遺産の使い込みが発覚した!遺産遣い込み返還請求について!

相続の際は親族や他相続人に「勝手に遺産を使い込みされた」とトラブルになるケースがあります。中にはまとまった額の遺産があったのに、遺産の存在を知らずにいる間に被相続人の同居親族や他相続人などからすべて使われてしまうケースなどもあります。

相続時に相続人や親族などに遺産を使い込みされた場合は返還請求できるかが問題です。この記事では弁護士が遺産の使い込みに対する返還請求の可否や方法など、基本的なポイントを解説します。

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遺産の使い込みをされたら取り戻せるのか?

他相続人や同居親族などに遺産の使い込みをされた場合は返還請求が可能です。つまり「返せ」と主張でき、取り戻せるという結論になります。たとえ同居親族や相続人という立場があっても遺産を勝手に使い込むことは許されないのです。

使い込みがあった場合は不当に利得を得ているわけですから、遺産の使い込みに対して返還請求できます。

遺産の返還請求で取り戻せる額

遺産の返還請求をした場合に取り戻せる遺産は「自分が相続するはずだった分」になります。

遺産の使い込みをした相続人・親族の罰則

遺産の使い込みをされた側は使い込みをした側に「罰を受けて欲しい」という憤りがあるかもしれません。

ただ、刑法には以下のような定めがあります。

第二百四十四条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

条文に書かれている235条の罪と235条2の罪とは「窃盗罪」と「不動産侵奪罪」のことです。条文に該当する相続人の場合は刑が免除されます。

条文に記載のある者以外については窃盗により罰則を受ける可能性がある他、後見人に就任していた家族や親族の場合は業務上横領罪に該当する可能性もあります。

遺産の使い込みでよくあるケース

返還請求について説明する前に遺産の使い込みの具体的な事例についても見てみましょう。遺産の使い込みで親族間や相続人間でよくトラブルになるのは介護や財産管理をしていた場合などです。

同居親族などが預金を私的に使ってしまった

同居している親族が生活費や私的な支出のために被相続人の預金をおろしてしまうケースです。同居家族などが被相続人の印鑑やキャッシュカードを預かっている場合によくある遺産の使い込みケースになります。

介護時に親族などが使い込みをした

被相続人が要介護状態であったり、認知症などであったりする場合、同居親族が介護をしているケースが少なくありません。介護費用にかこつけて被相続人の財産を必要以上に出金し、自分の生活費やギャンブル、投資、趣味などに使ってしまう場合があります。

同居親族などが収入の使い込みをした

被相続人が不動産経営などをしている場合、毎月賃料などの収入があります。同居している親族や他相続人などが収入分を使い込むことがあるのです。賃料収入などの他には年金などを同居親族が使ってしまうケースがあります。

同居親族などが財産を勝手に処分した

被相続人が所有していた株式などの有価証券や不動産などを同居親族が勝手に換金し、売却金を使ってしまうあるいは我が物にしてしまうケースです。同居親族は印鑑など手続きに必要な物を持ち出しやすいため、このような使い込みがよく起きてしまいます。

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返還請求できる遺産の使い込み

基本的に遺産の使い込みがあれば返還請求自体は可能です。しかし、返還請求時に問題になるのは「使い込みの証拠」になります。

遺産の使い込みをした親族や他相続人に問いただしても「使い込みました。お返しします」と素直に応じることはまずありません。「使い込みの証拠はあるのか?」という話になります。証拠がなければ突っぱねられるのが関の山でしょう。だからこそ、返還請求のためには遺産の使い込みの証拠が重要になります。

仮に遺産の使い込みの証拠がなければ、使い込みをした本人に返還を請求しても「知らない」「生前に贈与の約束をしていた」などと言い逃れされるかもしれません。

裁判によって返還を求める場合も使い込みの証拠がなければ返還が認められにくくなります。使い込みをした本人が自主的に使い込み分を返還する場合を除き取り戻すことは難しいと考えるべきでしょう。

証拠がなければ使い込み分を取り戻すことは難しいことから、返還請求できるのは基本的に「証拠がある遺産の使い込み」になります。

返還請求が難しい遺産の使い込み

遺産使い込みの返還請求が難しいのは証拠のない使い込みです。

すでにお話ししたように、遺産を使い込んだ親族や他相続人が素直に返還に応じてくれればいいのですが、証拠がないと言い逃れされる可能性が高く、裁判などの法的手段を使っても返還請求が認められにくくなります。

言い逃れを許さず裁判などで請求が認められるためには、やはり証拠が必要です。よって、証拠のない使い込みについては返還請求が難しいと言えます。遺産使い込みの証拠集めについては後の見出しで触れます。

証拠のない遺産の使い込み以外で取り戻しが難しいのは以下の3つのケースです。

遺産の使い込みをした親族や他相続人にお金がなかった

遺産の使い込みをした親族に返還を請求しても、その親族あるいは他相続人が返還できるお金がなければ返してもらえません。お金がなければ返しようがないからです。

だからこそ、資金力があるうち、あるいは我が物とした遺産を使いきるまでのうちに急いで返還請求のために動くことが重要になります。また、仮差押えをするなど現実的な回収のために動く必要があります。

不当利得返還請求・損害賠償請求の時効が完成している

遺産の使い込みを取り戻す場合は交渉を行い、その後に不当利得返還請求あるいは損害賠償請求を行います。このあたりの詳しい説明は次の見出しで確認してください。

不当利得返還請求あるいは損害賠償請求を行う場合、それぞれの時効が問題になります。不当利得返還請求や損害賠償請求の時効が完成していると、遺産使い込みの事実があっても取り戻しはできなくなってしまうのです。

不当利得返還請求の時効は権利発生から10年、損害賠償請求の時効は損害発生と損害を与えた人物を知ってから3年になります。時効の計算や詳しい起算点、時効完成間際の遺産取り戻しについては、急いで弁護士に相談してください。

被相続人の健康状態などを考慮して妥当であった

被相続人の健康状態や病状などを踏まえて妥当な支出であれば返還請求はできません。

たとえば被相続人が治療に高額を要する難病にかかっていたとします。同居の家族は被相続人の高額な治療費を被相続人の預金から出していました。また、治療費が足りなかったため被相続人所有の不動産を売却して資金にしていました。

しかし、同居親族以外は「被相続人は病気で治療を要するらしい」くらいの認識しかなく、相続後に「治療にしてはあまりに高額の支出ではないか」と問題に発展したわけです。被相続人に高額の治療が必要でも、その事実は親族中、相続人すべてに周知されていないケースも少なくありません。

他相続人側から見ればあり得ない支出、つまり遺産の使い込みです。しかし同居家族側から見れば治療のためという理由と妥当性のある支出になります。このようなケースで被相続人の病状や健康状態を踏まえたうえで妥当であれば返還請求はできません。

妥当かどうかはケースバイケースで判断します。

使い込んだ遺産の返還請求方法と流れ

被相続人の同居親族や他相続人が使い込んだ遺産を取り戻せるとしても、具体的にどのような流れで返還請求を行えばいいのでしょうか。使い込みされた遺産の返還請求方法と取り戻しの流れについて解説します。

使い込まれた遺産を取り戻すときの流れ

使い込まれた遺産を取り戻すときの基本的な流れは以下の通りです。

  1. 証拠収集
  2. 話し合い(交渉)
  3. 遺産分割調停
  4. 訴訟(不当利得返還請求あるいは損害賠償請求)

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使い込まれた遺産の返還請求方法

使い込まれた遺産を取り戻すときの方法について、流れに沿って説明します。

遺産の使い込みについての証拠収集をする

遺産の使い込みについての証拠がないと返還請求は困難になります。よって、まずは遺産の使い込みがあったという証拠を確保する必要があります。なお、遺産の使い込みがあったと疑っているケースについては次の大見出し「遺産の使い込みを疑っている場合の調べ方」も確認してください。

証拠の集め方としては金融機関の取引履歴の取得や介護記録の確認、病院のカルテのチェックなど、被相続人の生活や財産にまつわる資料を取得することが基本的な方法です。

証拠収集では取得した各種の記録を確認してつじつまの合わない取引や出金などがないか見て行かなければいけません。かなり細かな作業になりますので、先に弁護士に相談して証拠集めや使い込みの確認を一任した方がいいでしょう。その方が時間もかからないため迅速に返還請求に移れますし、使い込みの見逃しもありません。

遺産の使い込み分を返還するよう話し合い(交渉)する

使い込みをした遺産について返還するように本人(使い込みをした人)に交渉します。

すでにお話ししましたが、遺産の使い込みをした本人を追及しても、まず使い込みの事実は認めません。本人と話し合いをするときは使い込みの事実を証明するに足る証拠を準備しておくようにしましょう。

話し合いについては弁護士に間に入ってもらった方がスムーズですし、専門家が出てきたということで交渉がまとまりやすくなります。

遺産分割調停

遺産の使い込みがあっても、相続人全員の同意があれば使い込んだ財産があるものとして遺産分割をすることが可能になっています。また、勝手に被相続人の財産が処分された場合については共同相続人の同意がなくても処分された財産があるものとして遺産分割を進めることが可能です。

民法第九百六条の二遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

遺産の使い込みをした相続人が使い込み分を返還できなくても、交渉などにより本人の承諾を得て「使い込み分をあるもの」として遺産分割調停などで分割を進めることもひとつの方法です。

訴訟(不当利得返還請求あるいは損害賠償請求)

話し合いで使い込みした遺産を返してもらえなかった場合や本人(使い込みをした人)が否定している場合、相続人間のトラブルに発展した場合などは訴訟による遺産の返還請求が考えられます。

訴訟で遺産を取り戻す場合は「不当利得返還請求」あるいは「損害賠償請求」のどちらかを使うことになります。どちらを使うべきか迷った場合は時効などを考慮して決めるのが基本です。

ただ、不当利得返還請求と損害賠償、どちらを選んでも遺産の使い込み分を返してもらうという結論は変わらず、どちらが得になるという話ではありません。

不当利得返還請求

不当利得とは「法的に正当な理由なく利益を得たこと」です。

遺産分割をして自分の分割分を得ることには正当な理由がありますが、遺産を私的に使ってしまうことは不当になります。不当に利益を得た場合は返還しなければいけません。不当な利益の返還を求める際に使われるのが不当利得返還請求です。

不当利得返還請求の時効は10年になります。

損害賠償請求

不法な行いによって他人に損害を与えた場合は損害賠償請求の対象になります。

遺産の使い込みは本来その遺産を受け取る人に損害を与える不法な行いであり、その行いで損害を与えたことになります。損害賠償請求によって使い込み分を請求することが可能です。

損害賠償請求の時効は3年になっています。不当利得返還請求と時効の期間が違っているため注意してください。

遺産の使い込みを疑っている場合の調べ方

遺産の使い込みが確信にいたっていない、つまり「使い込んでいるのではないか」と疑っている場合はどうしたらいいのでしょうか。

被相続人の他相続人や同居親族は財産の使い込みをしているのではないかと疑っている場合は証拠を集めることです。金融機関の入出金記録や財産関係の取引履歴、介護記録といった財産にまつわる記録を確認することで使い込みされているか調べるといいでしょう。

ただし証拠集めと同様で、遺産を実際に使い込んでいるか判断することや資料集め、実際に集めた資料を詳細に追うことは時間がかかります。資料や証拠収集を効率よく進めて使い込みの有無を的確に判断するためにも弁護士に任せることをおすすめします。

遺産の返還請求をするときの注意点

遺産の使い込みの返還請求するときは4つのポイントに注意が必要です。

仮差押えなどの対処と併用することも可能である

遺産の使い込みが発覚したときは訴訟などで回収する他に仮差押えなどの手続きを使うことも可能です。

仮差押えとは訴訟などの手続き中に相手が財産を使わないように(消費しないように)するための手続きになります。たとえば相続人の1人が遺産の使い込みをしている場合、訴訟中にさらに使い込みをするかもしれません。

また、使い込んだ分を回収したくても、相続人のお金がなくなってしまう可能性もあります。消費や処分を防ぐために仮差押えを申し立てて財産を仮に押えてしまうわけです。

遺産の返還請求をするときは費用にも注意が必要

遺産の使い込みを取り戻すときは「費用がいくらかかるのか」についても注意が必要です。なぜなら、取り戻した遺産と費用を比較して費用が上回ってしまえば結局マイナスだからです。

たとえば相続人のひとりが遺産を使い込んでいることが分かり返還請求したとします。使い込み分を調査すると50万円で、取り戻せた額も50万円でした。しかし、弁護士費用や訴訟費用、遺産使い込みを調査するために各種資料の取得費用などを合わせたら50万円を上回ってしまったらどうでしょう。遺産の返還請求でかえって損したことになるのではないでしょうか。

遺産の返還請求をする前に返還請求で取り戻せる額と費用を比較し損しないか確認することは重要です。弁護士に費用について確認してみましょう。費用の目安と費用を考えた上で使い込まれた分の遺産回収のために動くべきかアドバイスを求めてもいいでしょう。

遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)の利用も検討する

遺言書などで別の人に相続を指定され遺産を相続することになっていなかった場合は「自分が相続するはずだった分」がないわけですから、基本的に遺産の返還請求ができません。

ただ、配偶者や子供などの直系卑属、祖父母(被相続人の父母)などの直系尊属の場合は遺留分があります。遺留分とは法で定められた相続人それぞれが持つ「遺産に対しての最低限の取り分」です。

たとえば妻と子供のいる被相続人が遺言書で遺産をすべて赤の他人に渡してしまうと妻や子供の生活が困窮する可能性があります。遺産は被相続人の死後に家族の生活基盤になる財産でもありますから、被相続人と近しい関係にある相続人には最低限の遺産の取り分である遺留分が定められているわけです。

遺言書の関係で相続分がない場合は遺留分侵害額請求を使うことも方法のひとつになります。

遺産を取り戻す方法については弁護士に相談する

遺産を取り戻す方法には訴訟や交渉などがあります。すでにお話ししたように訴訟については2つのパターンが考えられます。また、遺言書などで指定されていない相続人になるはずだった人の場合は遺留分侵害額請求の利用なども考える必要があるのです。時効の問題もあります。

どの方法で遺産を取り戻すのが適切なのか判断することは難しいのが実情です。証拠集めや交渉なども専門知識を要しますので、遺産の使い込みが発覚したらまずは弁護士に相談してください。使い込みを疑っている段階で相談することも可能です。

最後に

同居している親族や財産管理をしている相続人などの場合は遺産を使い込んでしまうことがあります。遺産の使い込みがあれば返還請求が可能です。

遺産の使い込みを取り戻すためには証拠が重要になります。使い込みの証拠集めの段階から弁護士に相談し、スムーズに回収を進めてはいかがでしょう。

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