後継者不足の中小企業における廃業以外の選択肢とは?経営者が取り得る対策

日本の財政は、企業の存在によって成り立っており、税金だけでなく技術や経済をはじめ、さまざまな役割を担っています。しかし、近年では中小企業を中心に、廃業する企業が増えている傾向です。

廃業の理由として増えているのが「後継者不足」。後継者不足で廃業に至る企業は多く、実際に後継者が不在のため、廃業を検討している経営者様もいるでしょう。そこで本記事では、後継者不足による廃業の現状や理由、廃業以外の選択肢について解説します。

後継者不在による廃業をお考えの経営者様は、ぜひご参考にしてください。

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後継者不足で廃業する中小企業は増加の見込み

東京商工リサーチの調査によると、2020年に休廃業・解散・倒産した企業は、全国で4万9698件(※1)。調査開始以来、2018年の4万6724件を抜き最多を記録しました。休廃業・解散・倒産した企業は、近年では以下のように増加の傾向です。

休廃業・解散・倒産した企業数
2013 3万4800件
2014 3万3475件
2015 3万7548件
2016 4万1162件
2017 4万0909件
2018 4万6724件
2019 4万3348件
2020 4万9698件
2021 4万4377件

(出典:東京商工リサーチ「2020年 休廃業・解散企業動向調査」)

休廃業・解散・倒産した企業数の過去8年間の推移を見てみると、2019年に若干減少したものの、2020年に再び増加。これはコロナ禍の影響により、将来を不安視した経営者の多くが自主廃業に踏み切ったためと考えられています。

また、廃業が増えている例としては経営不振だけでなく、企業の後継者不足も挙げられます。経営者の高齢化が進むと、年齢を理由に引退を迎えるのが一般的ですが、企業を承継してくれる後継者を任命しなければなりません。

しかし、帝国データバンクが2021年に行った「全国企業「後継者不在率」動向調査」によると、企業における後継者の不在率は全国平均で61.5%。経営者の年齢別推移によれば、80代の経営者でも後継者の不在率は約3割となっており、いかに後継者不在の企業が多いかが分かります(※2)。

なお、中小企業庁の試算によると、2025年までに平均引退年齢である70歳に到達する経営者は245万人。うち日本企業のおよそ1/2にあたる約127万人が後継者未定となっており、廃業などを行う可能性が示唆されています(※3)。このように日本企業では、後継者不足が深刻な問題です。

参考資料:(※1)東京商工リサーチ「2020年 休廃業・解散企業 動向調査」

(※2)帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2021 年」

(※3)中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」

自主的に廃業する経営者も多い

経営者のなかには、自主的に廃業を選択する方もいます。実際、2020年に休廃業・解散した企業における廃業直前期の決算では、61.5%の企業で当期損益が黒字でした。

(出典:東京商工リサーチ「2020年 休廃業・解散企業 動向調査」)

黒字にもかかわらず廃業を選択する企業は6割ほどで推移しており、毎年一定数の企業が自主的に廃業していることが分かります。では、黒字なのに廃業する経営者が多いのはなぜでしょうか。まずは廃業のメリット・デメリットを見てみましょう。

廃業のメリット

廃業のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • オーナー経営者の場合、自分の好きなタイミングで事業を止められる
  • 事業の引継ぎ先が必要なく、交渉も不要
  • 時価資産から負債を差し引いた財産を手にできる

廃業は他の選択肢に比べて、自由に事業を止められるのがメリットです。特に企業で強い影響力を持つオーナー経営者であれば、取締役会の決議などもスムーズに進められるため、他の手段と比べると自由に事業を止められます。

また、事業承継やM&Aなどを実行するとなれば、後任への引継ぎや買手企業との交渉が必要です。しかし廃業であれば、引継ぎや交渉をしなくて良いため、手間と労力を省けます。

廃業のデメリット

続いて廃業のデメリットは、以下のとおりです。

  • 負債がある場合は、連帯保証人が返済しなければならない
  • 企業価値の評価に将来得られる利益が反映されない
  • 従業員の雇用が失われる
  • 関係各所にも損失が出る恐れがある

廃業時に負債が残っている場合、経営者本人もしくは連帯保証人が返済しなければなりません。経営者本人が返済できないときは、連帯保証人に迷惑がかかってしまうでしょう。また、廃業する場合の企業評価は時価です。将来的な利益などは反映されないため、M&Aと比べると受け取る額が低くなる可能性があります。

廃業が増え続けると約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる

後継者不足による廃業が進行した場合、中小企業の試算によると、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると予測されています(※1)。

ちなみに「22兆円」とは、国の補正後予算の1/5に匹敵する額(※2)。日本経済への影響は計り知れないものとなることからも、国や企業には廃業を回避する取り組みが求められています。

参考資料:(※1)中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」

(※2)財務省「国の財政の状況」

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廃業を余儀なくされるほど後継者が不足する理由

自主的に廃業する経営者がいる一方で、後継者の不在により、廃業を余儀なくされる企業も多く存在します。廃業を余儀なくされるほど後継者が不足する理由については、主に以下のようなものが考えられます。

経営者の高齢化

まずは、経営者の高齢化です。日本では高齢化が進んでおり、2060年には2.5人に1人は高齢者になるとされています(※1)。企業における経営者の高齢化も進んでおり、2021年では社長の平均年齢は過去最高の60.3歳。

(出典:帝国データバンク「全国「社長年齢」分析調査(2021 年」)

帝国データバンクが公開した資料によると、経営者の年齢が年々高齢化していることが分かります。経営者の高齢化が進む一方で、日本では未だに勤続年数や年功序列を重んじる企業も見られます。

年功序列を採用している企業では、後継者候補もそれなりの年齢に達しており、しばらくするとまた次の後継者を探さなければならないケースは少なくありません。こういった日本企業ならではの事情も、後継者不足の一因と考えられます。

参考資料:(※1)厚生労働省「平成28年版厚生労働白書 第1章 我が国の高齢者を取り巻く状況」

後継者候補の親族が会社を継ぐ意思がない

これまでの中小企業では同族経営を行っており、経営者の親族が会社の経営を継ぐパターンがよく見受けられました。しかし、時代の流れと共に働き方も多様化したことから、近年では後継者候補の親族が会社を継がないことも珍しくありません。

そのため「候補はいるものの、後継者がいない」という企業も増えています。こういった背景があることも、後継者不足の要因といってよいでしょう。

少子化による後継者の不在

後継者不足の理由にはさまざまな見解がありますが、少子化が影響しているという意見もあります。まずは、日本における少子化の現状を見てみましょう。

(出典:内閣府「第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題」)

上記は、内閣府が公開している出生数に関する資料です。資料を見てみると統計が開始された1947年以来、一時的な増加は見られるものの、減少し続けているのがわかります。また資料にある「年齢別未婚率の推移」を見ると、年々未婚率も上昇の傾向。1950年の統計開始から、右肩上がりに上昇を続けています。

内閣府が2011年に行った少子化に対する国際的な意識調査では、「子どもを産み育てやすい国だと思うか?」という質問に対し、約4割が「そうは思わない」と回答。今後も少子化が進んでいくと予想されます。

後継者問題の場合、単純に子供が多ければ、誰かを跡継ぎとして擁立できる可能性は高くなります。しかし少子化が進んでいる日本では、子どもが多いという家庭は少ないでしょう。仮に子どもがいたとしても、1~2人では後継ぎがいないというケースに発展しやすいことは、想像に難くありません。このような背景があることから、少子化も少なからず、後継者不足に関係しているといえそうです。

後継者不足で廃業した企業の事例5選

続いて、実際に後継者不足で廃業した企業の事例を見てみましょう。以下でご紹介する5つの企業は、後継者不足を理由として廃業に至っています。

世界に誇る注射針で有名な企業が後継者不在で廃業したケース

東京都にある「岡野工業」は、従業員3人の町工場。しかしながら30もの特許を取得する技術力を持ち、自動車部品の製造を中心に約8億円の年商がありました。なかでも大手医療メーカーから依頼されて制作した注射針は、蚊の口器と同じ3ミクロンという細さ。

痛くない注射針として、糖尿患者のインシュリン注射などに用いられています。世界に誇る技術を持ちながら、岡野工業は代表の岡野社長が85歳を迎えた2018年に、後継者の不在により廃業。岡野社長には2人の娘がいましたが、どちらも家業を継ぐ意思がありませんでした。

なお、この注射針を作る技術を持つのは、岡野工業だけとのこと。岡野社長は「未練はない」とおっしゃったそうですが、世界で唯一の技術が失われるのは、国としても大きな損失といえるでしょう。

酒造所が後継者を見つけることができず廃業したケース

沖縄県宮古島にある琉球泡盛酒蔵所「千代泉酒造所」。1948年の創業以来、銘柄「千代泉」の泡盛が地元住民を中心に親しまれていました。しかし2013年に経営者が亡くなってからは、後継者が見つからず休業状態。親族や島内の酒造所を中心に引継ぎ先を探しましたが見つからず、2018年に廃業を余儀なくされました。

沖縄県酒造組合の専務理事によると、県内における酒造所の半数は離島にあり、従業員が少数しかいない小規模な酒造所も複数あるとのこと。「後継者不足が課題と認識しており、組合としても人材育成を支援していきたい」と話したそうです。

千代泉酒造所では、長い期間後継者を探していましたが、結局見つかりませんでした。泡盛は出荷量の減少が続いているようで、小規模酒造所を中心に事業承継の難しさが課題となっている状況です。

老舗菓子店が後継者不在により廃業したケース

京都府で200年近い歴史を誇る老舗「京菓子匠 源水」。江戸時代後期の1825年に創業され、松の幹を表現した生菓子「ときわ木」は川端康成も好んで食したそうです。店主は持病をもっており、高齢により症状が悪化。しかし、店主の娘2人は結婚により嫁ぎ、弟子も不在だったため、2018年に閉店しました。

店主は「後継ぎがいないので、廃業せざるを得なかった」と話しており、後継者探しを支援する公的制度なども知らなかったそうです。公的支援制度やM&Aが広く認知され、店主が活用できていれば、結果は違っていたかもしれません。

後継の話もしておらず社長の急死によって廃業したケース

モノづくりの町、大阪府東大阪市で鋳物業を営む「上田合金所」。この地域は江戸時代に「河内鋳物」で知られており、上田合金所では工業製品の制作、および博物館向けに銅鐸や銅鏡の復元も行っていました。

上田合金所は、地域でも文化的な仕事を守る企業として認知されていましたが、経営者である上田社長が自宅で倒れ、翌日に亡くなりました。上田合金所では後継の話もしておらず、負債を抱えていたこともあり、2015年1月に廃業を余儀なくされました。

なお、この地域は町工場など6千社がひしめき合う中小企業の町。しかし近年では職人の高齢化が進んでおり、ある企業の社長によると「職人は70歳以上ばかり」とのこと。また、この社長は市の担当者に対し、「もうやめるしかない」とも話していたようです。

このケースからは、地域全体の高齢化が企業の廃業にも、大きな影響を与えていることが分かります。

経営者が自ら廃業を望んだケース

東京都の荒川区にたたずむ駄菓子屋「梅の花本舗」。主力商品である「元祖梅ジャム」は、年代問わず高い人気を誇り、長い間親しまれてきました。しかし2017年末、店主は高齢を理由に生産を停止。2018年12月をもって、閉店に至りました。

戦後70年に渡り守り続けてきた「元祖梅ジャム」。廃業が正式に発表されると同業他社から「生産を引き継ぎたい」という申し出、および後継者候補まで現れたそうです。一方で店主の高橋さんは、「あたしの味は誰にも出せない」と語っており、事業承継には至りませんでした。

なお、店主いわく廃業はずい分前から決めていたとのこと。およそ20年前、二人の息子が中学生のときには、「家は手伝わなくていい。自分のやりたいことをやりなさい」と話していたそうです。

中小企業の経営者では、初めから自分の代限りで創業するケースも珍しくありません。「元祖梅ジャム」はファンも多く、廃業時には全国から悲しみの声が上がりました。

(参考:日本経済新聞|「年末で消える元祖梅ジャム 創業70年、廃業選んだ信念」)

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後継者不足の廃業により発生するリスク

後継者不足による廃業で発生するリスクとしては、以下のようなものが挙げられます。

従業員の失業

まずは、従業員の雇用問題です。廃業すると会社が消滅することになるため、雇用されていた従業員は失業します。少数の廃業であれば影響も少ないですが、廃業が増えると多くの雇用が失われます。以下は、廃業した企業の従業員数をまとめたものです。

廃業した企業の従業員数
2013年 11万5562人
2014年 10万6366人
2015年 10万5189人
2016年 11万7003人
2017年 10万7757人
2018年 13万3815人
2019年 10万0107人
2020年 12万6550人

(出典:東京商工リサーチ「2020年 休廃業・解散企業 動向調査」)

全ての従業員が失業するわけではありませんが、毎年およそ10万人以上の方が廃業により、勤務先の変更や離職を余儀なくされています。致し方なく廃業に至る場合もあると思いますが、これまで力を貸してくれた従業員が失業する可能性がある点は、念頭に置いておきたいものです。

取引先企業の倒産

事業を展開するうえでは、さまざまな企業と取引しているでしょう。取引先によっては、自社が大口の顧客であるケースもあるはずです。自社が廃業した場合、自社を大口の顧客としていた取引先企業は大きな打撃を受けるでしょう。経営を立て直せないときは、倒産してしまう可能性があります。

なお、得意先企業にも取引先があるため、状況によっては連鎖的に倒産することもあり得ます。このまま全国的に廃業が進むと、日本経済にも大きな影響を与えるでしょう。

地域社会への影響

中小企業では、地域密着型の事業を展開しているケースが少なくありません。従業員も地元の方を雇用していたり、提供しているサービスも地域に大きく貢献していたりするはずです。しかし廃業してしまうと、そういったものが全て失われます。

状況によっては、地元住民の生活に影響が出ることもあるでしょう。例えば、日用品を販売する小売店が廃業したとします。近隣に同じような店舗がなければ、住民のなかには困る方もいるでしょう。実際に高齢化が進み、交通機関が整備されていない地方では、深刻な問題です。

このように廃業は、地域社会にも大きな影響を与えます。

後継者不足による廃業以外の選択肢

後継者不足による廃業は、先述したようにさまざまなリスクが考えられます。もし、再考の余地があるのであれば、廃業以外の選択を検討してみましょう。廃業以外の選択肢としては、以下の2つが挙げられます。

親族・従業員への事業承継

まずは社内での事業承継です。社内にいる親族もしくは、従業員に会社と事業を引き継いでもらいます。親族・従業員への事業承継におけるメリット・デメリットを見てみましょう。

メリット

親族・従業員への事業承継には、以下のようなメリットが挙げられます。

  • 事業をよく理解している後継者に引き継げる
  • M&Aに比べると従業員への影響が少ない
  • 条件を満たせば「事業承継税制」の適用を受けられる

社内で事業承継を行う場合、社内事情に精通している後継者に引き継げるのがメリットです。事業を展開するうえでは、社内からの視点も非常に重要。例えばいくら似たような商品であったとしても、自社商品における本来の価値は社内にいてこそ、分かる部分があるでしょう。

商品本来の価値を理解していないまま、マーケティングやブランディングを進めても、ユーザーに企業価値や商品価値は伝わりません。当然ながら、業績にも大きな影響を与えるでしょう。

M&Aでも、類似した事業を展開する企業に引き継いでもらうことは可能。しかし、商品本来の価値を理解してもらうには時間を要するでしょう。また、社内制度が大きく変わる可能性がある点にも注意が必要です。

M&Aで引き継いだ企業がこれまでの体制を大きく変えてしまうと、従業員には大きな負担となります。ついて行けなくなった従業員は、退職してしまいかねません。社内で事業承継を行うのであれば、後継者も社内の事情を理解しているため、従業員への影響を抑えられます。

デメリット

次にデメリットとしては、以下のようなものが考えられます。

  • M&Aよりも得られる売却益が少なくなる場合がある
  • 親族に後継者候補が複数いるときは揉める可能性がある
  • 後継者候補の親族に適任者がいるとは限らない

社内で事業承継をする場合は、社内の理解を得られるかがポイントです。特に親族内に複数の後継者候補がいるときは、揉めるケースがよく見られます。話がまとまらない場合には、親族全体を巻き込んだ大きなトラブルに発展する可能性もあります。

実際、事業承継を巡り、親族同士が疎遠になった例も少なくありません。社内で事業承継を行う際は、該当する人物が後継すべき明確な理由を用意しておく必要があります。なお、抽象的な理由では納得しない方もいるため、該当人物の実績などは明確化しておきましょう。

M&Aによる事業承継

M&Aによる事業承継も、廃業以外の選択肢のひとつです。M&Aで事業承継を行う場合には、以下のようなメリット・デメリットが考えられます。

メリット

M&Aのメリットは以下のとおりです。

  • 企業価値を高く評価してもらえると社内での承継より売却益が多くなる
  • 交渉によっては負債を売却先の企業に引き継いでもらえる
  • 買手企業とのシナジー効果によっては事業存続の可能性が高くなる

M&Aを実施する際は、買手企業がはじめに企業価値などの調査を行います。シナジー効果が大きい買手企業であれば、企業価値を高く評価してくれる可能性もあるでしょう。将来的な価値を上乗せしてもらえると、社内承継より売却益を多く得られます。

また、買手企業とのシナジー効果は事業存続の可能性を高めます。昨今、国内市場は業種を問わず飽和状態。市場には類似する商品やサービスが溢れかえっており、いずれの企業も日々競合他社との差別化を図っています。

社内承継でも事業を存続させることはできますが、社内のみで事業を展開していくことになります。すでに経営が停滞しているときには、後継者が新たに効果的な施策を実施しなければなりません。

対してM&Aの場合、買手企業が持つ技術と自社の技術を組み合わせることで、シナジー効果に期待できます。市場のニーズにマッチした商品・サービスを提供できれば、業績アップにつながり、飽和状態の市場でも生き残れる可能性が高くなります。

デメリット

M&Aのデメリットは以下のとおりです。

  • 売却先が見つかるとは限らない
  • 相手企業と交渉を行わなければならない
  • 社内の理解が必要

M&Aは、買手企業が見つかってこそ成り立ちます。買手企業が見つからなければ、事業承継はできません。買手企業を探さなければならない点が、M&Aにおける最大の障壁といえるでしょう。

またM&Aの実施は、社内の理解を得ることも大切です。M&Aは職場環境が大きく変化する可能性もあるため、納得しない従業員もいます。理解を得ないまま強引に進めてしまうと、多数の従業員が一気に退職する事態にもなりかねません。買手企業もシナジー効果が得られないと分かれば、M&Aから手を引いてしまうでしょう。

M&Aを検討するときは、まずは社内の動向について把握しておくことが重要です。特に取締役などの幹部は納得しないケースもよく見られるため、コミュニケーションを取り、少しずつ理解を促していきましょう。

後継者不足による廃業を回避するために経営者が取り得る対策

後継者不足による廃業を回避するには、早めの取り組みが重要です。経営者が取り得る対策としては、以下の施策が挙げられます。

後継者の育成

社内で事業継承を行うときは、後継者の育成が必要です。ただし自分の所感を頼りに育成しても、後継者の擁立はうまくいきません。後継者の育成を行うときは、以下のポイントをおさえ、具体的に取り組んでいくことがポイントです。

後継者育成に対する取り組みのことを「サクセッションプラン」といい、近年では同族経営以外の企業でもさかんに取り入れられています。

後継者選びのポイント

後継者を選ぶときは、候補として選抜する人数やポストに対する人材要件、職務内容などを明確化しておくことがポイントです。曖昧な基準で選んでも、経営者としての資質を適切に判断することはできません。

例えば経営者となる人物には、「経営能力」が必要です。具体的なスキルとしては、決断・判断力や会計に関する知識、教養やコミュニケーション能力などが求められます。仮に営業実績が豊富な人材でも、これらの能力に乏しければ、経営者に適任とはいえません。後継者候補には、経営能力に優れた人材を選ぶべきといえるでしょう。

なお、人材要件や職務内容を明確化するには、まず自社が掲げるミッションやビジョンを明確にすることから始めます。これらを明確にすることで、自社における今後の方向性が定まり、設定すべき人材要件や職務内容が見えてきます。

人材要件や職務内容を明確化したら、クリアできそうな人材をピックアップしましょう。はじめから全てをクリアできる人材は見つかりにくいため、現在のポテンシャルや実績を考慮し、階層別にプールしておくことも大切です。

後継者育成について

候補者の人選が済んだら、候補者の現状に応じて育成方法とスケジュールを立案しましょう。後継者の育成方法は、大きく社内と社外に分かれており、それぞれ以下のような取り組みが必要となります。

社内での取り組み
目的 施策 内容
社内業務の把握とスキルの習得 部署・役職のローテーション
  • 候補者には営業や財務、会計など複数の部署の実務に入ってもらい、経験と知識を身に付けてもらう
経営能力の育成 権限の譲渡
  • 業務スキルと経営スキルは異なるため、経営者としての経験を積ませる
  • 経営幹部としての参画、経営に関する意思決定や交渉を任せる
リーダーシップの育成 新規事業立ち上げなどの経験
  • 新規事業は避ける予算が低く、社内でも優先順位が低くなりがち
  • 不利な状況をどう打開していくかを経験させることで、先見性や決断力を養う
自社の経営に必要なスキルの習得 現経営者からのフィードバック
  • 自社の経営に必要なスキルは企業ごとに異なる
  • 現経営者からのフィードバックをもとに育成を進めることで、自社の経営に必要なスキルの習得を目指す
社外における施策
目的 施策 内容
人脈形成、コミュニケーション能力、マネジメント能力の育成 ビジネススクール・セミナーへの参加
  • 経営に関する基礎知識、スキルを学ぶ
  • 自社の事業展開に活用できるよう、他の参加者(経営者候補)との人脈を形成する
他社のノウハウ習得、俯瞰的な視野の育成 他社への勤務
  • 他社へ勤務させることで、自社にはない新たな経営手法を身に付けさせる
  • 異なる視点を持つ人と接することで、経営者としての視野を広げる
実践経験を積ませる 関連会社、子会社への出向
  • 経営者としての能力が身に付いてきたら、関連会社や子会社への経営に参画させる
  • 実践でこそ得られる責任感、ノウハウを身に付けられる

上記は、後継者候補を育成する際の代表的な施策です。取り入れるべき施策は企業によって異なるため、自社に適した内容を盛り込みましょう。

M&Aに向けた準備

自社に後継者がいない場合の経営者が取り得る手段としては、M&Aなどが挙げられます。ただしM&Aを実施するためには、買い手企業を見つけなければならないため、「この企業を買収したい」と思ってもらうような努力と準備が必要です。

M&Aを実施する際、買い手企業は売り手企業に対して、企業評価を行います。企業評価のときに用いる手法は、大きく分けて以下の3つです。

インカムアプローチ 企業の将来性、収益性に着目した評価方法。売り手企業の将来性を鑑み、企業価値を算出する。
コストアプローチ 貸借対照表の純資産に着目する評価方法。売り手企業のこれまでの実績をもとに企業価値を算出する。
マーケットアプローチ 類似する企業や市場に着目する評価方法。類似企業や類似業種と売り手企業を比較することで、企業価値を算出する。

上記の企業評価に加え、M&Aでは買い手企業がデューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスとは、事業・財務・法務などの観点から、対象となる企業を総合的に調査すること。企業価値をより正確に判断するために行われるもので、M&Aでは売り手企業の価値だけでなく、簿外債務などの表面では確認できないリスクの調査を目的としても、実施されます。

売り手企業がM&Aを成功させるには、上記の内容を踏まえつつ、買い手企業に対して自社の魅力をアピールする必要があります。ただし一方的なアピールになっては、買い手企業に魅力を感じてもらうことはできません。自社に魅力を感じてもらうには、買い手企業の立場やメリットを考慮して交渉を進めることが大切です。

補助金の活用

後継者不足による廃業が増加することについては、政府も事態を重くみており、回避するための公的制度も設けられています。公的制度を活用することで、社内での事業承継やM&Aにかかる負担を減らすことが可能です。利用できる公的制度としては、以下のようなものが挙げられます。

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継を契機に新しい取り組みを行う中小企業を支援する制度です。定められた条件を満たすことで、取り組みに要した経費の一部もしくは、事業継承などに要した経費の一部に対して補助金が支給されます。

設定されている補助金の類型は、「経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業」の3種類。事業承継の内容によっては、補助金の併用も可能です。それぞれ対象となる事業者は、以下のようになっています。

経営革新事業
  • 事業承継やM&Aをきっかけとした経営革新にチャレンジする中小企業
  •  M&Aで経営資源を承継しようとする中小企業
専門家活用事業
  •  M&Aにより経営資源を第三者に承継するまたは、第三者に承継予定の中小企業(個人事業主を含む)
廃業・再チャレンジ事業
  • 再チャレンジを目的として既存事業の全部、または一部を廃業する中小企業

なお、支給条件や対象期間は補助金ごとに異なります。詳しくは、以下にある「令和4年度 当初予算 事業承継・引継ぎ補助金」をご参照ください。

(出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和4年度 当初予算 事業承継・引継ぎ補助金」)

小規模企業共済制度

小規模企業共済制度とは、「独立行政法人 中小企業基盤整備機構」が運用する中小企業の支援を目的とした制度です。事業承継では、「事業承継貸付け」という制度を利用でき、事業継承に要する資金を低金利で借入できます。本制度の概要については、以下のとおりです。

借入限度額 50万円以上1,000万円以下(※借入は5万円単位)
借入期間 500万円以下:36カ月505万円以上:60カ月
利率 種別によって異なる(※詳しくは出典「独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 事業承継貸付け」」を参照)
申込受付期間 事業承継日から1年以内または、事業承継予定日の1年前より

中小企業基盤整備機構は、国や自治体と連携して中小企業をサポートしている法人です。低金利で事業資金を調達できるため、事業承継時に資金面に課題がある際は、利用を検討してみてもよいでしょう。

(出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 事業承継貸付け」)

全国に設置された事業承継に関する相談窓口へ相談できる

事業承継に関しては、公的機関による相談窓口が全国に設置されています。相談窓口では、後継者不足に関する解決策の模索、M&Aにおけるマッチングなど事業承継に関すること全般を相談できます。主な相談窓口は、以下のものが挙げられます。

事業承継に関する公的機関の相談窓口

  • 事業承継・引継ぎ支援センター
  • よろず支援拠点

上記の窓口では、経営の課題についても相談できるため、承継後の事業に不安があるときは活用してみてもよいでしょう。

専門家への相談

事業承継時には、適切な手順に沿って手続きを進めていく必要があります。しかし、法的な知識も必要となるため、自社のみで対処するのが困難というケースもあるでしょう。

そのようなときには、弁護士などの専門家へ相談するのがおすすめです。専門家は事業承継に精通しており、経験も豊富なため、自社の状況に応じてさまざまな角度からアドバイスをしてくれます。複雑な書類手続きも代行してくれるため、事務手続きもスムーズに進められるでしょう。

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まとめ

後継者不足による廃業は自社の周辺だけでなく、国にとっても大きな課題です。廃業が進むと財政が圧迫され、国民の負担が増加する可能性も考えられます。実際、近年では医療費も膨らんでおり、企業が負担すべき保険料も年々増加している状況です。

一方、後継者不足から廃業を選択する企業は増えており、近年では毎年6割以上の企業が黒字であるにもかかわらず、廃業を選択しています。廃業も有効な手段のひとつではありますが、日本の現状を鑑みると、廃業以外に事業継承やM&Aなどの選択肢も勘案すべき時期にきているのかもしれません。今後、企業は廃業のメリットやデメリットを理解した上で、最適な選択を取っていくことが大切です。

さまざまな視点から現状を分析し、自社にとって一番良い選択肢を探しましょう。