事業承継M&Aのメリット・デメリットと手続きの内容!
事業承継において、会社を第三者に売却する事業承継M&Aが行われることが多くなっています。ここでは、事業承継の類型(親族内承継・親族外承継・事業承継M&A)のそれぞれの内容及びメリットとデメリットを解説してゆきたいと思います。事業承継を検討されている経営者にとっては必見です。
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事業承継とは?
中小企業の経営者や個人事業主にとって事業承継が大きな経営課題になってきています。
日本におよそ400万社あるといわれている中小企業のうち、65歳以上の経営者が全体の4割を占めるまでになっており、多くがここ4~5年内に事業承継のタイミングを迎える段階にさしかかっています。
しかし経営者の高齢化と次世代を引き継ぐ後継者の人員不足、価値観の多様化などが相まって多くの中小企業で事業承継が困難な状況にあり、すでに1割以上の事業所が事業承継を断念し廃業を検討しているというデータもあります。
しかし廃業するとしてもことはそう簡単ではなく、精算にかかる様々なコストがかかることから、最近では事業承継にM&A(企業の合併と買収)を活用する会社や個人事業主が増えてきています。
そこでこの記事では、このような背景や問題点を踏まえて、そもそも事業承継とは何か、事業承継にはどんな問題点や課題がありどんな対策が有効なのか、対策を有効に進めるためにはどんな方法を使いどのようなサポートを利用したらいいかなど、事業承継にかかる基本的事項を詳細解説します。
この記事を最後まで読んで頂ければ、最低限、事業承継についての基本的な知識は必ず得られます。
事業承継M&Aがなぜ必要か?
事業承継がなぜ必要かといえば、もし後継者への引き継ぎがうまく進まず会社が廃業の憂き目に至った場合、多くのものが失われるからです。
中小企業が長年かけて培ってきた大事な取引先を失うだけでなく、会社としての信用、従業員の雇用、設備、ノウハウ、技術、などあらゆるものが一瞬でなくなってしまいます。
一度失ってしまえばそれを取り戻すことは容易ではありません。
さらに日本の経済を底辺で支えてきた中小企業がなくなれば長期的には国力の低下にもつながってきます。
しかし国や専門家のサポートも受けて、事業承継を成功させ会社を存続させることができれば、廃業コストが削減できるだけでなく、これまで培ってきた取引先、設備、ノウハウ、技術が残り、さらにシナジー(相乗)効果で会社を発展させることもできます。
文殊の知恵を集めて事業承継をうまく行いこの難関を乗り越えることの意義は大きいのです。
事業承継M&Aとは?
事業承継とは、経営している会社を信頼できる後継者に引き継ぐ行為のことをいい、大枠としては会社の資産や信用、取引先や従業員、ノウハウや技術まで含めて会社全体を引き継ぐことを意味します。
事業承継には会社の行っている事業のうち、一部の部門のみ引き継ぐ事業譲渡という方法もありますが、基本的には事業承継とは会社そのものを引き継ぐ行為を指し、具体的には会社の発行している株式を譲渡により後継者が引き継ぐという方法をとります。
事業承継M&A方法は3タイプ
現在日本で行われている事業承継方法には種類が3タイプあります。
そのタイプとは以下の3つです。
- 親族内承継
- 親族外承継
- M&A承継
このうち1990年代までは親族内承継が主流の承継方法でしたが、若年後継者の人数不足や価値観の多様化から2000年代以降は親族外承継やM&Aに承継方法が大きく移り変わってきている状況です。
親族内承継とは、文字通り、経営者の肉親である子息や娘に会社を直接継がせる行為のことを言います。
一方親族外承継とは、経営者とともに会社経営に責任を負っている他の役員か、経営者が業務に精通していて有能と判断した従業員の中から後継者を選んで事業承継する方式です。
またM&A承継とは、「Merger & Acquisitions」による承継の略で、「企業の合併と買収」による承継を意味し、一般的に別の会社が事業承継を必要とする会社を株式譲渡等の手段を使って会社全体を買取り、その経営権を取得する方法を言います。
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親族内承継のメリットデメリット
各事業承継方法には利用上、当然メリットもあればデメリットもあります。
そこでまず親族内承継のメリットやデメリットについて詳しく解説します。
メリット
親族内承継で一番のメリットは、後継者が経営者の子供なので後継者教育が容易な点です。
子供が会社役員や従業員として常に社内にいるので経営者が直接指導することもできるし、時間を掛けて育てることができるので子供も将来を意識しながら後継者として育ちます。
また経営者の子供であると言うことから、のちのち後継者に指名しても他の役員や従業員の理解を得られやすいのもメリットです。
最終的に経営者が保有する会社の株式も贈与、または相続で子供に譲渡されるので、そういう面でも会社内で働いている人には分かりやすい承継方式です。
デメリット
親族内承継で事業承継をする際のデメリットは、経営者から後継者指名を受ける子息や娘が必ずしもその会社を引き継ぐに足る資質、能力や意欲を持っていない場合があることです。
会社を引き継ぐには長期にわたる重い責務が伴うので、資質や意欲に欠ける方にいやいや会社を継がれても、経営者として能力も十分発揮できず、あげくに会社を潰されては取引先も従業員も迷惑ですよね。
もうひとつ親族内承継のデメリットは、承継を契機に親族間の争いが発生するリスクがあることです。
経営者の子供が一人ならこのような可能性は少ないですが、複数の子供がいたら、経営者の死後、その相続割合をめぐって経営者の配偶者や子供の間で争いが発生するリスクがあり、それがそのまま後継者を誰にするかをめぐっての争いの種となってしまいます。
親族外承継のメリットデメリット
親族外承継とは、経営者と親族関係のない役員か、会社の事業内容に精通した優秀な従業員に会社を引き継ぐ承継方法※のことです。この方法にも利用上、メリットやデメリットがあります。
※それぞれ会社を引き継ぐ対象者によって、役員の場合をMBO(マネジメント・バイアウト)、従業員の場合をEBO(エンプロイー・バイアウト)と呼びます。
メリット
親族外承継で引き継ぎするときの一番のメリットは、その会社の業務に精通した役員や従業員に会社を渡せることです。
引き継ぎする本人に会社に対する愛着や強い経営意欲があれば、もともと既存業務には慣れているので、経営者はあらためて後継者教育する必要もありません。
社内の他従業員など、組織的にも受け入れやすいという長所があります。
また親族外承継で役員や従業員が経営者保有の株式を引き継ぐ場合、買取り資金や納税資金が多額に必要となります。
それが親族外承継を難しくしてきた要因のひとつなのですが、平成30年から事業承継税制が大幅に改訂され、親族でない後継者でも一定の条件の下に納税が猶予されるようになりました。
さらに投資ファンド等から買取り資金のサポートを受けて株式を購入するシステムも構築されています。
そのため現在では、事業承継税制や資金サポート等を利用すれば、この親族外承継で役員・従業員が資金面で悩まされることは少なくなってきています。
デメリット
親族外承継で引き継ぎするときの一番のデメリットは、後継者候補の役員・従業員が株式の買取り資金を全額用意できない点です。
役員・従業員といっても大半がサラリーマンに過ぎません。
一方中小企業といっても、規模がある程度大きく、かつ創業以来連続して利益を上げ続けてきていれば、内部留保も大きく、引き継ぎ時のその株式評価は莫大なものになりがちです。
とても一介のサラリーマンが簡単に買取りできるレベルではありません。
それが親族外承継による事業承継を難しくしています。
さらに中小企業経営者の場合、融資を受けるため銀行に個人保証している点も事業承継のネックとなります。
会社を引き継ぐと言うことは、融資にかかるその個人保証も同時に引き受けると言うことを意味するので、これまで一介の役員・従業員だった方が簡単に経営者の保証を引き受けるのも抵抗があるだろうし、それを聞いた家族に反対でもされたら一発でこの承継話は頓挫します。
このように親族外承継にも色々なデメリットがあるのです。
M&Aによる事業承継のメリットデメリット
M&A承継とは、別の会社が事業承継の必要な会社を株式譲渡等の手段を使って会社全体を買取り、その経営を承継する方法のことですが、この方法にもメリットとデメリットがあります。
メリット
M&A承継によるメリットは、企業体力や資金力に勝る別の会社に自社を買い取ってもらうことでその事業が丸ごと引き継ぎできることです。
もちろん事業承継が成功すれば、買収される側の従業員の雇用も守られ、その会社が作ってきた信用、取引先、技術やノウハウを含む有形無形の資産がそのまま買収会社に引き継がれます。
廃業によるデメリットのコスト割れも避けられます。
あるいは買収会社と融合することで新しいシナジー(相乗)効果が生まれ、さらに売上げの拡大や利益の伸長も期待できます。
また経営者個人に限って言えば、株式売却で一定の現金が得られ、それを老後の資金、個人の借入金の返済、新事業への投資など、色々なものに充当でき、人生の新たな資金にすることも可能です。
このようにM&A承継によるメリットはたくさんあります。
デメリット
一方、M&A承継によるデメリットとしてまず考えられるのは、自社の希望に合致した買収企業がなかなか見つからない点です。
相手が見つからないことには、いくらこちらが買取りを切望しても、M&A承継が成立しませんよね。
また運良く売却先が見つかったとしても、自社の思い通りの売却価格や買取り条件とならない場合もあり、大幅な妥協を強いられることもあります。
さらにM&A承継の場合、仲介にM&Aアドバイザーや弁護士、公認会計士等にも入ってもらわないと案件成立が困難なので、それにも多くの費用がかかり、これも親族内承継や親族外承継にはないデメリットです。
その上M&A承継では、売り先と買い先の様々なニーズを付き合わせて妥協していく複雑な手続きが待っているので、案件成立までに膨大な時間とコストがかかります。
これもまたM&A承継にかかるデメリットといえるでしょう。