黄金株、拒否権付株式とは?活用方法やメリット・デメリットを解説
事業承継の場面で活用されることが多いのが、黄金株又は拒否権付株式です。
黄金株又は拒否権付株式は、上手な使い方をすれば、後継者に経営を譲った後も、前経営者が経営の重要事項については拒否権を持つことができ、後継者が前経営者の意思に反するような経営をした場合に歯止めを効かせることが可能です。
一方で、黄金株又は拒否権付株式には、①拒否権を持つ人が正常な判断能力を失ったり、黄金株又は拒否権付株式が経営者と違う人に相続をされたりして、会社の経営を阻害することがある、➁黄金株又は拒否権付株式の内容が登記によって公開される、③事業承継税制の活用に支障を生じることがある、などの注意点がありますので、導入するかどうかについては慎重に判断する必要がありますし、黄金株又は拒否権付株式の内容自体も、慎重に設計することが必要です。
この記事では、黄金株又は拒否権付株式とはそもそも何か?ということから、黄金株又は拒否権付株式を含めた種類株式についての説明、具体的な黄金株又は拒否権付株式の活用方法、黄金株又は拒否権付株式のメリット・デメリット、黄金株又は拒否権付株式の発行手続きなどについて説明していきたいと思います。
黄金株、拒否権付株式とは
黄金株又は拒否権付株式とは、「会社の株主総会決議に対する拒否権を持つ」という通常の株式より強力な権限が付加されている株式のことです。
そのため、この株式を持つ株主の意向に沿わない経営を阻止することが出来るというメリットがある一方で、黄金株又は拒否権付株式の使い方を誤ると、会社のプロジェクトや戦略に悪影響を及ぼすリスクがあります。よって、黄金株又は拒否権付株式を扱う際には注意が必要となります。
黄金株は、正式には「拒否権付株式」と呼ばれる種類株式の一つです。黄金という名称から希少価値の高い評価額も高くなる株式だと思われるかもしれませんが、黄金株又は拒否権付株式自体の株式としての価値は通常株式と変わりません。
2006年の会社法改正により、種類株式が導入されたことで黄金株又は拒否権付株式の発行が開始されました。
黄金株又は拒否権付株式にある最大の特徴は、株主総会の決議に対する拒否権を有している点にあります。よって、その力の強さゆえに、黄金株又は拒否権付株式と呼ばれています。
会社が黄金株又は拒否権付株式を発行している場合、その会社は株主総会に加えて「種類株主総会」を開催しなければなりません。そこで黄金株又は拒否権付株式を持つ株主が株主総会での決議を拒否すれば、その株主総会での決議は不成立となります。
つまり、黄金株又は拒否権付株式を持つ株主がその決議について「イエス」といわない限り、株主総会の決議は成立しません。
このように黄金株又は拒否権付株式が持つ拒否権は、株主総会の決議を覆すことができる強力な権限であり、事業承継やM&Aにおいて有益な効果を発揮することもありますが、使い方を誤ると、会社の経営に深刻な悪影響を及ぼすおそれもあります。
種類株式とは
黄金株又は拒否権付株式以外にも、種類株式は存在しています。その種類は全部で9種類です。それぞれの種類株式は、独立しているわけではなく、一つの株式に複数の規定を付加することも可能です。ここでは、9つの種類株式を説明していきます。9つの種類株式は以下の通りです。
剰余金の配当規定付株式
余剰金の配当規定付株式というのは、剰余金の配当に関する優劣が定められている株式のことです。
その中でも優先株式は、配当に関して有利な地位にあると認知されている株式のことを言います。
また、配当に関する地位が一般的なものであれば普通株式となります。さらに、配当に関する地位が劣っている地位にあるものを劣後株式と呼び、余剰金の配当が後回しになるように規定されています。
残余財産の分配規定付株式
残余財産の分配規定付株式は、会社解散時などに起こる、会社の残余財産の分配に関する優劣が定められた株式のことです。
これも残余財産の分配に関する優劣によって、優先株式や劣後株式と呼ばれますが、一般的に優先株式や劣後株式と言うと、剰余金の配当規定付株式の優先株式のことをさすため、残余財産分配の優先株式または劣後株式と呼ぶように注意する必要があります。
議決権制限株式
議決権制限株式は、その名のとおり、株主総会での議決権に制限が設けられている株式のことです。株主総会での発言権を一切なくす無議決権株式の発行も可能です。
一般的には、買収防衛策のために、会社が議決権制限株式を発行するというケースが多いです。
しかし、株式公開会社の場合、議決権制限株式は発行済みの株式総数における2分の1以下に留める必要があります。
これは、株式公開会社においては、あまりにも少数の者による会社の支配は望ましくないからです。一方で、株式非公開会社であれば、議決権制限株式の発行割合の制限はありません。
譲渡制限株式
譲渡制限株式は、文字どおり、他者への譲渡が制限されている種類株式です。全株式もしくは一部の株式について付与することができ、譲渡制限規定が付加されている株式を他者に譲渡する際には、会社の承認を得る必要があります。
株式の譲渡に制限を設けると、経営権の分散が防げるため、譲渡制限株式は、昨今、中小企業を中心に広く活用されています。
なお、譲渡制限株式を導入している会社は株式譲渡制限会社と呼ばれます。
また、株式の譲渡制限を設定していない会社は公開会社、発行されている株式すべてが譲渡制限株式の会社は、非公開会社と呼ばれるのが一般的です。
取得請求権付株式
取得請求権とは、株主が保有する株式を会社に渡す代わりに、金銭や他の株式の給付を求める権利のことです。
取得請求権付株式の株主から請求があったときは、会社はその株式を引き取り、対価を支払います。株式を引き取る対価は、定款で定めることとなっています。
定款に定めることによって、取得請求権付株式を引き取る対価は、現金・不動産・動産・他の種類株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債など、財産であれば何でも対価とすることができます。
取得条項付株式
取得条項付株式は、特定の事由が起こった際に、会社側がその株式を強制的に株主から取得できるという種類株式のことです。
取得請求権付株式と同様に、株式取得の対価として他の種類株式などを設定することができます。
取得請求権付株式と取得条項付株式の違いを具体的にいうと、取得請求権付株式は、権利の行使をする主体が株主であることに対して、取得条項付株式では、会社が株式の取得を行うことが前提となっている点に相違が見られます。
つまり、取得条項付株式は、会社側によって強制的に株式を買い上げることが出来るため、会社は、取得条項付株主の地位や権利を完全に失わせることが可能です。
全部取得条項付株式
全部取得条項付株式は、会社が対象となる全株式を取得できるよう規定されている種類株式のことです。
全部取得条項付株式を活用すれば、会社は100%減資を能動的に実施できます。しかし、実際に全部取得条項付株式を取得する際には、株主総会での決議を経なければなりません。
拒否権付株式(黄金株)
黄金株又は拒否権付株式は、株主総会の決議に対する拒否権が規定されている種類株式のことです。
この記事で取り上げている黄金株は、この拒否権付株式のことです。拒否権付株式を発行する会社では、決議事項について株主総会決議だけでなく合わせて種類株主総会も開催し、決議して拒否権付株式の株主の承認を得なければなりません。
種類株主総会には、種類株主(拒否権付株式を持つ株主)のみが集められます。株主側から見れば、普通株主の賛成数に関わりなく決議事項を否決できてしまうことから、この株式が拒否権付株式と呼ばれています。
役員選任権付株式
役員選任権付株式は、種類株主総会において取締役・監査役を選任できる種類株式です。
この種類株式を持っている株主は、普通決議などを経ることなく自由に役員を選任できます。ただし、委員会を設置している会社や株式公開をしている会社では発行できません。
黄金株、拒否権付株式の活用方法
黄金株又は拒否権付株式は、主に会社の経営を後継者に受け渡す事業承継の場面で活用されています。
例えば、会社の現経営者が後継者に経営を承継させ、株式も譲渡する場面で、黄金株又は拒否権付株式1株だけを自分に残すことで、事業承継後も後継者による経営に対して拒否権を持ち、コントロールを効かせることが可能です。
例えば、次のような場合での事業のコントロール方法があります。
取締役の選任や解任についての拒否権をもつ黄金株又は拒否権付株式を持っている場合
取締役の選任や解任は株主総会の過半数による決議で行われます。
そのため、事業承継の結果、後継者が過半数の株式をもつようになると、後継者が自由に取締役の選任や解任をすることができてしまうことになります。
これについて、前経営者が一定の歯止めをかけられるようにしておきたいという場合は、後継者に事業承継後も、前経営者が黄金株又は拒否権付株式を1株だけ保有することで、後継者による取締役の選任や解任について、拒否権を持つことができます。
取締役の報酬の決定についての拒否権をもつ黄金株又は拒否権付株式を持っている場合
取締役の報酬の決定は株主総会の過半数による決議で行われます。
そのため、事業承継の結果、後継者が過半数の株式をもつようになると、後継者が自由に役員報酬を決めることができてしまい、高額の役員報酬を設定することにより、会社財産の減少を招くおそれがあります。
このような事態を防ぐためには、事業承継後も、前経営者が黄金株又は拒否権付株式を1株だけ保有することで、後継者による役員報酬の決定に拒否権をもつことができます。
事業譲渡や合併についての拒否権をもつ黄金株又は拒否権付株式を持っている場合
事業譲渡や合併は株主総会で3分の2以上の賛成を得る特別決議で承認されます。
そのため、事業承継の結果、後継者が3分の2以上の株式をもつようになると、前経営者の意思に反する事業譲渡や合併であっても、後継者の意向でできることになります。
事業承継後も、前経営者が黄金株又は拒否権付株式を保有することで、事業承継や合併の承認に拒否権をもつことができます。
黄金株で拒否権を設定できる項目の具体例
その他、黄金株又は拒否権付株式は、さまざまな項目について拒否権を設定することが可能です。主な例は以下の通りです。
役員に関する事項 |
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会社財務に関する事項 |
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会社の人事・組織に関する事項 |
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黄金株又は拒否権付株式の具体的な活用事例について説明すると、黄金株又は拒否権付株式の発行は、株主平等の原則に反する意見を受けて、現在の日本において黄金株又は拒否権付株式を発行している上場企業は国際石油開発帝石のみです。
国際石油開発帝石は、国内外において石油・天然ガスなどの権益を保有する大手石油開発企業として知られています。
国際石油開発帝石の黄金株又は拒否権付株式は、経済産業大臣が保有しています。
経済産業大臣は、国際石油開発帝石の普通株式18.96%および黄金株又は拒否権付株式を保有する筆頭株主です。
国際石油開発帝石の黄金株又は拒否権付株式は、主として海外企業からの買収を防ぐ目的で発行されています。
これに対して、株主平等の原則を上場企業ほどに厳守しなくても良い非上場企業では、主として事業承継のシーンで黄金株又は拒否権付株式を活用する場合が目立っています。
黄金株又は拒否権付株式を用いれば、経営者自身の子を後継者とする場合などにおいて、子の経営者としての成長を見守りつつ、大きな間違いを起こしそうな場合には、拒否権を発動するなどして、段階的に事業承継を進めることが可能です。
こうしたメリットを得るべく、中小企業の経営者を中心に、事前に期限を決めて、前経営者が黄金株又は拒否権付株式を保有して、重要な議決のみ介入するケースが多く見られます。
黄金株、拒否権付株式を活用する場合の留意点
黄金株又は拒否権付株式は非常に権利が強い株式であるため、万が一でも後継者以外の相続人等が取得すると会社経営が混乱に陥る可能性があります。
そのため、後継者に安心して経営を任せられる状態となるなど、一定期間経過後に自社で買い取り、黄金株又は拒否権付株式を消却する等の対応が必要となります。
前経営者が保有し続ける場合には、遺言で、黄金株又は拒否権付株式については後継者が取得するようにする等の対応が必要です。
なお、他の種類株式同様、黄金株又は拒否権付株式の内容については自社の商業登記簿謄本に記載されるため、外部からも内容を把握することが可能です。
場合によっては、親が引き続き子の経営に干渉していると思われるなど、あまりよくない印象を持たれてしまう可能性もあるため、活用に際しては十分な検討が必要です。
黄金株、拒否権付株式のメリット・デメリット
黄金株又は拒否権付株式は、うまく使うと親から子への会社の事業承継を心配なく行うことが出来るなどのメリットもありますが、逆に誤って拒否権を使いすぎると、事業承継された後の会社に前経営者が関与し続けるというようなデメリットもあります。
ここでは、黄金株又は拒否権付株式のメリット・デメリットについて見ていこうと思います。
黄金株、拒否権付株式のメリット
黄金株又は拒否権付株式のメリットは、主に黄金株又は拒否権付株式を取得した株主の経営方針を継続的に安定的に続けられるということです。詳細にはいくつかのメリットとして挙げることが出来ます。
1株でも拒否権を行使できる
黄金株又は拒否権付株式は、1株でも保有していれば拒否権を行使することができます。
保有数に関係なく拒否権を行使することができる強力な権利のため、多様な場面で力を発揮します。このことは、経営をコントロールしたい立場の株主としては大きなメリットと言えます。
敵対的買収を防止できる
黄金株又は拒否権付株式を保有していると、敵対的買収を防止することもできます。
株式会社は、良くも悪くも株主によってあらゆる事項が決定することができるため、特に、株式を公開すれば、開かれた市場に株式が流通し、いろんな考え方を持った多くの投資家や企業が株主となることができます。
多種多様な株主が会社の経営に関与することになるため、株主総会では会社の経営に関するさまざまな内容が決議されます。それは、会社の経営について、会社の外部の人間・法人が干渉することになるということです。
企業の公正な事業活動のためにも、会社の外部の人間・法人が良い意味で関与することは当然必要なことではありますが、時には会社に対して敵対的に関与してくる株主が現れる可能性も十分に考えられます。
特定の株主が会社の敵対的買収を狙っている場合、株主総会で明らかに会社にとって不利になるような提案を出してくることもあり得ます。
しかし、会社にとって友好的な株主に対して、黄金株又は拒否権付株式を与えておくことで、これを防止することができます。
なぜなら、会社の敵対的買収を狙う株主が会社にとって不利になるような何らかの決議をしようとしても、黄金株又は拒否権付株式を持つ株主が、種類株主総会においてその決議を否決すれば、その決議が実現されることはありません。
黄金株又は拒否権付株式は、もともと、英国で国営企業を民営化する際に、英国以外の外国企業による敵対的な買収を防ぐため、政府の株式持分に拒否権を与えたことが始まりであるといわれています。
すなわち、そもそも、黄金株又は拒否権付株式の発祥は敵対的な買収の防止にあったということであり、この点は、現在でも黄金株又は拒否権付株式の大きなメリットとなっています。
黄金株又は拒否権付株式の所有者は、引退後も経営に関して強い決定権を持つことができる
事業承継においても黄金株又は拒否権付株式は、引退する経営者にとって、効果的に活用することができます。
近年、会社の後継者不足が問題となっていますが、経営者が高齢となり、やむを得ず未熟な後継者に経営権を譲渡して、引退しなければならない状況になることがあります。
未熟な後継者が経営者となってしまった場合、不安が残る前経営者としては、引退後も会社経営に対して一定の決定権が欲しいと考えるのは自然なことでしょう。
前経営者が黄金株又は拒否権付株式を持つことで、引退後も会社の経営に関して強い決定権を持ち続けることが実現できます。
後継者が株主総会でおかしな決議をしたとしても、前経営者は、黄金株又は拒否権付株式によって決議を否決することができるわけです。
引退後も一定の発言力・影響力があるというのは、前経営者にとって、黄金株又は拒否権付株式を保有することの大きなメリットとなります。
黄金株、拒否権付株式のデメリット
黄金株又は拒否権付株式のデメリットは、メリットの裏返しで、主には、黄金株又は拒否権付株式を持たない株主の経営方針が認められず、結果として会社経営を阻害する可能性があるということなどです。
その他にも国の税制の活用ができなかったり、拒否権の内容が登記によってオープンにされることによって、現在の株主や経営者に実質的な決定権がないとみなされるなど、会社の印象が悪くなったりする可能性もあります。
拒否権が会社経営を阻害する可能性がある
黄金株又は拒否権付株式のデメリットとして、拒否権が万が一、不合理に乱発されることになると、会社の経営にとってむしろマイナスになってしまうことがあり得ます。
例えば、会社の組織の変更について、黄金株又は拒否権付株式による拒否権の対象とした場合、黄金株又は拒否権付株式の保有者が適切な判断能力を失ってしまっていて、本当に会社にとって必要不可欠な組織変更であっても、黄金株又は拒否権付株式を保有する株主が拒否権を行使してしまい、会社の経営を阻害してしまうということも考えられます。
そのため、このような事態になったときは、黄金株又は拒否権付株式を会社が強制的に買い取ってしまうことができるように黄金株又は拒否権付株式を制度設計しておく必要があります。
例えば、黄金株又は拒否権付株式発行時に、「一定期間経過後は、会社が取締役会決議により黄金株又は拒否権付株式を時価で強制的に買い取ることができる」という条項を定めておくという対策をしておくことが考えられます。このような条項をもつ株式は「取得条項付株式」と呼ばれます。
すなわち、黄金株又は拒否権付株式を、同時に取得条項付株式にもしておくということで、必要以上の期間に渡って経営に関する拒否権を継続させないという方法を取るということが出来ます。
事業承継税制の活用ができない
会社が、事業承継税制を活用しようとする場合、前経営者などの黄金株又は拒否権付株式の不保有要件に基づいて、後継者以外の者による黄金株又は拒否権付株式の所有が認められません(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第6条第1項第7号リ)。
したがって、会社が事業承継税制の活用を検討している場合には、「黄金株又は拒否権付株式は発行しない」あるいは「発行したとしても事業承継税制の活用前に普通株式に転換・後継者に譲渡する」という選択肢を取る必要があります。
拒否権の内容が登記によって公開される
他の種類株式同様、黄金株又は拒否権付株式の内容については、自社の商業登記簿謄本に記載されるため、外部からも拒否権の内容を把握することが可能です。
場合によっては、黄金株又は拒否権付株式による拒否権の存在を知って、前経営者である親が引き続き現経営者の子の経営に干渉していると思われるなど、会社の経営にとって、あまりよくない印象を持たれてしまう可能性もあるため、活用に際しては十分な検討が必要です。
拒否権対象事項について採決するときに手間がかかる
黄金株又は拒否権付株式を1人の株主にのみ交付するという典型的なケースの場合、黄金株又は拒否権付株式による拒否権の対象となる項目について決める際は、その都度、黄金株又は拒否権付株式保有者の同意が必要になるというということになり、通常の決議のほかに黄金株又は拒否権付株式保有者の同意という手続きを必ず踏まなければならなくなってしまいます。
そのため、例えば取締役の選任が拒否権対象事項になっている場合、通常必要になる株主総会決議だけでなく、黄金株又は拒否権付株式保有者の同意を書面(より正確には種類株主総会の株主総会議事録)でもらう必要があり、会社にとっては、その分、手間になります。
特に、黄金株又は拒否権付株式保有者が高齢になり、スムーズに書面での手続きができなくなった場合や、黄金株又は拒否権付株式保有者が高齢で判断能力を失ってしまった場合、同意の取得にさらに手間がかかることが懸念されます。
この点については、前述のとおり、例えば、黄金株又は拒否権付株式発行時に、「一定期間経過後は、会社が取締役会決議により黄金株又は拒否権付株式を時価で強制的に買い取ることができる」という取得条項付株式にもしておくということで、ある程度リスクを回避しておくことが可能です。
黄金株、拒否権付株式を相続されると会社経営に支障が出る可能性がある
黄金株又は拒否権付株式の所有者が亡くなった場合には、黄金株又は拒否権付株式が相続人に相続されます。
しかし、黄金株又は拒否権付株式の相続人が、会社の経営について正しく判断できる人かどうかはわからないため、基本的に会社としては、黄金株又は拒否権付株式が相続されるという事態はさけるべきです。
この点については、「相続が発生したときは、黄金株又は拒否権付株式を時価で強制的に買い取ることができる」という取得条項付株式にもしておくということで、リスクを回避しておくことが重要です。
黄金株、拒否権付株式の発行手続き、発行方法
次に、黄金株又は拒否権付株式の具体的な発行手続き及び発行方法について見ていきたいと思います。
発行手続き及び発行方法としては、既に発行されている普通株式を黄金株又は拒否権付株式に変更する場合と、全く新しく黄金株又は拒否権付株式を発行する場合が考えられます。
現在発行されている普通株式の一部を黄金株、拒否権付株式に変更する方法
すでに発行済みの株式を黄金株に変更する場合の手続きは、基本的に以下のステップに沿って、発行手続きが進められます。
株主総会において定款変更を実施する
まずは、黄金株又は拒否権付株式の内容・発行可能株式総数を定款で定めます。
このとき、この定款を定めるためには、株主総会の特別決議で承認を受ける必要があります。なお、たとえ種類株式の発行経験がある会社でも、新たな種類株式として黄金株又は拒否権付株式を発行するなら定款の定めをすることが必要です。
黄金株への変更について株主との合意書を作る
次に、普通株式の黄金株又は拒否権付株式への変更について、株式の内容が変更になる株主と会社の間で合意書を作成します。
変更登記を行う
ここまでの手続きを経たら、変更事項の登記をします。登記の変更申請は、効力発生日から2週間以内に法務局で済ませなければなりません。
定款変更が無事に済めば、黄金株又は拒否権付株式を発行することが可能です。
なお、黄金株又は拒否権付株式を発行する際にも、株主総会の特別決議で承認を受ける必要があります。
また、黄金株又は拒否権付株式を発行したら、払込期日もしくは払込期間の末日から数えて2週間以内に法務局にて登記申請を済ませなければなりません。
ただし、定款変更と黄金株又は拒否権付株式発行の登記申請は同時に済ませることも可能なので、手続きの手間を削減したい場合は必要に応じて実施を検討しましょう。
以上、基本的なステップを紹介しましたが、以前よりすでに黄金株又は拒否権付株式を発行している会社では、以上の手続きに加えて、既存の黄金株又は拒否権付株式を保有する者すべての同意も求められることになります。
新たに黄金株、拒否権付株式を発行する方法
新規で黄金株又は拒否権付株式を発行する場合の手続きは、基本的に次の手順に従って進められます。
株主総会において定款変更・募集事項の決定を実施する
発行済み株式を黄金株又は拒否権付株式に変更するのではなく、新たに黄金株又は拒否権付株式を発行する場合は、新たに発行する募集株式の内容についても株主総会で決定します。
ここで決定される具体的な内容は、「発行する株式の種類・数」「払込金額」「払込期日」「増加する資本金・資本準備金に関する事項」などです。
募集事項を通知して黄金株引受けの申し込みを受ける
続いて、株主総会で決めた募集事項を、黄金株又は拒否権付株式を引き受ける相手に通知し、黄金株又は拒否権付株式の引受けの申し込みを受けます。
黄金株又は拒否権付株式を割当てて払込みを受ける
その後は、申込者に対して払込期日に前日までに割り当てる黄金株又は拒否権付株式の数を通知したうえで、黄金株又は拒否権付株式を割り当てる段取りに移ります。そして、払込期日には、申込者から払込みを受けます。
変更登記を行う
最後に、「資本金の額」「黄金株又は拒否権付株式の発行可能株式総数・黄金株又は拒否権付株式の内容」「発行済株式の総数・その種類および種類ごとの数」について、変更登記を済ませれば完了です。
以上が、新規で黄金株又は拒否権付株式を発行する場合の手続きです。このように、黄金株又は拒否権付株式を発行する手続きは、複雑であるため、発行する際は専門家のサポートを得ながら着手する方が良いと思われます。
黄金株、拒否権付株式の相続について
黄金株又は拒否権付株式の保有者が亡くなると、他の財産と同様に相続が発生します。黄金株又は拒否権付株式は、これまで見てきた通り、会社の経営に関して非常に強力な力を持っているので、会社が望まない相続人の手に黄金株又は拒否権付株式が渡ると、会社経営に重大な支障をきたす可能性があります。
また、これだけ強力な力を持つ黄金株又は拒否権付株式の評価も気になるところです。
これら、相続が起こった場合の注意点について見ていくことにします。
黄金株、拒否権付株式の相続評価額
黄金株又は拒否権付株式の相続税評価額は、普通株式と同様に扱われます。つまり、拒否権の付帯を考慮することなく、普通株式と同様に評価されるということです。たとえ、黄金株又は拒否権付株式だとしても、評価額が割高になることはありません。
なお、原則として普通株式と比べて有利な条件が付いている種類株式については、普通株式と比べて発行価格が高く評価されます。その一方で、普通株式と比べて不利な条件が付いている種類株式は、発行価格が低めに評価されることになります。
ここで、「黄金株又は拒否権付株式は普通株式と比べて有利な条件が付いているのだから、相続税評価額は高くなるのでは?」と考えることもできますが、国税庁は「黄金株又は拒否権付株式は拒否権を考慮せずに評価する」と判断しています。
黄金株、拒否権付株式の相続の影響
次に、黄金株又は拒否権付株式が相続された場合の影響について考えてみましょう。黄金株又は拒否権付株式を保有している前経営者などが亡くなったときに、会社にとって好ましくない株主人がこの黄金株又は拒否権付株式を相続してしまうことも想定されます。
黄金株又は拒否権付株式は強力な株式ですので、このような事態は、会社の経営者としては、何があっても避けなければなりません。
したがって、このような事態を避けるためには、黄金株又は拒否権付株式を発行するときに、黄金株又は拒否権付株式の株主が死亡したことを条件として、会社が黄金株又は拒否権付株式を取得できることを定めた「取得条項付株式」にしておく必要があります。
まとめ
今回は、黄金株又は拒否権付株式について見てきました。
前経営者が保有する株式のうち1株を黄金株に転換し、その1株は自身で継続保有することにより、株主総会における一定事項について拒否権を確保する一方、残りの株式については後継者である子などに譲ることで、株価上昇前に実質的に株式の移転を完了させることができます。ただし、あまりに拒否権の範囲が広いと、経営が円滑に進まなくなる可能性があるので、留意が必要です。
黄金株又は拒否権付株式は、会社の重要事項の議決を拒否できる強力な権限がある株式です。
黄金株又は拒否権付株式は、会社の信頼できる株主が保有していれば、買収防衛策や事業承継の場で活用できるなど、その効果が期待できます。
その一方で多くの株主が賛成する案件であっても、黄金株又は拒否権付株式を持っている株主1人の恣意的判断で決議が覆されるなど、「株主平等の原則」や「1株1議決権の原則」を害する側面があります。
本来であれば、株主は保有している株式1株について1個の議決権を持っています。保有株式数が多ければ多いほど、発言力があるということになります。
しかし、黄金株又は拒否権付株式は1株であっても強い権限があるため、どれだけ普通株式を保有していたとしても、たった1株の黄金株又は拒否権付株式には敵わず、実質的に普通株式の価値が黄金株又は拒否権付株式よりも下であるというような印象を与えます。
とはいえ、実際に株式の価値としては、黄金株でも普通株でも価値が変わることはありません。
また、黄金株又は拒否権付株式はそのあまりの強さから、東京証券取引所では、黄金株又は拒否権付株式の発行について、一定の条件で上場廃止となる基準を定めています。
これまで説明してきた通り、現在、上場企業で黄金株を保有しているのは、国際石油開発帝石の1社のみであり、黄金株又は拒否権付株式を採用する会社はほとんどありません。外国においては、発行そのものを禁止している国もあります。
発行内容によっては、無用な乱用を生む可能性もあるため、専門家によっては、黄金株又は拒否権付株式は発行すべきでないという意見もあります。
株主総会の決定を覆せる黄金株又は拒否権付株式は、使い方によっては会社の事業承継を円滑に進め、他の会社の敵対的買収から経営権を守るための有効的な手段です。会社の意向と対立する株主がいたり、敵対的買収を仕掛けてきそうな会社がいたりした場合、黄金株又は拒否権付株式を発行しておけば経営者も安心できます。
しかし、黄金株は強力な拒否権ゆえに、かえって会社の信頼を失って悪影響を及ぼすリスクをはらんでいます。乱用すれば事業承継が成立しなくなる可能性があるほか、万が一にも不都合な相手の手に渡る事態になれば会社の経営権が脅かされてしまいかねません。
そのため、黄金株又は拒否権付株式を発行する場合は、影響力の大きさを鑑みて冷静に扱うことが肝要だといえます。