもらうために、零細企業によるM&A、事業承継、売却がよく利用されます。
事業承継は大きく分けて、親族内承継か親族外承継の2つに分類することができますが、親族外承継の主な手法がM&Aです。
売り手である自身にとっては第三者に売却した方が、親族内承継の場合よりも、より多くの売却金額を得られる可能性がある点がメリットです。売り手である零細企業の経営者は、零細企業をM&A、事業承継、売却した後は、その売却金額で引退後の生活も楽しむことができます。
零細企業の売却による利益の獲得
零細企業の経営を続けていけば、将来に渡って利益を稼ぐことが出来る可能性もありますが、一方で、現在の変化の激しい社会においては、来年も必ず利益を稼ぐことができるという保証はどこにもありません。
しかし、零細企業によるM&A、事業承継、売却で会社を売却することで、将来の利益分も含めて利益確定することができ、現在の経営者は一時に多額の売却金額を得ることができます。
今後の成長が鈍化する可能性がある場合や、事業継続のリスクが高まっている場合などにおいては、零細企業によるM&A、事業承継、売却などによる会社売却は、有力な選択肢の一つとなります。
零細企業の事業売却による主力事業への集中
零細企業によるM&A、事業承継、売却などを利用すれば、複数の零細企業を経営している場合や複数事業を営んでいる場合に、主力でないビジネスを切り出して売却することができます。
例えば、主力事業の不動産事業の傍ら、飲食店事業を営んでいるような場合、飲食店事業を売却すれば、主力の不動産事業へ経営資源を集中することができます。ノンコアビジネスに時間をかけてしまい、主力事業の業績が落ち込んでしまうことは経営の失敗事例としてよくあることです。
零細企業の経営にとって、零細企業によるM&A、事業承継、売却は、このような場合の経営戦略の一つの手法となります。
零細企業買収のニーズ
国内のM&A件数は近年増加しています。リーマンショック後には景気後退から件数は減少したものの、その後は増加傾向が続いています。
2020年には1年間のM&A件数が4,200件を超え、過去最高となっています。今後も人手不足や後継者問題、戦略的M&Aの広がりなどによって件数は増えることが期待されます。
高齢化や後継者問題の他に、企業のグローバル化が急速に進行していることも、M&A、事業承継、売却が増加している理由の1つです。
企業戦略として、グローバル競争力を高めるために、世界市場を視野に入れてM&Aを行う企業が増えているのです。
最近では、大企業のみならず中小企業が海外企業を買収するというケースも増しています。日本国内にはないノウハウを得ようとする動きが活発化しています。
零細企業によるM&A、事業承継、売却の買い手企業のメリットとしてまず挙げられるのは、零細企業によるM&A、事業承継、買収によって、売り手企業の技術やノウハウを直接的に入手できるということが挙げられます。
新たな事業を最初から立ち上げようとすると、ノウハウの構築や人員の確保に膨大な時間とお金を要します。
しかし零細企業によるM&A、事業承継、売却で買収を行うことで、そのコストを節約し、零細企業から直接的にノウハウを入手することができるので、買い手としては効率的に事業を進めることが可能になります。
また、零細企業によるM&A、事業承継、売却での買収で、買い手企業の会社の規模が大きくなることによって、仕入れなどで扱う量や規模が増えることにより、取引がそれまでに比較して安価でできるようになることも挙げられます
零細企業M&A、事業承継、売却の手法
では、零細企業によるM&A、事業承継、売却の具体的な手法としてはどのようなものがあるのかについて、見ていきたいと思います。
主には、「事業譲渡」「株式譲渡」という方法があります。それぞれのメリット・デメリットについても、合わせて見ていきたいと思います。
事業譲渡
事業譲渡とは、営利目的のために組織化され有機的一体となって機能する資産・負債の全部または一部を譲渡する手法です。
株式譲渡と異なり、零細企業において複数事業を営んでいる場合に、一つの事業だけ売却することもできます。
事業譲渡のメリット
事業譲渡のメリットは、売り手は事業の全てでなく、不必要な事業だけを選んで買い手に売却することが可能であること、買い手側は、売り手の会社全体を引き継ぐということではなく、必要な事業のみの譲渡を受けることになるので、簿外負債を引き継ぐことがないということが挙げられます。
事業譲渡のデメリット
事業譲渡のデメリットは、株式譲渡と比べて、事業譲渡の対象となる資産・負債を個別に移転・承継させる手続が必要であるため、事業譲渡対象となる事業に関係する資産・負債をすべて洗い出さなければならず、譲渡実行までにかかる手間と時間がかかるということが挙げられます。
また、課税対象資産に対して、買い手企業は消費税を負担する必要があります。
株式譲渡
株式譲渡とは、零細企業の発行済株式を買い手が買い取ることで経営権を取得する手法です。
買い手と零細企業の株主が株式譲渡契約書を締結し、直接取引することにより実現されます。
零細企業が株式会社として運営されている場合、零細企業によるM&A、事業承継、売却後も売り手の株主に経営に携わってもらいたい場合、ビジネスの全てを譲渡したい場合などに利用されます。
株式譲渡のメリット
株式譲渡のメリットは、株主総会決議が不要など他の零細企業によるM&A、事業承継、売却スキームと比較して法的手続が簡便であること、零細企業によるM&A、事業承継、売却後も、表面上は株主が変わるだけで零細企業自体は存続できるため、零細企業の社名やブランド名を残すことが可能であること、零細企業に反対株主がいても、零細企業の株式の過半数を取得することで経営権が委譲でき、柔軟な対応ができるということが挙げられます。
株式譲渡のデメリット
逆に株式譲渡のデメリットは、零細企業によるM&A、事業承継、売却の買い手にとっては、零細企業の法人格をそのまま引き継ぐことになるため、簿外負債も引き継いでしまうリスクがあること、零細企業の株主が分散している場合には、M&Aの交渉が難航する場合があるということが挙げられます。
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零細企業のM&A、事業承継、売却の課題
零細企業のM&A、事業承継、売却をするにあたっては、その具体的な方法である「事業譲渡による場合」と「株式譲渡による場合」それぞれに課題があります。それらについて、詳しく見ていきたいと思います。
事業譲渡の場合の課題
手塩にかけて育ててきた企業が末永く続くことは、特に零細企業の経営者にとっては、共通の願いですが、現在、多くの経営者の高齢化を迎えている中で、特に零細企業は、後継者問題に悩んでいます。
多くの零細企業経営者は、子が企業を継がない、他に継ぐ人もいない、しかし、従業員や取引先のことがあるから廃業もできない、といった思いを抱えながら、老いや健康不安と戦いつつ、企業経営を続けているのが現実かもしれません。
こうした現状を背景に、零細企業の事業承継問題の解決策として、零細企業によるM&A、事業承継、売却の活用は非常に効果的であると考えられます。
その理由として、
- 希望の条件を概ね満たす零細企業によるM&A、事業承継、売却の買い手が見つかりさえすれば、後継者不在を理由とした廃業を避けられる点で非常に有益である。
- 零細企業によるM&A、事業承継、売却では、「事業をそのまま引き継ぐ」「従業員は現状のまま雇用」「取引先を継続する」「社名を残す」などの条件で、経営者は変わっても零細企業はこれまで通りに存続することが可能である。
- 現経営者が零細企業によるM&A、事業承継、売却によって売却利益を獲得できることも、経営者の引退後の生活を考えた上では大きなメリットといえる。
- 零細企業によるM&A、事業承継、売却の買い手企業もシナジー効果や新規事業のリスクを軽減できる。
など、零細企業によるM&A、事業承継、売却は一定の条件さえ満たせば、「売り手」「買い手」「売り手の従業員を含むステークホルダー」の三者が WIN-WIN になれる経営戦略上非常に有効な、数少ない手段といえるためです。
零細企業のM&A、事業承継、売却による企業経営の継続は、後継者不在を理由とした廃業を避けられる点だけでなく、企業が存続することによる地域経済、地域雇用への影響の面でも大きいと考えられます。
新規開業が低迷している現在の状況を踏まえれば、事業承継の失敗による廃業と雇用の喪失を防ぐことは大きな社会的課題といえます。零細企業の経営者の高齢化と後継者がいないことから安易に廃業を選択することによって、事業が存続されなければ、技術力やノウハウなどが活用されず、ひいては国力の低下につながることも懸念されます。
零細企業によるM&A、事業承継、売却を活用することにより、これらの懸念を払拭することが可能になると考えられます。
株式譲渡の場合の課題
零細企業によるM&A、事業承継、売却の株式譲渡の場合の課題は、「必要なところだけを切り出して売買することが難しい」という点です。
株式譲渡では、例えば、いくつか業務がある中の、この業務だけ売りたい、買いたいということが基本的にはできません。そのためどうしても売買価格が高くなったり、逆に必要のない赤字部門も引き受けなければならなくなったりすることが起こります。
そればかりではありません。 零細企業ごと買うということは、備品などの資産だけでなく、銀行からの借入金やリース、買掛金、未払金など様々な負債も一緒にくっついてくるということを意味しています。
極端な話、企業そのものは1000万円で買うことができても、同時に1億円の負債を引き受けることも十分ありうるわけです。
そうなると、買い手も零細企業の場合、負担が大きくなってM&A、事業承継、売却の実施に二の足を踏んでしまうこともあると思われます。
零細企業のM&A、事業承継、売却のメリット
零細企業のM&A、事業承継、売却によるメリットとしては、どのようなものが考えられるのでしょうか?
大きくは「企業や事業を継続できる」「赤字や債務超過でも売却可能」「廃業コストがかからない」「売却代金利益の獲得」などが考えられます。それぞれのメリットについて考えてみます。
企業や事業を継続できる
零細企業や個人事業であっても廃業してしまうと、周りへの影響は少なからず出てしまいます。得意先、取引先への影響も大きいですが、特に従業員は新たな職場を探さなければなりません。
しかし、零細企業のM&A、事業承継、売却が成立すれば、経営者が一生懸命続けてきた零細企業の事業の継続も可能になりますし、従業員の雇用も守れます。ただ、廃業してしまうのではなく、後世につなげるというのも経営者としての役目ですから、事業が継続できるように零細企業のM&A、事業承継、売却を考えることも経営者の務めであると言えます。
赤字や債務超過でも売却可能
赤字や債務超過など財務的にマイナスな側面があったとしても、零細企業のM&A、事業承継、売却において、譲渡契約が成立することは珍しいことではありません。むしろ経営手腕のある後継者が購入し、経営立て直しに成功するケースもたくさんあります。
購入の動機は何も、儲かっているからだけとは限らないのです。つまり、人員確保や、販路拡大、多角化戦略などのシナジー効果を検討材料としている零細企業のM&A、事業承継、売却の買い手候補も多くいるということです。
また、借入時の個人保証も肩代わりしてもらえるケースもあります。重要なのは経営状態が悪いから絶対に売却と経営者自身が勝手に判断しないことが重要です。
廃業コストがかからない
事業を廃業する際は廃業コストがかかります。零細企業、個人事業であっても、廃業するために数百万円かかる場合があります。
しかし、零細企業のM&A、事業承継、売却が無事に済めば廃業コストをかけることなく引退することが可能になります。
売却代金利益の獲得
上記でも述べた通り、零細企業がM&Aや事業承継、売却をすれば、経営者は廃業コストをかけずに引退できるわけですが、それにプラスして、経営者はM&Aや事業承継、売却による売却代金を手にすることができます。
事業を閉める(実際は引退する)と同時にコストがかからず、逆に退職金がもらえるというイメージです。
また、起業家であれば、IPOを果たすことは叶わなかったものの、財務内容がいい場合、売却することによる創業者利益が得られます。そして、その創業者利益を利用し、新たなビジネスを立ち上げることも可能です。
零細企業のM&A、事業承継、売却のデメリット
一方で、零細企業のM&A、事業承継、売却をすることでのデメリットも考えられます。
いくつか考えられるデメリットがあるので、実際に零細企業のM&A、事業承継、売却を検討するにあたっては、これらのデメリットを考慮しながら、零細企業のM&A、事業承継、売却を決定する必要があります。
売買交渉で主導権を取られる可能性がある
零細企業のM&A、事業承継、売却における売り手は当然、零細企業、個人事業主なのですが、零細企業のM&A、事業承継、売却の買い手候補が大手企業や優良中小企業の場合があります。
彼らは何度も買収を繰り返している、いわゆるストロングバイヤーの可能性があり、経験も豊富なため、零細企業のM&A、事業承継、売却の交渉において完全に主導権を取られることがあります。
零細企業のM&A、事業承継、売却の売り手も「まあ、損が出ず、いくらかでも値段が付けばいいか」と、考えてしまう場合も多く、そのような場合、買い手のなすがままにされてしまいます。
売り手はM&Aや事業承継、売却の交渉は初めてという方が90%以上なので、当然どう交渉したらいいかなどは分かりませんし、資料の開示や契約書類の取り交わしなども同様です。
そこにつけこまれて、買い手有利に零細企業のM&A、事業承継、売却の交渉をすすめられ、買いたたかれてしまう可能性が高いのです。
これの対処法としては、やはり零細企業のM&A、事業承継、売却のプロである専門家に依頼する方が良いと考えられます。
すべての条件を通すことは困難
零細企業のM&A、事業承継、売却では、売買価格以外にも、売却後の旧経営者や、従業員の待遇、個人保証の肩代わりなど、条件は様々あるわけですが、売り手から提示した全ての条件を買い手にのんでもらうことは非常に難しいです。それは、買い手にも様々な、事情があるからです。
このデメリットは、買い手のデメリットでもあります。買い手側にしても、すべて買い手側の意向に従って、零細企業のM&A、事業承継、売却が決まるわけではありません。
むしろ、お互いの提示した条件下の中で、どうやって折り合いをつけて譲渡契約書にサインするかを模索する方が建設的です。
売却後は買い手の統制下で事業が行われる
当然の話、零細企業のM&A、事業承継、売却をすると、経営権は買い手に移ります。
買収後も旧経営者が、そのまま代表や役員として残るケースもありますが、零細企業の運営は買い手がコントロールするので、零細企業は買い手の経営方針に従わなければなりません。
これは一見デメリットともとれますが、零細企業のM&A、事業承継、売却完了後、買い手の言うとおりに零細企業を運営してみると、零細企業の業績が好転し、役員報酬や給与が上がったというケースもありメリットともとれます。
零細企業のM&A、事業承継、売却では、むしろ、旧経営者は自分が経営してきた事業を、新たな経営者がどう発展させて行くのかを、見守るという姿勢が必要となってきます。
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零細企業のM&A、事業承継、売却の価格
一般的な零細企業のM&A、事業承継、売却の相場は「時価純資産+営業利益の2〜5年分」と言われます。
時価純資産は、零細企業の資産・負債を時価評価した後の純資産のことをいいます。零細企業の資産に含み益のある土地などがある場合には、その含み益も売買価格に反映されます。
例えば、時価純資産が1,000万円、営業利益が年間300万円の零細企業の場合、2年分の利益が300万円×2年=600万円、5年分の利益が300万円×5年=1,500万円なので、合計の1,600万円~2,500万円が相場となります。
営業利益の2~5年分の幅については、M&A、事業承継、売却される零細企業の企業としての歴史、持っているブランド力、財務内容、企業や業界の成長性、その企業の役職員、買い手とのシナジー効果など様々な点が考慮されます。
例えば、社歴の短い零細企業であれば、その零細企業が、今後も同じような業績を継続できるかどうかが不透明であるため、営業利益の2年分までしか評価されないといったことになります。
また、全ての零細企業のM&A、事業承継、売却の結果が相場の範囲内に必ず収まるというわけではありません。零細企業のM&A、事業承継、売却は、買い手と売り手が交渉して行う相対取引であるため、最終的な売買金額はそれぞれの交渉結果によって決まります。
そのため、零細企業のM&A、事業承継、売却の相場を知らない、買い手または売り手のどちらかの交渉力が強いといった場合には、相場から大きく離れた売買金額となることもありえます。
また、零細企業の持っているブランド力が高く、たくさんの買い手候補がいるような場合には、売り手の零細企業の「言い値」で売買価格が決定することさえもありえます。
零細企業のM&A、事業承継、売却の算出方法としては、一般的には、次のような方法が取られます。
コスト・アプローチ
主に売り手零細企業の貸借対照表の純資産に着目して零細企業の価値や事業価値を評価するという方法です。
代表的な手法として、「簿価純資産法」や「時価純資産法」があります。
また、中小企業間や零細企業のM&A、事業承継、売却でよく利用される、純資産に営業利益の2年から5年分を加える手法である「年倍法」もコスト・アプローチに分類されることになります。
一般的な零細企業のM&A、事業承継、売却の相場は、一般的にコスト・アプローチで決められることが多いようです。
簿価純資産法
簿価純資産法とは、会計上の貸借対照表の純資産に基づいて一株当たり純資産の額を計算するという方法です。
簿価純資産法は、株主価値=会計上の簿価純資産(資産の簿価-負債の簿価)で算出します。
会計上の帳簿価額を基礎とした計算でありますので、客観性に優れており、また計算も非常に簡単です。
しかし、純資産の簿価は、特に時価と乖離していることが多く、零細企業の実態としての価値を正確に表すとは言い難いことが多いです。そのため、簿価純資産法をそのまま零細企業の価値の評価に使用することは決して多くありません。
時価純資産法
時価純資産法とは、貸借対照表の資産負債を時価で評価し直すことによって純資産額を算出し、それによって割り出した一株当たりの時価純資産額を株主価値とする方法です。
時価純資産法では、株主価値=資産の時価-負債の時価で株主価値を算出します。
ここでいう時価には、算定時期の資産の売却可能価格のみでなく、将来に回収可能な価格なども含みます。
簿価純資産法と同じように、貸借対照表の帳簿の価額から算出する計算方法を用いるので、客観性や簡便性には優れています。
なお、実際には、全ての資産や負債を時価で評価することは手間もかかり、困難であるため、棚卸資産、土地や有価証券などの主要資産の含み損益のみを時価で評価し、その他の資産負債は帳簿価額をそのまま使用して算出する方法を利用することが多いです。その場合、その算出方法を修正時価純資産法と呼ぶこともあります。
零細企業の経営が、赤字が続く等により、将来収益の予測が困難である場合や、M&A、事業承継、売却の対象の零細企業に超過収益力が認められないような場合においては、インカム・アプローチやマーケット・アプローチに基づく評価は相応しいとは言えず、コスト・アプローチによる価格算定を採用することが適切だと言えます。
零細企業を対象としたM&A、事業承継、売却の場合、事業環境が不安定で、インカム・アプローチの方法の1つであるDCF法を適用するために、事業計画などを見て、将来を予測することが困難なケースが多く見られるため、コストアプロ―チによる企業価値の評価を行われることが多いというのが実情です。
また、資産負債の時価の評価は、M&A、事業承継、売却の買い手による買収価格算定の過程で実施される、財務デューデリジェンス(DD)などにおいて詳細に調べられることになります。
土地や不動産など多額の含み益がある資産を保有している場合には、時価純資産が簿価純資産より大きくなるのが一般的です。
他方で、零細企業が法人税法の申告を目的として作成した財務諸表では、実際には、法人税法では費用(損金)の計上が認められない資産の含み損や簿外債務が存在しているにも関わらず、法人税法の申告を目的とした財務諸表の資産負債の金額には反映されていない場合があります。
時価純資産法では、これらの資産負債を実際に回収可能な金額で評価するため、これら含み損などを反映することになった結果、時価純資産が簿価純資産より小さくなるケースもあります。
具体的には、回収不能な売掛金や帳簿価額で販売することが困難な余剰在庫などのいわゆる不良資産や、従業員への退職金の支払い義務があるのにもかかわらず退職給付債務が未計上となっているなどの簿外債務があげられます。
また、過去に法人税の申告で費用(損金)に計上されている費用が、税務リスク(過去に法人税の申告において損金として計上していた費用が、将来、税務調査が入った場合に損金の計上が認められないといった可能性など)が高く、将来に追加で税金を負担するということが相当の可能性で見込まれるような場合に、追加の税金負担見込額を負債として計上するといったケースもあります。
零細企業のM&A、事業承継、売却を考えている経営者の方は、こうした状況は、経営者として概括的に把握していても、実際に細かく金額で、各項目を評価してみると、想定より損が大きくなるケースもあるため注意が必要です。
時価純資産法に数年分の利益を加算する方法
時価純資産法(又は簿価純資産法)により算定した純資産に、任意の利益の数年分を加算した金額を零細企業の価値とする場合があります。この方法は、「年倍法や年買法」などと呼ばれます。
年倍法は、企業価値=時価純資産+直近年度の営業利益等×2~5年で算出されます。
なお、加算対象とする利益の種類(営業利益にするのか経常利益等にするのか)及び年数(通常2~5年)は当事者の交渉によって決まるケースが多いです。
零細企業の業種や規模による収益の安定性、零細企業のM&A、事業承継、売却後の経営者への報酬の有無などが加味されて決定されます。
例えば、技術革新のスピードが早く3年後の事業環境の見通しが立ちにくい分野での事業であれば、将来5年分の利益を加算する算出方法が取られることがないということは、考えられやすいと思われます。
また、零細企業のM&A、事業承継、売却後も売り手企業の経営者が相談役などの立場で関与して、役員としての報酬が継続的に発生する場合には、売り手企業の経営者の報酬がゼロになる場合に比べ加算される利益金額は小さくなることは当然でしょう。
年倍法は、直近の財務諸表に時価の調整を加えて把握可能な時価純資産(過去の利益の積み上げ)を割り出した上に、一定年数の将来の利益予測も加えることが出来る比較的簡単な方法といえます。
年倍法は、簡便性が高い分、評価の過程を合理的に説明することが可能とは言い難い部分もあり、投資家などへの説明が求められる上場企業が実施する大規模なM&Aでは適用されるケースはあまり見られません。
利益の修正方法としては、役員報酬を業界の平均値へ修正する、零細企業のM&A、事業承継、売却後に見込まれる役員の移動に伴い、解任される役員の保険料などの役員関連費用が加算されるというようなことをイメージすると修正の仕方の理解がしやすいと思います。
インカム・アプローチ
インカム・アプローチは、企業が将来生み出すことが期待される、キャッシュ・フローや利益に基づいて企業の価値を算出する方法です。
その中でよく使われる手法として、DCF法や収益還元法があります。
DCF法は、その計算の仕組みから、現在、最も合理的な企業価値の評価方法と言われています。
特に上場会社が買い手としてM&Aを行うケースでは、のちに企業買収の価格の妥当性などについて、自社の投資家だけではなく、売り手企業の株主をなどの様々な利害関係者への説明責任が課されるため、企業価値の評価過程をより合理的に説明することが容易なDCF法による評価結果が重要視される傾向にあります。
DCF法
DCF(Discounted Cash Flowの略)法とは、事業によって将来生み出されるキャッシュ・フローを、加重平均資本コストで割り引いて算定される現在価値の合計とすることによって、企業価値を評価するという方法です。
DCF法は、企業価値=対象企業の将来フリー・キャッシュ・フローの期待値÷加重平均資本コストの合計で算出されます。
DCF法は主に投資の業界などで用いられる特殊な考え方なので、特に将来キャッシュ・フローの現在価値への割引計算になどについては、理解が難しいという人が多いようです。
DCF法を理解するためには、まず、「DCF法による企業価値は、その事業が将来生み出すキャッシュ・フロー(利益)の合計(正確にはその割引現在価値の合計)である。よって、将来のキャッシュ・フローが大きくなるほど、企業価値は大きくなる」、と概略の意味合いを捉えることができると、DCF法の理解がしやすいと思います。
上記の通り、DCF法では利益や純資産などの過去の実績数値よりも、将来の利益の見込みなどの情報の方が重要視されます。
DCF法によれば、M&A、事業承継、売却対象企業の将来の収益獲得能力や超過収益力など、その企業固有の収益性の性質を企業価値に反映することができます。
企業買収は、事業の拡大や成長による利益拡大を目的として行われることが多いので、将来生み出す利益やキャッシュ・フローの大きさが企業価値に直接的に反映されるDCF法は、企業価値の評価方法としては極めて合理的と言えます。
特に上場会社によるM&A、事業承継、売却での企業価値の評価の手法としてのDCF法は、現在では、最もポピュラーな方法だと言えます。
また、貸借対照表に計上することができない特許等の知的財産や技術といった無形の資産が価値の源泉の大部分であるといった企業の価値の評価にはDCF法は特に適していると言えます。
しかし、DCF法は、評価の過程で事業計画をはじめとした将来の見積りの数値を多く含むことになるため、将来予測やその実現可能性の見積りへの恣意性を排除することが難しく、当事者間で見積りの認識に差が生じやすいため、価格交渉が難航することもよくあります。
また、計算プロセスが複雑で、その専門性が高いため、評価のための時間や費用が多額になる傾向があることや、専門的な知識がなければ、出された評価結果が適正であるのかどうかを直感的に理解しにくいということもデメリットと言えます。
このようなことから、DCF法は、零細企業のM&A、事業承継、売却においてはあまり使われることがない方法とも言えます。
配当還元法
配当還元法は、将来の株主への配当金に基づいて株主価値を評価するという方法です。
配当還元法は、株主価値=将来配当の期待値÷株主資本コストで算出されます。
なお、配当還元法で零細企業のM&A、事業承継、売却の時の買収の価格(金額)を算出するケースはそれほどみられません。
その理由としては、配当金の金額は売り手の経営者が自由に決めることができるので、恣意的に配当金額を操作して、売却価格を高く設定することが可能であること、配当が見込めない成長企業の場合、株主価値の計算が困難になることなどが挙げられます。
マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチは、上場している同業他社や類似取引事例などから、対象企業の価値や事業価値を推定計算する方法です。
代表的な手法としては、「市場株価法」、「類似会社比較法(マルチプル法)」、「類似取引比較法」があります。
市場株価法
証券取引所などに上場している会社の株式の市場価格を基準に株主価値を評価するという方法を市場株価法と言います。
市場株価法は、株主価値=株式市場における株式時価×株式数で算出されます。
この手法は、企業価値を算定するのに、市場での取引環境を反映できることや、価格算定の客観性には優れている方法といえます。
他方で、企業価値を算定する企業と事業や成長状況が類似する企業が存在しないなど、固有の性質を反映させることができず、この手法を適用することが難しいケースもあります。
市場株価法は、当事者企業の株価が市場で明らかな上場企業同士の合併での合併比率や株式交換比率などの算定に利用されることが主な場合になります。
零細企業のM&A、事業承継、売却の場合、上場している株式の市場取引価格というものがないので、この方法を取ることは実質的に不可能になります。
類似会社比較法(マルチプル法)
類似会社比較法とは、類似会社の市場価格と比較して、非上場会社の株式を評価するという方法です。倍率法やマルチプル法などとも呼ばれます。
類似会社比較法は、株式価値=指標となる一株当たり財務数値×指標に対する倍率で算出されます。
指標となる一株当たり財務数値は、上場会社では株価との相関を直接観察できるPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、収益指標(税引後利益、EBITDA、売上)や純資産(簿価純資産や時価純資産)などの数値が使用されます。
市場での取引環境を反映することができるので、算定結果に一定の客観性が認められる方法です。
一方で、市場株価法と同じように、対象企業と類似する企業が存在しない場合など、固有の性質を企業価値評価に反映できないケースもあります。
M&Aのマルチプル法(類似会社比較法)は、類似上場企業の倍率を利用し、対象会社の価値を評価する方法であり、高い客観性が長所の価値算定方法です。
しかし、そもそも零細企業のM&A、事業承継、売却の場合、市場価格があるような類似会社を見つけることが極めて難しく、また算出方法も非常に複雑なため、あまり採用されることはないと思われます。
零細企業のM&A、事業承継、売却の注意点
次に、零細企業がM&A、事業承継、売却を行う場合、どのようなことに対して注意をして進める必要があるかについて、見ていきたいと思います。
情報漏洩
零細企業のM&A、事業承継、売却を実施する場合、経営者は、零細企業のM&A、事業承継、売却の専門家や買い手に対して自社の情報を提供しなければなりません。
提供しないといけない理由は明らかで、零細企業のM&A、事業承継、売却の買い手は、売り手からの情報を元に、その零細企業を買収できるか否かの経営判断を行うためです。
一方で、零細企業のM&A、事業承継、売却で扱う情報は、経営に関わる機密情報であり、情報漏えいしてしまった場合には、大きな損害を被ってしまうというリスクがあります。
また、零細企業のM&A、事業承継、売却のプロセスを進めている最中に、従業員や取引先にM&A や事業承継、ばいきゃくの話が広まってしまった場合には、買い手に、従業員の退職や取引条件の変更を見直されてしまうなどのリスクも生じます。
経営者は、社内への情報管理を徹底し、社外など他人の耳に触れる可能性のある場で零細企業のM&A、事業承継、売却の話はしないように徹底する必要があります。
情報の漏えいリスクを下げるために、社内役員など限られたメンバーのみの情報共有とする、零細企業のM&A、事業承継、売却の専門家や買い手候補とは必ず秘密保持契約書を締結するといった対策が必要となります。
社員のモチベーション維持
零細企業の場合、オーナー経営者と従業員の距離が緊密であるというのが普通です。そのため、零細企業のオーナー経営者がM&A、事業承継、売却を考えていたと知った際は、従業員に大きなショックを与えかねません。
ショックの大きさによっては、従業員の大きなモチベーション低下や、最悪の場合には零細企業の従業員が離職してしまいます。
零細企業のM&A、事業承継、売却の買い手としては、従業員が離職してしまえば、零細企業の買収後に今までどおり事業を継続することができなくなるリスクが高まります。
そのため、零細企業のM&A、事業承継、売却のプロセスの中で売り手と買い手が話し合い、上記のリスクを回避するための対策を練ることが重要です。
従業員の個性や零細企業の社風をよく理解しているのは、零細企業のM&A、事業承継、売却の売り手側ですので、売り手が綿密に計画を立てて社員のモチベーションの維持を実行する必要があります。
零細企業のM&A、事業承継、売却に強い専門家に相談する
M&A、事業承継、売却の専門家はそれぞれに得意な分野があり、大企業M&Aに強いところと中小零細企業のM&Aに強いところがあります。
零細企業のM&A、事業承継、売却を成功させるには、零細企業のM&A、事業承継、売却に強い専門家を選ぶことが大切です。
たとえ大手で実績豊富な専門家でも、大企業M&Aがメインだと零細企業のノウハウがなく、満足いくサポートが得られないことがあります。
また、零細企業のM&A、事業承継、売却に強い専門家は手数料を安くしているところが多く、コスト面の負担を抑えられるメリットもあります。
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まとめ
以上のとおり、零細企業の経営者は、大企業のM&A、事業承継、売却との違いを意識しながら、M&A、事業承継、売却を進める必要がありますので、よく留意しつつ進めてください。