持株会社化(ホールディングス化)のメリットとデメリット
「持株会社(ホールディングス)」とは
非公開会社の事業承継を進めるに際して、「持株会社化(ホールディングス化)」という手法を用いることがあります。
この「持株会社スキーム」を利用すると、事業承継に伴って生じる様々な問題を回避することができます。具体的には、事業承継手続きを簡略化したり、後継者への贈与税・相続税を節約することが可能となります。さらには、株式の分散による経営権の低下を予防することも可能です。
なお、ここでいう「持株会社」とは、「株式の保有・管理」を主な目的として設立される会社のことです。別の会社の「大株主」として、法的には「親会社」という地位を有することになります。
持株会社は一般的な「事業会社」とは異なり、具体的なビジネスを行うことは原則としてありません。持株会社自身が事業を行うのではなく、子会社から株式の配当金を受けることによって利益を上げます。
複数の関連会社(グループ会社)の株式を保有・管理することで、いくつかの子会社をまとめて傘下に収めることも可能です。そのような場合を指して、特に「ホールディングス」と呼びます。
「ホールディングス」の具体的な例としては、有名な大手企業が「〇〇ホールディングス」という名称を用いているケースを、いくつも思い浮かべることができるでしょう。こうした例を考えると、「持株会社スキーム」は中小企業には無縁な話のように思えるかもしれません。
しかし、小規模な非公開企業の事業承継においても、「持株会社スキーム」は非常に有効な手法として活用されています。そこで、事業承継における「持株会社化(ホールディングス化)」の利用法について、詳しく見ていくことにしましょう。
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「持株会社(ホールディングス)スキーム」による事業承継の進め方
「持株会社スキーム」による事業承継のポイント
それでは、「持株会社スキーム」を用いた事業承継の内容について、そのポイントを確認しましょう。
そもそも通常の事業承継においては、先代経営者が保有する自社株式を、後継者へと直接に移転します。
先代経営者が生きているうちに後継者へ「贈与または譲渡」する場合もありますし、先代経営者の死去に伴い後継者が「相続」するケースもあります。いずれの場合においても、先代経営者が保有していた株式を後継者へ移転する際に、様々な問題が発生することになります。
たとえば株式の譲渡・贈与・相続に伴い、各種税金の負担が必要になります。あるいは、会社の株式が後継者以外に分散して、経営権が後継者から分散してしまう危険性も考えられます。また、株式を後継者へ有償譲渡する場合は、そもそも後継者が買い取り資金を用意できないという可能性もあります。
こうした問題を回避するために、持株会社スキームにおいては「持株会社の設立」というワンクッションを挟みます。株式を後継者に対して直接移転するのではなく、持株会社を介して間接的に移転するという点が、「持株会社スキーム」の最大のポイントなのです。
具体的な手続きの流れ
たとえば、甲社の先代経営者であるAが、息子であるBを後継者とする事業承継を検討している、という例を念頭に置いて考えてみましょう。
この場合、通常の事業承継では、Aが保有する甲社株をB自身が直接承継します。具体的には、AがBに対して甲社株を譲渡・贈与するか、Bが甲社株を相続することになります。
これに対して「持株会社スキーム」においては、まず後継者であるBが、持株会社となるべき乙社を新たに設立します。その後、先代経営者であるAが、その保有する甲社株を乙社に対して売却します。
典型的な例としては、先代が保有していたすべての甲社株を、乙社へ売却することが考えられます。そうすることで、甲社は乙社の完全子会社となります。裏返せば、乙社は甲社の大株主として、甲社の経営権を掌握することになります。
一方で、甲社の親会社となった乙社は、設立者である後継者Bによって経営されています。すなわち、乙社を間に挟む形にはなっていますが、実質的には「後継者Bが甲社の経営権を掌握する」という結果が導かれているのです。
このようにして「持株会社スキーム」を利用することで、甲社株を後継者Bに対して移転することなく、甲社の経営権を実質的にBへと移譲することが可能になります。
株式買い取り資金は銀行からの融資でまかなう
ところで、持株会社である乙社は、先代経営者Aから甲社株を買い取るための資金を、一体どのようにして用意するのでしょうか。
この点、後継者Bが潤沢な資金力を有しているならば、自分自身で買い取り資金を準備すればよいでしょう。しかし、現実にはそうしたケースは決して多くないはずです。
多くの場合、乙社名義で銀行からの融資を受けて、甲社株の買い取り資金を用意します。そして融資の返済は、子会社となった甲社から受ける配当金を原資として行います。
万が一、甲社の事業が暗礁に乗り上げてしまったとしたら、乙社は甲社から満足に配当を受けることができなくなります。そうすると、銀行からの融資を返済する当てがなくなってしまいます。
このように「持株会社スキーム」は、事業会社のビジネスが順調に進むことを前提に組み立てられているのです。
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「持株会社(ホールディングス)スキーム」による事業承継のメリット
次に、この「持株会社スキーム」のメリットについて、詳しく見ていきましょう。
株式について相続税を節税することができる
持株会社スキームのもっとも典型的な例として、先代経営者が保有していたすべての株式について、持株会社へ譲渡するということが考えられます。
このケースでは、先代経営者が死去したとしても、株式について相続が一切発生しないことになります。持株会社へ譲渡した株式は、もはや先代経営者の遺産ではないからです。
このように株式について相続が発生しないということは、それだけ相続税の負担を免れることができるということでもあります。つまり、事業承継に先立ってあらかじめ持株会社へ株式を譲渡しておくことで、相続税を節約することができるのです。
相続による株式の分散を防止する効果がある
株式について相続が発生しないということは、会社の経営権を後継者に集中させるという意味でもメリットがあります。
というのも、仮に株式が相続の対象になった場合、後継者以外の相続人が有する「遺留分」を侵害しないようにする必要があるからです。
そもそも「遺留分」とは、兄弟姉妹を除く相続人に保障された「最低限の取り分」のことです。
たとえば、先代経営者の死亡時に、後継者となる子どもAの他に、もう一人の子どもBがいたとしましょう。先代経営者の妻はすでにこの世におらず、相続人となるのはA・Bのみだったとします。
この場合、特に先代経営者の遺言がない限り、AとBは2分の1ずつ遺産を相続することになります。これを「法定相続分」と呼びますが、この法定相続分のさらに2分の1が「遺留分」として扱われます。つまりAとBに保障されている「最低限の取り分」は、それぞれ遺産の4分の1ずつということになります。
つまり、先代経営者が保有していた株式について相続が発生した場合、最低でも4分の1を「遺留分」として、後継者でないBに相続させる必要があるのです。裏返すと、後継者Aの取り分は4分の3ということになります。
後継者以外の相続人の数が多いほど、後継者の取り分は減ってしまいます。それだけ会社の経営権が分散し、後継者が会社経営をコントロールできなくなるリスクが生じてしまうのです。
この点、「持株会社スキーム」によって株式について相続を発生しないことにすれば、「遺留分」による経営権分散リスクを回避することが可能になります。
贈与税や譲渡所得税を節税する効果がある
通常の事業承継において、株式を後継者へ承継させる手段は、相続だけではありません。先代経営者が保有していた株式を、後継者へ無償贈与あるいは有償譲渡することも考えられます。
この場合、株式の贈与ないし譲渡を受けた後継者に対して、贈与税あるいは譲渡所得税が課税されることになります。
この点、「持株会社スキーム」を活用して事業承継を実施すれば、株式を後継者に対して承継させる必要がありません。先代経営者が保有していた株式は、後継者ではなく持株会社に対して譲渡されるからです。
つまり、「持株会社スキーム」によって株式を持株会社へ譲渡すれば、後継者に対する贈与税あるいは譲渡所得税の課税を回避することができます。このように、「持株会社スキーム」には相続税以外の節税メリットも認められるのです。
先代経営者の保有する株式を現金化することができる
先代経営者の立場からすると、「保有株式を現金化できる」というメリットも挙げられます。
そもそも非公開会社の株式は、株式市場への公開を前提としていない以上、自由な譲渡によって現金化することが難しいという性質を持っています。そのため、株式を売却する相手を見つけることが容易ではありません。
この点、「持株会社スキーム」を活用した事業承継においては、株式を持株会社へ売却することで現金化することが可能になります。なお、先代経営者へ支払われるお金の原資は、持株会社が銀行から受けた融資です。
容易に売却できない自社株を現金化して、引退後の生活資金に充てたりすることができるという点は、先代経営者にとって「持株会社スキーム」の大きなメリットだと言えるでしょう。
先代経営者の個人資産の評価額を低く抑えることによる節税効果がある
保有株式の現金化には、先代経営者および後継者にとって相続税対策という面もあります。
たとえば、「先代経営者が保有株式を現金化しないまま亡くなった」というケースについて考えてみましょう。この場合、亡くなった先代経営者の遺産には株式が含まれるため、遺産の価値は会社の業績によって左右されることになります。
もし会社の業績が好調で株価が上昇していたとしたら、それに伴って先代経営者の遺産の評価額も高くなります。遺産の評価額が高くなると、そのぶん相続税も割高になってしまいます。
これとは逆に、「持株会社スキーム」を通して保有株式の現金化を済ませておけば、先代経営者の個人資産額は、現金化の時点で固定されることになります。
その後、会社の業績が好調となり株価が上昇しても、先代経営者の個人資産の評価額に影響を与えることはありません。先代経営者が亡くなったとしても、相続税の額が株価上昇のあおりを受ける心配はないのです。
そもそも、事業承継に「持株会社スキーム」を用いるためには、持株会社への安定的な配当が可能なことが前提とされています。つまり「持株会社スキーム」を活用するようなケースでは、事業会社の株価の上昇が見込まれることが多いのです。
このような場合に、保有株式を現金化して個人資産の評価額を株価から切り離すことには、非常に重要な意義があると言えるでしょう。
持株会社の株価を低く抑えることによる節税効果がある
事業承継における「持株会社スキーム」では、持株会社は後継者によって設立されるのが一般的です。もっとも、先代経営者が持株会社を設立するケースも存在します。
特に、ひとりの経営者が複数の会社を経営しているような場合には、後継者が決まるよりも前の時点で、先代経営者自身の手で持株会社を設立しておくことが有効です。
なぜなら、複数の会社を一人で経営している場合は、株式の分散リスクが非常に大きくなります。そのため、早い段階で株式をひとつの持株会社へ集約しておくことが、事業承継の準備として不可欠になるからです。
そして、先代経営者自身の手で持株会社を設立することには、節税という点でも大きなメリットがあります。
というのも、持株会社を設立するには、株式の買い取り資金を準備するために銀行から融資を受けることが必要です。この「株を買うために借金をした」という事実が、株式の評価額を低く抑えるために役立つのです。
株価の算定方法には様々なものが存在しますが、その根底には「株価=(企業価値-負債価値)÷発行済株式総数」という考え方があります。つまり、負債(=借金)の額が大きいほど、株価を抑えることができるというわけです。
このように、「銀行から借金をして持株会社に株式を集約した」という事実によって、持株会社の株価を低く抑えることができます。
そして事業承継の際には、この持株会社の株式を後継者へ移転することになります。その際に課税される贈与税・相続税等の税額についても、持株会社の株価を低く抑えたことに伴って節税が可能となるのです。
株式買い取り資金の準備として銀行から融資を受けることができる
「持株会社スキーム」には、事業承継の金銭的なハードルが低くなるというメリットもあります。
通常の事業承継では、先代経営者と後継者との間で直接、保有株式の移転の手続きを行う必要があります。有償譲渡であれば、後継者が先代経営者から保有株式を買い取るという形式をとるため、後継者は買い取り資金を自分自身で用意しなければなりません。
これに対して「持株会社スキーム」を活用した場合は、事業会社から持株会社へ支払われる配当金を返済原資にするという計画を前提として、株式買い取り資金を銀行から借りることが可能となります。したがって、後継者が自前の資金を用意できない場合でも、「持株会社スキーム」を活用することで事業承継が実施できるようになるのです。
傘下にある複数の関連会社をまとめて事業承継することができる
複数の関連会社を一つの持株会社の傘下に収める「ホールディング」方式の場合、関連会社を一括して事業承継することが可能になるというメリットがあります。
もしも持株会社を設立していないとすると、複数の関連会社をまとめて事業承継するには、1社ごとに株式移転の手続きをとる必要があります。各社で株主総会を開き、個別に株式譲渡承認手続きをとらなければならないというように、手続き的な負担がかなり大きくなります。
これに対して、持株会社を設立した「ホールディング方式」の場合、持株会社1社の株式について譲渡承認手続きをとりさえすれば、事業承継が可能となるのです。持株会社を設立しない場合に比べて、非常にシンプルな手順で事業承継できるので、非常に便利だと言えるでしょう。
「持株会社(ホールディングス)スキーム」による事業承継のデメリット
最後に、「持株会社スキーム」を用いた事業承継のデメリットについても見ていきましょう。
事業会社のビジネスが不調になるとスキームが破綻する
事業承継における「持株会社スキーム」は、事業会社のビジネスが順調であることを前提とするものです。なぜなら、「持株会社スキーム」において銀行が持株会社に対して行う融資は、事業会社が持株会社に対して支払う配当金をあてにしたものだからです。
つまり、事業会社のビジネスが暗礁に乗り上げると、「持株会社スキーム」は破綻してしまうのです。事業会社からの配当金がなくなり、持株会社の銀行に対する返済が滞ると、会社全体が破綻に追い込まれてしまいます。
そのため、「持株会社スキーム」を用いた事業承継を検討する際には、事業会社のビジネスの継続可能性をしっかり検討する必要があります。事業会社が安定して配当金を払えるか分からないのに、見切り発車で「持株会社スキーム」を採用するようなことは、絶対に避けなければなりません。
場合によっては、悪質な金融機関が中小企業に対して無理な融資を持ち掛ける口実として、事業承継の「持株会社スキーム」が用いられることすらあります。銀行等から「持株会社スキーム」の提案を受けた場合には、慎重に検討する必要があると言えるでしょう。
節税目的だけだと脱税行為として追及されるおそれがある
相続税等の節税といったメリットのみを目当てにして、安易に「持株会社スキーム」を利用することも避ける必要があります。国税庁などの税務当局から、脱税行為として追及を受けるおそれがあるからです。
仮に脱税行為として認定されてしまうと、追徴課税を受ける可能性があります。そうなると節税どころか、多額のペナルティを支払わなければならないこととなり、まさに本末転倒です。
そうならないためには、「持株会社を設立する合理的な理由」を明確にしておかなければなりません。「節税したいから」といった消極的な理由だけではなく、「株式の分散を防止し経営権を後継者のもとへ集中させるためには持株会社の設立が必要」といった積極的な理由が必要です。
傘下の関連会社を個別に事業承継することができなくなる
複数の会社をひとつの持株会社の傘下に収めている場合、「持株会社スキーム」を使ってグループ会社全体をまとめて承継できるということを、メリットについて説明した項で述べました。
しかし逆に考えると、持株会社の傘下にあるグループ会社について、個々の会社を別々に事業承継することは不可能ということでもあります。
この点、後継者となるのが一人ならば、特に問題はないでしょう。これに対して、後継者となりうる人が複数いる場合には、トラブルを招きかねません。
というのも、仮に持株会社がなければ、複数の後継者に対して1社ずつ承継させることで、円満な解決を図ることもできます。しかし、持株会社を設立しているばかりに、誰かひとりしか後継者にすることができないため、不要な争いが生じかねないのです。
このようにグループ会社の経営者にとって、後継者となる人が複数存在するケースでは、持株会社の設立は避ける方が賢明な場合もあります。
一定の企業規模がなければ持株会社の運営コストが重荷になってしまう
持株会社を維持・運営するコストについて考えた場合、一定の企業規模を持つ会社でなければバランスが悪いという点にも注意が必要です。
つまり、企業規模があまりに小さな会社の場合、持株会社の維持・運営コストに見合う効率化を期待できないというデメリットが生じるのです。
仮に、持株会社を設立する必要が感じられないほど零細規模の会社が、あえて持株会社を設立していたとすると、場合によっては脱税行為を疑われかねないでしょう。
その疑いを晴らすには、「株式分散を防ぐためにはどうしても持株会社を設立しなければならない」というような、持株会社を設立するための強く明確な理由が必要になります。
先代経営者に株式の売却益が生じたら譲渡所得税が課税される
「持株会社スキーム」を用いた事業承継では、先代経営者が持株会社に対して保有株式を売却します。
その際の売却価格が取得時の株価よりも高額になっていたら、譲渡益が発生し譲渡所得税が課税されることになるので注意が必要です。
場合によっては、相続税等の節税効果と比較して、株式売却時の譲渡所得税の方が高額になってしまうことも考えられます。
相続税等の節税という一面のみにとらわれるのではなく、「持株会社スキーム」によって得られるメリットを総合的に検討することが重要となります。