事業承継における株価対策!
事業承継が行われる際に、経営者の保有株式を後継者に株式譲渡することが一般的ですが、いざその株式譲渡の時になって、保有株式の価値が巨額になっており、巨額の相続税や贈与税が発生したり、後継者が巨額の株式買い取り資金を用意する必要に迫られ、事業承継がスムーズに実現しないことが多くなっています。そこで、本稿においては、事業承継を見据え、保有株式の価値(株価)のコントロールすることの重要性に鑑み、事業承継における株価対策として、株価対策としてはどのような方法があるのか、またその前提として株価はどのように決定されるのか、について解説してゆきたいと思います。事業承継を検討されている経営者・後継者候補者にとっては必見です。
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事業承継における株価対策
中小企業の事業承継で株価対策はとても重要です。
事業承継時、自社株の株価をどの程度コントロールできているかで、後継者が払う贈与税や相続税の額に影響するばかりか、事業承継が成功するかどうか、その結果にまで強く影響してきます。
それだけに中小企業の会社オーナーは自社株の株価に無関心であってはなりません。
また株価対策には色々な方法があり、短期間で効果が出るものから長期に渡るもの、あるいは自社が適当と判断して処理しても税務署から無効とされてしまうものまで様々な対策があります。
それだけにせっかく株価対策するなら、会社経営者は、専門家のアドバイスもきちんと受けて、失敗のない対策を講じる必要があります。
この記事では、事業承継における株価対策を、なぜ自社株の株価引き下げが必要なのか、その重要性を解説するとともに、代表的な株価引き下げの方法として「経営者への退職慰労金の支給」を取り上げてその有効性を紹介します。
続けて株価対策するとき、基本知識として経営者に必要な株価算定の方法を企業規模別に3タイプ紹介し、それぞれの特徴を解説したのち、あらためて個々の株価算定方法に基づき、どのような株価対策があるのか詳細解説します。
これを読み終わればきっと、事業承継における株価対策の基本は万全となっているでしょう。
事業承継に自社株株価引き下げの必要性
まず、なぜ事業承継に自社株の株価を引き下げる必要性があるのか、その背景を考えてみましょう。
会社経営者が後継者に事業承継するとき、後継者に経営者が培ってきた経営手腕と同時に、経営権取得のため、持っている自社株を引き継ぐ必要があります。
その場合、後継者は経営権掌握のため、少なくても会社発行済み株式数の3分の2以上引き継ぎたいし、本来なら100%の引き継ぎが望ましいです。
ところが中小企業の中には、創業以来、経営が順調に推移し、好業績から利益が積み上がって莫大な内部留保を抱えたまま、今日に至っている会社もあります。
一方、中小企業の多くは、企業オーナーの所有する株式が非上場の株式で市場性がなく、簡単に他人に売却できない換金性に乏しい財産である反面、好業績から株価が非常に高く評価されてしまうネックがあります。
どういう点がネックかというと、株式評価が高いと、いざ経営者が後継者に事業承継しようと試みた際、後継者が買い取りのため莫大な資金を準備しなければならないからです。
また事業承継の方法は株式譲渡が一般的ですが、後継者は株式の買い取り資金を用意する一方、贈与や相続にかかる税金も負担しなければならず、株式評価が高いと、その総額は相当高くなります。
場合によっては、後継者がその資金を全額用意できず、事業承継を諦めてしまうことも起こります。
事業承継をスムーズに進めるためにも、会社経営者は自社株対策して株価を引き下げる必要が出てくるのです。
事業承継に自社株株価引き下げの決定版!社長への巨額の退職慰労金の支給
前章で中小企業の事業承継で、なぜ株価対策が必要か、その背景を理解してもらいました。
では自社株株価を引き下げるにはどんな対策が有効か、その対策には色々ありますが、この章ではそのうち、代表的な対策をひとつ取り上げてまず理解しておきましょう。
その対策とは現社長へ退任時、巨額の退職慰労金を支払うという方法です。
株価対策では、このような会社役員に対する退職金の支払いが評価を下げるのに有効でよく使われています。
株価がなぜ高く評価されているかというと、ひとつの理由がその企業の業績が好調で、利益が積み上がり内部留保額が厚くなっているからです。
しかし社長の退任(代表取締役→顧問・相談役など)タイミングを計って、まとまった額の退職金を払うと、一気に会社の利益を下げることができ、会社資産が減ることから株価が下がってきます。
その株価が下がったタイミングがまさに事業承継を実行するベストタイミングとなるのです。
なお中小企業経営者に対する退職金の額は以下の計算式で出すことができます。
- 退職金額=最終月額報酬×勤続年数×貢献倍率2~3倍
なお企業規模や役員在任年数によっても、貢献倍率等の内容は変わってくるので、詳しくは公認会計士、税理士等の専門家にご相談下さい。
事業承継に必要な自社株株価引き下げの理論・・・株価算定の3方法!類似業種比準価格・純資産価格・配当還元価格の計算方法や概要解説
前章では事業承継における株価対策として、会社役員に対する退職金支給という方法を取り上げてきましたが、株価評価が高い中小企業に対しては、もちろんこの方法だけで十分ではありません。
スムーズな事業承継を実行するためにも、考えつく限り、様々な対策を講じて自社株株価を引き下げる努力が必要です。
しかしその前に、株価算定にはどのような方法があるのか、また自社株の株価はどの方法により評価されるのか、その点をしっかり理解しておかねばなりません。
経営者や後継者が自社株の株価算定の方法も知らないと、いざ専門家からアドバイスを受けても、内容を浅くしか理解できないか、あるいは全く理解できないリスクもあるからです。
事業承継の方法や実施について最終決定するのは経営者及び後継者自身です。
株価算定方法にも強くなり、しっかり理論武装しておきましょう。
株価が上がる原因と未上場株式の評価の決まり方
なぜ会社の株価が上がるかというといくつか要因があります。
創業時から利益が積み上がって分厚い内部留保がある、自社にしかない特殊な技術がある、会社が保有している資産に含み益があり資産的価値が高いなどです。
これらの要素を反映して株価が高くなっているのです。
株価に関して、東京証券取引所等に株式上場している会社だと、すでに株式に市場価値が付いているので、その株価を見て売買判断することは誰でもできます。
一方、中小企業の多くを占める未上場株式の評価は、その評価の高低に関係なく、価値を測る物差しの市場が未整備なので、別の方法で評価せねばなりません。
その方法が国税庁の財産評価基本通達に基づく「取引相場のない株式等の評価」を使うことです。
この方式では、中小企業の株主構成を、まず「同族経営」か「非同族経営」かに分類し、さらに同族経営だと「原則的評価方式」で株価判定を行います。
ここで原則的評価方式とは、同族会社で運営されている会社を規模別に大中小に分けて株価の評価額を算出する方式のことをいいます。
一方非同族株主とは、一般的に会社経営に参加しておらず、配当を受ける権利のみ有している少数株主のことをいい、株価の評価方法も同族株主の場合とは違う評価方式を使い、これを「特例的評価方式」といいます。
同族株主、非同族株主で株価算定の評価方法が違う
同族株主と非同族株主の違いを簡単に説明します。
一般的に同族株主とは、会社経営者とその親族が有する株式総数が議決権割合の30%を越える場合、同族株主と判定され、非同族株主とは、会社経営には参画せず単に配当を受ける権利のみ有している株主のことをいいます。
日本の中小企業の多くはこの同族株主からなっており、株式評価するときには原則的評価方式でなされるため、経営者および後継者は、まずは同族株主の株価の評価方法をしっかり押さえておかねばなりません。
中小企業の会社の判定方法
同族株主の株価評価を行う原則的評価方法では、まず会社を規模別に大会社、中会社、小会社の3グループに分けて株価算定を行います。
また中会社においては、さらに中会社(大)中会社(中)中会社(小)に3分類されます。
つまり都合、5つのグループに分けて株価評価を行います。
これらの分類は、当該会社の属する業種によって、また総資産価額と従業員数または取引額のいずれか低い基準で決まるため、その組み合わせはかなり複雑なものになっています。
自社がどの会社分類に該当するかは、専門家の意見も聞いて的確に判断するようにして下さい。
以下が会社別に適用される株価算定の方式を一覧表にしたものです。
会社の判定方法 | ||
大会社 | 類似業種比準方式 | |
中会社 | 大 | 類似業種比準方式×0.9+純資産価額方式×0.1 |
中 | 類似業種比準方式×0.75+純資産価額方式×0.25 | |
小 | 類似業種比準方式×0.6+純資産価額方式×0.4 | |
小会社 | 純資産価額方式(中会社の併用方式も選択可) | |
※純資産価額が上記評価を下回る場合は純資産額となる |
大会社に分類される会社は類似業種比準方式を使い、中会社に分類される会社は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用、そして小会社に分類された会社は純資産価額方式を使います。
また小会社では、純資産価額方式に代わり、中会社に適用される併用方式も選択することも可能です。
さらにこれらの分類とは別の目的で設立された株式保有特定会社とか土地保有特定会社とかもあるので、これら特定会社は小会社と同じ純資産価額方式で株価算定されるルールとなっています。
類似業種比準方式とは?
未上場株式を株価算定する際、大企業に分類される会社に適用される方式がこの類似業種比準方式です。
下記にその計算式を一覧にしていますが、この方式を要約していえば、その会社の属する業種ですでに東京証券取引所等に上場している会社の株価をベースに、評価を受ける会社の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額を類似会社のそれぞれと比較して株価を決定する方式です。
また上場企業の株価と比較するため、類似業種比準方式で算定された株価は純資産価額方式で算定された株価より低くなる傾向があります。
この類似業種比準方式で株価算定し、株価対策で自社株株価を引き下げるには、自社の配当金、利益金額、および簿価ベースでの純資産価額のどれか個別で、または全部を引き下げる対策が必要になってきます。
類似業種比準価格方式 |
類似業種比準価格=A×[b/B + c/C + d/D]/3×係数※ |
※0.7 |
A=類似業種の株価 |
b=評価会社の1株当たりの配当金額 |
c=評価会社の1株当たりの利益金額 |
d=評価会社の1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額) |
B=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの配当金額※ |
C=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの年利益金額※ |
D=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)※ |
※係数について
上記計算式の中で係数「0.7」は、「取引相場のない株式の評価上の区分」に定める中会社の株式を評価する場合には「0.6」、小会社の株式を評価する場合には「0.5」とします。
※類似業種比準方式で計算するに当たり、株価算定に必要な類似業種データは国税庁のHPで確認できます。
純資産価額方式とは?
自社が会社の判定で、中会社の大中小のどれかに分類されたときに類似業種比準方式との併用方式で、または小会社に分類されたとき、株価算定で使う方式がこの純資産価額方式です。
純資産価額方式の計算式は下記に一覧にしていますが、要するに会社の資産から負債を引いて純資産価額を出す方式です。
もし会社が解散したら、その純資産価額が株主の配当となることから、この額をその会社の株式価値と見なす方式になっています。
また会社資産および負債を相続税評価額で出すため、資産や負債によって時価に対して含み益または含み損が発生しているときがあり、それを純資産価額に反映させるため、評価差額に対する法人税等相当額で調整しています。
この純資産価額方式で株価算定し、株価対策で自社株株価を引き下げるには、会社保有の純資産の額をできるだけ少なくする方策が有効ですが、類似業種比準方式に比べて引き下げに利用できる項目も少なく、どうしても株価に対する引き下げ効果は落ちます。
純資産価額方式 |
1株あたりの純資産価額={A-B-C}/発行済み株式数 |
A=資産の相続税評価額 |
B=負債の相続税評価額 |
C=評価差額に対する法人税等相当額※ |
※{(相続税評価額による資産合計額)-(帳簿価額による資産合計額)}×0.37 |
配当還元方式とは?
配当還元方式とは、非同族株主が持つ株式を株価算定するときの計算方式です。
事業承継時、同族株主でない方が株式を引き継ぐとき、この方法を使って株価を計算します。
一般的に上場済み株式と比べて非上場株式の配当金は高く、安定傾向にあるため、非同族株式の株価算定は計算しやすくなっています。
配当還元方式 |
1株当たりの配当還元価格=A/10%+B/50 |
A=その株式に係る年配当金額※ |
B=その株式の1株当たりの資本金等の額 |
※その株式に係る配当金額が2円50銭未満のもの、無配のものであれば、2円50銭とする |
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事業承継の自社株株価引き下げ方法!類似業種比準価格を引き下げる方法!
前章までに中小企業の非上場株式の株価評価の3方式を理解してもらえたと思います。
そこでこの章からは、事業承継を目的に自社株株価を引き下げるため、類似業種比準価格を引き下げる方法を具体的に紹介します。
計算式からも分かるように、類似業種比準価格を引き下げるためには、1株当たりの配当金額、利益金額、簿価純資産価額をそれぞれ引き下げる対策が有効です。
1株当たりの配当金額を下げる
類似業種比準価格を引き下げるためには、1株当たりの配当金額を下げるのが有効です。
そのためには、もともと非上場株式の配当金は、資本金の額が少ない理由もあって、上場株式に比べて高い傾向にあるので、株主総会で配当金の引き下げを決定して下げればいいのです。
あるいは中小企業の場合、会社オーナーが株式を100%所有している場合も多く、配当をゼロにする決定も簡単にできます。
いずれの方法も類似業種比準価格を引き下げるのに効果的ですし、株主への配当がどうしても必要なら記念配当や特別配当で別途対応すればいいだけです。
1株当たりの利益金額を下げる
類似業種比準価格を引き下げるためには、1株当たりの利益金額を下げるのも有効です。
また1株当たりの配当金額を下げる方法と比べてこちらは対策方法が豊富です。
役員報酬を引き上げ
会社の役員報酬を増額することは、経費として損金算入が認められているので、利益を下げるのに効果的です。
ただし役員報酬の額は事前に定款に定められており、経営者の独自判断で勝手に増額できません。
定款を越える増額は会社法違反となる可能性もあります。
そのため引き上げするなら、あくまで定款を変更した後に行わねばなりません。
また事業年度途中で増額した役員報酬は損金算入ができないのでこちらも覚えておいて下さい。
オーナーに生前退職金の支給
役員報酬の引き上げ同様、企業オーナーに退職金を支給することも、損金算入が認められていることから、利益引き下げ策として有効です。
経営者が代表者を外れて相談役などに退いたタイミングを狙って大きな額の退職金を会社から払うと、一度に現金が社外流出するので利益が圧縮できます。
ただし中小企業の役員退職金の額は、会社の規模や利益から算定されるので、あまりに高額な退職金だと税務署調査が入る可能性もあり、支給前には専門家とよく合議して適正な金額を決定して下さい。
会社で生命保険に加入
会社で生命保険に入るという対策も、その保険料が損金算入できるので、利益圧縮にはとても効果的です。
ただし加入する保険タイプには注意しなければなりません。
掛け捨て保険と呼ばれる定期保険などは、その保険料が全額損金算入を認められているのでおすすめです。
一方、終身保険など解約返戻金が受け取れるタイプ、あるいは一定額が配当として定期的に受け取れるタイプの保険などは損金扱いが難しい面があります。
保険の種類によって保険料の損金扱いが変わるので、こちらも加入前に専門家のアドバイスを受けておきましょう。
また多くの生命保険の価値は、事由ごとに支給が決められている解約返戻金にあるといわれています。
いわばその具体的事由が発生して初めて保険として価値を持つわけです。
しかし生命保険の初年度の価値はゼロなので、会社に資金余力があって、できるだけ多くの保険に入れるのであれば、支払う保険料も多くなり、その利益圧縮効果は大きくなります。
ただしこの方法は事業とは直接関係ないので、あくまで事業承継の一時的対策として使うようにして下さい。
不良債権の貸倒れ損失計上
会社資産には色々種類がありますが、たとえば売掛債権の中には回収できずそのまま不良債権として決算書に長年塩漬けにされている状態のものがあります。
これを事業承継のタイミングを見て、不良債権の貸倒れ損失として計上することで会社利益を圧縮することができます。
ただし貸倒れ損失として認められるには税務署の承認を要するので、きちんと税理士等、専門家と相談の上、会計処理するようにして下さい。
高収益部門の分社化
事業承継予定の会社に高収益を出している部門があり、それが会社利益の牽引車となって高株価に反映しているのなら、その部門を事業譲渡か会社分割で切り離し、別会社所属とすることで本体会社の株価を引き下げることができます。
また分社化した法人の経営を後継者に任せることで、事前の後継者教育にも利用でき二重の意味でこの対策は有効です。
オペレーティングリースの活用
法人でオペレーティングリースを活用し、利益を圧縮することで1株当たりの利益金額を下げ、類似業種比準価格を引き下げるのも有効な対策です。
オペレーティングリースとは、簡単に要約すれば、匿名会社を通じて大型のリース物件に出資した結果、短期間に多くの損金を計上でき、リース期間終了時に、損金の総額と同額か、またはそれ以上の利益を得られるという、利益の繰り延べスキームをいいます。
いわば法人が利用できる節税方法のひとつです。
オペレーティングリースの仕組みについてはかなり複雑なので、この記事では詳しい解説は省略しますが、大きな特徴としては、損金参入率が高いリース案件だと、自社が出資した初年度に、損金として7割から8割、次年度に2割から3割、計上できます。
この損金に関しては、リース物件を減価償却する際の匿名組合の赤字として特別損金で計上するため、法人各社が出資した割合に応じて、その特別損金も将来の益金とともに各社に振り分けられます。
出資する各社は、もし次年度に事業で大きな利益が出る予想なら、その仕組みを利用して一度に大きな利益圧縮が可能なのです。
またこの仕組みを事業承継のタイミングと合わせることで節税ができ、ひいては株価対策にもつながります。
1株当たりの簿価純資産価額を下げる
類似業種比準価格を引き下げるためには、1株当たりの簿価純資産価額を下げるのもまた有効な方法です。
こちらも具体的な対策として以下の2つがおすすめです。
含み損のある不動産等の会社資産の売却
含み損を抱えた会社所有の不動産を売却して譲渡損失を出し、会社の簿価純資産価額を下げるという対策があります。
土地等の不動産は所在する地域や市場動向によってその価値が大きく変動する資産のひとつです。
そのため会社が土地を購入した時点より後に、その価値が購入額より上がるものも下がるものもありますが、もし実勢価格が下がっていた場合、会社の決算書には購入時の簿価がそのまま載っているので、含み損が発生していることになります。
そこで株価引き下げ策として、低い実勢価格で資産を売ると、簿価より低く現金が手元に残ることから、譲渡損失処理ができるようになります。
これは簿価純資産価額を下げるという対策なので連動して自社株の株価も下がります。
含み益のある土地を、子会社を設立して移す
前段で含み損のある不動産を売却して譲渡損失を出す方法を紹介しましたが、逆に含み益のある土地を使って自社株株価を引き下げる方法があります。
それは含み益のある土地を、本体会社と別に子会社を設立してそこに移すという方法です。
事業承継予定の会社がなぜ高い株価となっているかというと、会社内で利益が積み上がった厚い内部留保があることや含み益のある土地などの不動産があることを反映しているからです。
そこで含み益のある土地等の資産を、分社化で社外に移すことで純資産価額の引き下げを狙います。
当然それは株価にも反映され下がってきます。
事業承継の自社株株価引き下げ方法!純資産価格を引き下げる方法!
前章では類似業種比準価格を引き下げる方法を紹介しましたが、この章では引き続き、自社株株価引き下げを目的として、純資産価格を引き下げる方法を解説します。
まずもう一度、すでに解説済みの純資産価額方式の計算式を思い出して下さい。
計算式から1株当たりの純資産価格を引き下げるためには、計算式の分子である相続税評価に基づく純資産を減らすか、または計算式の分母である株式発行数を増やす対策が有効であることが分かります。
そこで以下では相続税評価に基づく純資産を減らす方法と、株式発行数を増やす方法について順番に解説します。
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相続税評価に基づく純資産を減らす
相続税評価に基づく純資産を減らすことができれば、1人当たりの純資産価額も減らすことができ、自社株株価も下げられます。
具体的な方法としては以下の対策が有効です。
- 含み損のある有価証券や不動産等の会社資産の売却
会社資産として代表的なものに有価証券や土地建物等の不動産がありますが、それらの資産は保有している間に資産価値が下がってしまい含み損が出ていることがあります。
さらに土地建物などの資産は、取得から3年以上経過していると、土地は相続税路線価で、建物は固定資産評価額で評価されるので、さらに時価より低めの評価を受けています。(ただし取得3年以内の土地は時価評価)
したがって含み損のある有価証券や不動産を売却すると、取得時の簿価との間に売却損が発生するので、結果として純資産を減らすことができ、株価の引き下げにつながります。
新たに不動産を購入する
事業承継の株価対策として、新たに不動産を購入するという方法も相続税評価に基づく純資産を減らすという点では効果的な方法です。
会社は自社名義の不動産を購入するに当たり、借入れを使わなければ資金はまず会社保有の現金を使います。
しかし不動産は、購入時点かつ他社の所有物になった時点ですでに中古物となり価値が落ちる特質を持っているので、その特質を使って純資産を減らすことができます。
さらにその購入する不動産が賃貸不動産物件だと、純資産削減効果はさらに効果的です。
賃貸不動産物件を購入時点で、たとえ購入資金が現金100%でも、土地の評価は時価や公示価格の7割程度ですし、それが貸屋建付地だと建物の評価も含めて、さらに評価が下がります。
この方法で不動産を購入すれば、購入した時点から相続税評価に基づく純資産の価値の低下が始まっているので、1人当たりの純資産価額も下げられるし、ひいては株価の引き下げにもつながります。
ただし不動産の内容に関して注意したい点があり、それは購入する不動産はできるだけ本業に関係した物件を購入すべきということです。
いくら株価対策のためとはいえ、本業に全く無関係な不動産を取得してしまうと、後に事業発展の重荷となってのしかかってくる事態も考えられます。
不動産は決して安い買い物ではありません。
その道の専門家の意見も聞き、十分検討の上、適切な物件を選んで購入するようにして下さい。
株式発行数を増やす
1株当たりの純資産価格を引き下げるため、現在発行している会社株式の発行数を増やすという方法もあります。
株式発行数が増えれば、純資産価額方式の計算式において分母の値である株式発行総数が増えるので、1人当たりの純資産価額も下がるという理屈です。
株式発行数を増やす具体的な策としては、新たに株式発行する、あるいは第三者割り増し増資を実施するなどの方法があります。
中小企業の場合、会社オーナーが発行株式の100%を持っていることも多く、配当金をゼロにする決定と同じく、あらたな株式発行の決定や第三者割り増し増資の決断もそれほど難しくはないでしょう。
ただし新しい株式が発行されると、それに伴い自社と関係の薄い他社や個人に株を持たれるリスクや配当金の支払い義務が発生します。
したがって会社がノーリスクで簡単に株式発行数を増やすことは難しいので、この対策を実施する前にはしっかり専門家の意見も聞いて意思決定するようにして下さい。
会社組織を変更(持株会社化など)して自社株株価を引き下げする方法!
これまで類似業種比準価格方式、純資産価額方式を通じて自社株株価を引き下げする方法を詳しく解説してきましたが、それとは別に会社組織を変更して自社株株価を引き下げする方法がありますのでここで紹介します。
中小企業の中には、類似業種比準価格方式、純資産価額方式の両方を使って自社の株式評価を出す先もあると思います。
その結果、仮に会社の純資産価額が類似業種比準価格を上回っていたら、経営者としたらどのような判断をすべきでしょうか?
中小企業の会社株価は、会社規模に応じて、類似業種比準価格方式、純資産価額方式、及びその併用方式で計算され、会社の規模が大きくなるほど、類似業種比準価格方式で計算されるウェイトが高まり、一方で株価が下がる傾向があります。
そのため、純資産価額方式による評価が類似業種比準価格方式による評価を上回っているときは、上記の原理から、会社組織を変更し規模を大きくすればするほど、類似業種比準価格方式で計算される比重が高まってくるため株価が下がってきます。
もちろん会社の組織変更の決定については、綿密な計算の元で行われる必要があり、これも専門家のアドバイスや相談なしには進めることができません。
会社経営者や後継者は株価引き下げの有効策のひとつとしてぜひ覚えておきましょう。
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まとめ
事業承継における株価対策として、類似業種比準価格方式、純資産価額方式を中心に詳細解説してきました。
じつは株価対策にはこれまで解説してきた方法以外にもいくつか策はあります。
たとえば以下のような対策です。
- 赤字会社と合併する
- 従業員持ち株会の活用
- 持ち株会社を活用する
これらの対策も株価引き下げには有効なので、興味のある方は、機会を見つけてどのような方法か調べて、自社の対策に合いそうなら積極的に取り入れて下さい。
さらにこれ以外にも事業承継対策として、事業承継税制を活用して後継者の納税を猶予してもらうという方法も使えます。
事業承継税制は平成30年に改正され内容が大きく拡充されたので、様々な株価対策しても事業承継の対策がまだまだ十分でない会社にはこの制度の活用はおすすめです。