非上場株式の相続を放棄する方法とは?相続するデメリットや放棄の流れをわかりやすく解説 

故人が経営者であったり、経営者と知人・友人関係であったりして株式を引き受けていた場合には、相続人は株式を受け継ぐことがあります。 

 しかし、被相続人(亡くなった方)が非上場株式を保有していた場合に、それを相続すると困った事態に発展するケースもあります。こうしたケースで相続放棄を検討する相続人の方も多くいらっしゃいますが、相続放棄をするべきなのか迷う人も少なくありません。 

 この記事では、非上場株式が相続の対象となるケースにおいて、相続することの問題点や、非上場株式を相続したくないときの対処法、相続放棄する流れや期限などをわかりやすく解説します。 

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非上場株式を相続すると発生する問題・デメリット 

非上場株式を相続すると、さまざまな問題が生じるおそれがあることから、会社の経営に携わるのでない限り、相続については慎重に考えるべきです。 

上場株式とは異なり、非上場株式は基本的に価格が定まっておらず、自由に売買できる市場がありません。そのため、非上場株式を相続すると、主に以下のような問題点・デメリットが発生するおそれがあります。 

  • 価値が不明確で売却が困難 
  • 相続税が多額になりやすい 
  • 保有するメリットが少ない 

それぞれの問題点について、順番に詳しく解説します。 

価値が不明確で売却が困難 

非上場株式は、基本的に価値が不明確です。非上場株式は株式市場で取引されていないため、どのくらいの価値があるのか分かりにくいという問題があります。 

上場会社の株式は、証券取引所で取引されるため、その価値がはっきりしています。しかし、非上場会社の株式は価格が明確ではないため、その価値を正確に算出するためには専門的な知識が必要です。一般的に、非上場株式の価値を算定する際には、税理士や公認会計士などの専門家に企業価値を評価してもらわなければなりません。 

以上の点から、非上場株式は売却までの手間が多い点に注意しましょう。 

相続税が多額になりやすい 

非上場株式を相続すると、多額の相続税がかかる可能性があります。 

前述のとおり、非上場株式の価値ははっきりしないため、専門家に価値を算定してもらいます。その結果、非上場株式が高いと判定されると、それに応じて多額の相続税が課せられるおそれがあるのです。 

相続時に多額の相続税が課されたとしても、その後に非上場株式を売却できれば問題ないかもしれません。しかし、非上場株式は保有するメリットが少ないことから売却しにくいため、相続人からすると高い相続税だけが負担となる可能性があります。 

ちなみに、非上場株式を相続で取得した場合、以下の手順で相続税の税額を計算できます。  

  1. 株式の評価額を算出する 
  2. その他の財産と合算して遺産総額を算出 
  3. 負債・非課税財産・基礎控除などを差し引いて、課税遺産総額を算出する 
  4. 相続税の速算表を使って相続税額を算出する 

 相続税には取得金額に応じて税率が上がる累進課税方式が採用されており、国税庁のWebサイトから参照できる速算表の税率を適用させて税額を計算できます。 

 参考:国税庁「No.4155 相続税の税率」 

保有するメリットが少ない 

株主は株主総会での決議に参加し、会社の経営に影響を与えることができます。とはいえ、多くの投資家は会社経営への関心が少なく、非上場株式を保有するメリットが少ないです。 

そもそも非上場株式が少数の場合には、株主総会における議決権があったとしてもわずかしかないというケースが多く、会社の経営に影響力を発揮することができません。 

また、非上場株式が少数の場合、配当を受けられないケースが多いです。発行会社側で配当を実施できる状態にあるとしても、実際に配当を実施するかどうか、どれほどの金額で配当を実施するのかについては、取締役会や株主総会などで決められます。 

 取締役会や株主総会で多くの議決権を持つ株主が配当の実施を取りやめたり、配当の金額を減らしたりする決議を承認すれば、少数株主としては配当を受けられなくなる可能性が高まるでしょう。 

 以上の理由から、相続後に非上場株式を譲渡したいと思っても、それに魅力を感じる買い手が現れにくいため、買い手探しが難航し、結果として非上場株式の譲渡が難しくなることが多いです。 

非上場株式を相続したくないときの対処法 

同族経営の会社の場合、オーナー経営者が死亡した際は、その会社の後継者がそのまま非上場株式を相続するケースもありますが、自身とは関係のない会社の株式の場合、相続したくないと感じる相続人の方も多いことでしょう。 

 非上場株式を相続したくない場合、有効な対処法としては以下のような方法が考えられます。 

  • 相続放棄する 
  • 発行会社・第三者に買い取ってもらう 

それぞれの方法について、順番に詳しく解説します。 

相続放棄する 

相続放棄とは、相続人が、被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示および手続きのことです。相続放棄をすると、借金などの負債も含めて、すべての権利・義務を相続する必要がなくなります。 

 つまり、相続放棄は全財産に適用されるため、相続したい財産がある場合は選択できない点に注意が必要です。そのため、相続放棄は、故人が多額の負債を残している場合に実施されることが多いです。 

 参考:法テラス「相続放棄とは何ですか?」 

発行会社・第三者に買い取ってもらう 

非上場株式を一度相続した後で、それを発行会社や第三者に買い取ってもらうこともできます。 

 第三者に対して非上場株式を売却するためには、株主自身が非上場株式の取得を希望する第三者を探す必要がありますしかし、非上場株式買取を希望する第三者を探すことは非常に難しいのが実情です。 

 前述のとおり、非上場株式は、株式市場で取引されていないために売却が難しかったり、株式が少数の場合には配当を受けられなかったり、行使できる議決権がほとんどなかったりなど、保有するメリットが少ないです。したがって、非上場株式の譲渡を希望しても、それに魅力を感じる買い手が現れにくいため、買い手探しが難航し、結果として非上場株式の売却スムーズに進まないことが多いです。 

 また、もしも非上場株式の買取を希望する第三者が見つかったとしても、株式譲渡制限の問題解決しなければなりません。 

ほとんどの非上場株式には株式譲渡制限が付随しています。非上場株式の買い手が見つかったとしても、その非上場株式の発行会社の取締役会において株式譲渡に関する承認が得られなければ、その第三者に非上場株式を売却できません。 

とはいえ、もしその非上場株式の発行会社の取締役会の株式譲渡に関する承認を得ることができなかった場合は、発行会社側には別の買受人を探すか、もしくは発行会社自身が買受人となって、その非上場株式を買い取らなければならないという義務が発生します。 

 結果として、発行会社(もしくは指定買取人)に非上場株式を買い取ってもらえるため、基本的には非上場株式の売却は実現します。 

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非上場株式を相続放棄する流れ 

非上場株式の相続放棄を行う際は、基本的に以下の流れで進めていきます。 

  • 相続放棄にかかる費用の準備 
  • 必要書類の用意 
  • 財産調査の実施 
  • 家庭裁判所に対する相続放棄の申し立て 
  • 照会書・相続放棄申述受理通知書の到着 

それぞれの流れを順番に詳しく解説します。 

相続放棄にかかる費用の準備 

相続放棄にかかる主な費用は、以下のとおりです。 

相続放棄の申述書に添付する印紙代  800円(申述人1人あたり) 
郵便切手  500円程度(家庭裁判所による) 
被相続人の住民票除票又は戸籍附票  300円程度(市区町村による) 
被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本  750円 

相続放棄の手続きを自分で進める場合にかかる費用は、3,000~5,000円程度です。弁護士や司法書士などの専門家に手続きを代行してもらう場合には、上記に加えて依頼費用も発生します。 

必要書類の用意 

相続放棄を行う際は、以下の書類を用意する必要があります。 

  • 相続放棄申述書(相続放棄の意思表示を記した書類) 
  • 被相続人の住民票除票もしくは戸籍附票 
  • 相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本 

そのほかにも、相続放棄の申立を行う人と被相続人の関係性によって、追加で書類が求められます。 

 例えば、相続放棄の申立人が被相続人の配偶者の場合、上記の3つの書類に加えて、「被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本」が必要です。 

 また、申立人が被相続人の子どもや孫(代襲者)の場合には、上記の3つの書類に加えて、以下2つの書類が求められます。

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 
  • 申立人が孫の場合、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 

 下表に、そのほかの主なケースにおいて追加で求められる書類をまとめました。 

申立人と被相続人の関係性  追加で必要となる書類 
申立人が被相続人の両親や祖父母(直系尊属) 
  • 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本  ・被相続人の子どもで死亡者がいれば、その子どもの出生時から死亡時までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 
  • 被相続人の直系尊属に死亡者がいれば、その者の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 
申立人が被相続人の兄弟姉妹や甥姪 
  • 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 
  • 被相続人の子どもで死亡者がいれば、その子どもの出生時から死亡時までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 
  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 
  • 申立人が甥姪の場合、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 

財産調査の実施 

相続放棄を一度行うと、それを取り消すことはできません。そのため、相続放棄を決める前に、故人の持つプラスの財産(例:預貯金)とマイナスの財産(例:借金)の全体像を把握しておくことが大切です。 

 故人の財産は大まかに預貯金と不動産に分けられますが、預貯金は通帳・金融機関の書類、不動産は固定資産税通知書などで確認できます。もしも財産の詳細が分からなければ、弁護士に相談して財産調査を依頼することも検討しましょう。 

家庭裁判所に対する相続放棄の申し立て 

財産調査の結果、相続放棄を実施することを決定したら、被相続人の住民票の届出のある場所を管轄する家庭裁判所へ相続放棄を申し立てます。 

相続放棄は、相続人本人が申し立てるのが原則です。相続人が未成年の場合は、その親などの法定代理人が申し立てることになります。 

なお、相続放棄の申立先は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。 

照会書・相続放棄申述受理通知書の到着 

相続放棄を申し立てた後、10日ほど経過すると家庭裁判所から相続放棄に関する照会書が到着します。送付書には申立人による回答の記入を求める欄がありますので、必要事項を記入して家庭裁判所へ返送してください。 

返送から10日ほどで、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送付されてきます。これにより、相続放棄が正式に認められたことになり、手続きが終了します。 

非上場株式の相続放棄の期限 

相続放棄は、相続が開始したことを知ってから3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出し、それが受理されることによって認められます。 

 このように、相続放棄の申立には期限があるため、非上場株式の相続放棄を決めたら早めに手続きを済ませなければなりません。 

まとめ 

非上場株式を相続すると、さまざまな問題が生じるおそれがあることから、相続の実施については慎重に考えるべきです。 

非上場株式を相続したくない場合、有効な対処法には「相続放棄」もしくは「発行会社・第三者に買い取ってもらう」といった方法があります。ただし、いずれの方法を採用するにしても、複雑な手続きが求められることから、弁護士や司法書士などの専門家に手続きを代行してもらうことをおすすめします。 

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