黄金株のメリットとデメリットとサンプルについて!
中小企業の事業承継において、いきなり後継者に全権限を渡してしまうのが不安というオーナーの方も多いでしょう。そうしたケースで、後継者に対するブレーキ的な役割として活用できるのが「黄金株」です。
この記事では、黄金株の概要と事例の紹介、メリット・デメリット、発行方法などを解説します。メリットとデメリットを踏まえたうえで、導入の検討にお役立てください。
黄金株とは
「黄金株」とは通称であり、正しくは「拒否権付種類株式」と呼ばれ「種類株式」のひとつです。次のような特徴があります。
- 株主総会や取締役会で決議された事項に対して拒否権を持つ
- 1株しか発行できない
黄金株は、たとえば、事前にメインバンクなどの友好的な株主へと割り当てておけば、敵対的買収に遭ったときに、買収者の提案を株主総会にてたった1株で否決してもらえるほどの威力があります。
どの決議事項に対して拒否権を持つのかは、自由に設定可能です。
種類株式とは
株式には、株式の内容や数に応じて株主を平等に扱わなければならないという「株主平等の原則」(会社法109条)というものがあります。たとえば、株式の内容(種類)が同じであれば同等に扱い、1000株で1万円の配当がつく場合には2000株なら2万円の配当といったように、保有する株式数に応じて扱うといった内容です。
裏を返せば、株式の内容(種類)が異なれば、株主への扱いは異なることになります。株式会社は9種類の種類株式を発行することができ(会社法108条)、そのうちのひとつが黄金株である「拒否権付種類株式」となります。
種類株式を発行する場合、通常の株主総会とは別に、種類株主が出席する種類株主総会も開催します。つまり、黄金株を発行する場合には、拒否権付種類株主総会を開催することになり、通常の株主総会で決議された事項も、拒否権が設定されている事項であれば、拒否権付種類株主総会にて可決・否決のどちらも可能です。
黄金株を採用している事例
黄金株は、拒否権を持つという特徴から、事業承継時に非上場企業で採用されるケースが見られます。黄金株はどのように活用されているのか、上場企業と非上場企業における事例を紹介します。
日本の上場企業では1社のみ
黄金株の威力は大きく、ひとりの株主に権限が集中してしまう特徴があるため、先述した株主平等の原則に反するとみなす考え方があります。
実際に、2006年の会社法施行により黄金株が採用された際に、東京証券取引所は黄金株を採用する企業に対して上場を承認しないという方針を公表したことがありました。黄金株のみに拒否権が付随しているのは平等ではないという考えからです。
結局、東京証券取引所は一定の条件のもとであれば黄金株を承認するよう方針変更しましたが、そうした背景もあってか、日本の上場企業で黄金株を保有しているのは国際石油開発帝石の1社のみです。経済産業大臣(政府)が黄金株と約19%の株式を保有しています。
国際石油開発帝石はなぜ黄金株を保有しているのでしょう。もともとは国のエネルギー供給を安定させるための国策会社だったという背景から、海外のエネルギー企業による買収を防ぐために黄金株の保有が承認されているためです。
非上場企業では事業承継時に採用されるケースも
一方、株主平等の原則をそこまで厳密に考えなくともよい非上場企業では、事業承継において黄金株を採用する動きが見られます。
子どもに会社を引き継ぐうえで、経営者としての子どもの成長を見守りながら段階的に事業承継を行いたいと希望する人がいます。そうした場合にとられるのが、先代オーナーが2〜3年程度と期限を定めて黄金株を保有し、重要な議決のみ介入するという方法です。または、メインバンクなどの会社に友好的な立場をとれる第三者に、お目つけ役として黄金株の保有を依頼する方法もあります。
黄金株のメリット
黄金株には、大きく「事業承継」「敵対的買収」の2つの場面において活用できるというメリットがあります。
事業承継を段階的に行える
先述したように、先代オーナーが子どもなどの後継者に会社を引き継ぐうえで、後継者の経営者としての力量に不安を覚えるケースでは、期間を定めて先代オーナーやメインバンクなどに黄金株を発行して介入を行うことで、経営判断上の致命的なミスを防ぐことが可能です。
つまり、先代オーナーが後継者の経営に対してブレーキ的な役割を果たすことができるのですが、後述するようにこの点がデメリットになることもあります。
敵対的買収における防衛策として活用できる
敵対的買収とは、買収の対象となる会社の経営陣から事前の同意を得ないで、一方的な買収を行うことです。敵対的買収において買収を行う側は、買収先の会社を乗っ取るために大量の株式を買い付けますが、買収側が大量の株式を取得できても、黄金株をもつ株主が議決事項を拒否すれば、買収側が方針を貫き通すことはできません。
黄金株は敵対的買収の対抗策としては効果がありますが、実際には黄金株のほかにも効果的な対抗策はいくつもあるため、実際に敵対的買収を防衛するうえで黄金株が採用された事例はあまり見られません。
黄金株のデメリット
黄金株の活用を検討するうえで、デメリットも押さえておきましょう。
拒否権が濫用されると経営上のマイナスに
先述したように、事業承継において先代オーナーが後継者の経営に対してブレーキをかけられるということは、後継者の経営に制限がかかるということでもあります。
先代オーナーが、自らは一線を退いた身であることを自覚して、あくまで現オーナーのサポートに徹することができれば、黄金株の発行は有効かもしれません。しかし、後継者に完全に事業を引き継ぐという意識を、先代オーナーがいつまでも持てないまま、拒否権を濫用してしまえば、会社の経営にはかえってマイナスになります。
また、黄金株において、どの決議事項に対して拒否権を持たせるかは、商業登記上で公開されます。そのため、拒否権の対象が多かったり重要な事項ばかりが対象になっていたりすると、登記を閲覧する取引先によっては、事業承継が進んでおらず社内が対立しているととられる可能性もあります。
黄金株の株主が認知症などで正しい判断が下せなくなるケースも
事業承継などで、先代オーナーが黄金株を保有する場合、高齢化による認知症で意思表示が困難になるケースがあります。
こうしたケースに備えて、黄金株を取得条項付株式にしておくという対策も可能です。取得条項付株式とは、ある事柄(取得事由)の発生を条件に、会社が一方的に株主から買い取りができる株式を指します。
しかし、取得事由を「認知症の診断」にすると自らを認知症とは思いたくない株主と揉めたり、「成年後見等の審判開始」にしても株主本人や家族がこれだけのために成年後見制度を利用する手間が生じたりなど、取得事由の設定が難しいという問題があります。
相続により友好的でない人物に渡るケースも
相続によって、黄金株が会社に対して敵対的な人物に渡ってしまう可能性があります。たとえば、黄金株を持つ先代オーナーは長男と不仲なため、次男に事業承継したところ、先代オーナーの急死により黄金株が長男に相続されてしまったというケースなどが考えられます。
他の株主が不満を抱くケースも
株主平等の原則もあり、黄金株だけに拒否権がついているのは平等ではないと考える人もいます。たとえば、親から長男・次男に同数の株式が相続されても、長男が黄金株を相続している場合には、たとえ株式数が同じであっても長男が優遇されていると、次男が不満を抱いてトラブルになる可能性があります。
事業承継税制が適用されない
事業承継税制とは、事業承継によって後継者や会社が取得した一定の資産において、納税が猶予される制度です。先代オーナーなど、後継者以外の人が黄金株を保有している場合には事業承継税制が適用されないため、適用を検討している人は注意が必要です。
黄金株の具体的内容(条項のサンプル)
発行済株式の総数
並びに種類及び数 |
発行済株式の総数 6万株
各種の株式の数 |
資本金の額 | 金300万円 |
発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容 | 普通株式 12万株 A種株式 12万株 (1)議決権 ① 普通株式を有する株主は、会社法が規定するところにより当会社の株主総会において議決権を行使することができる。 ② A種株式を有する株主(以下「A種株主」という)は、株主総会における決議事項のすべてについて議決権を行使することができない。 (2)種類株主総会 当会社は、会社法322条第3項ただし書きの場合を除き、同条第1項に定めるA種類株主による種類株主総会の決議を要しない。 |
黄金株の発行方法
拒否権付種類株式である黄金株を発行するには、種類株式の発行を定款で定めて(定款変更)、株主総会での特別決議を得る必要があるため、ややハードルが高いです。
定款で定める必要があるのは次の事項です。
- 種類株式の内容(拒否権を設定する決議事項など)
- 種類株式の発行可能株式における総数
種類株式の内容とは、拒否権付種類株式の発行にあたって、代表取締役の選定や合併など、どのような決議事項において種類株主総会での決議が必要かなどの具体的な内容について、定款に設定します。
黄金株の発行手続きにおいて、上記の定款変更は共通して行いますが、それ以外の手続きは次の2つのケースで異なります。
- 一部の発行済株式を黄金株へと変更
- 黄金株を新規で発行
一部の発行済株式を黄金株へと変更
次の手続きが必要です。
- 定款を変更し株主総会にて決議を得る
- 黄金株の株主と、普通株式から黄金株への変更に関して合意書を作成する
- 変更登記を行う
変更登記は、黄金株の内容・発行可能株式総数、(普通株式における黄金株への変更を受けて)発行済株式の総数・種類・種類別の数について登記します。
黄金株を新規で発行
次の手続きが必要です。
- 定款変更と募集事項の決定に関して、株主総会にて決議を得る
- 黄金株の引受先に募集事項を通知し、申込みをしてもらう
- 黄金株の割当てを行い、払い込みを受ける
- 変更登記を行う
募集事項とは、新しく発行する株式において、発行株式の種類や数(この場合は黄金株1株)、払込期日と払込金額、資本金ないし資本準備金の増加に関して、株主総会で決議を得ます。
黄金株の申込みを受けたら、払込期日の前日までに、割当株式数を申込者へと通知したうえで、黄金株の割当てを行います。
変更登記は、(新規株式発行によって増加した)資本金総額、黄金株の内容・発行可能株式総数、発行済株式の総数・種類・種類別の数について登記します。
まとめ
黄金株は、中小企業の事業承継において、上手く活用できれば後継者をサポートする有効な手段になります。
しかし、先代オーナーなどの株主による拒否権の濫用や、株主の高齢化により意思表示が困難になった場合や、相続により予期せぬ人物に黄金株が渡った場合など、デメリットがもたらす被害を想定して、事前に対策を講じる必要があります。発行においても、定款変更と株主総会での特別決議が必要などとハードルが高いです。
そのため、黄金株の活用を検討しているなら、まずは専門家に相談するのが近道です。状況によっては、黄金株以外の方法が適しているケースもあるため、総合的な診断を受けることで事業承継もよりスムーズに運ぶでしょう。