なぜ相続は揉めるのか?揉める原因・パターン、揉めないために知っておきたい知識と解決策を紹介します
相続時に家族同士で揉めてしまうというケースはよくあります。
元々仲が悪い家族でしたら揉めてしまうのも理解できますが、仲が良かったはずの家族でも揉めてしまうというケースは珍しくありません。
のこされた家族同士で揉めてしまっては亡くなられた方も浮かばれません。
この記事では、相続で揉める原因・パターン、揉めないために知っておきたい知識と解決策などをご紹介します。
相続とは
相続とは、ある人が亡くなったときにその人の財産(権利や義務を含む)を、特定の人が引き継ぐことです。
亡くなった人のことを「被相続人」、亡くなった人の財産を引き継ぐ人を「相続人」と言います。
誰が相続人になるか?
相続人(財産を引き継ぐ人)は、亡くなった人の関係に近しい人(親族)になりますが、その中でも「順位」があります。
ちなみに、ここでいう相続人とは「法定相続人」のことを指します。
被相続人(亡くなった人)に配偶者がいた場合、配偶者は常に相続人(財産を引き継ぐ人)になります。
そして、その配偶者との間に子がいた場合は、その子は第一順位となり、相続人は「配偶者」と「子」になります。
配偶者がいて子がいない場合は、父や母などの直系尊属が相続人となり、相続人は「配偶者」と「直系尊属(父・母など)」になります。
配偶者がいて、子も父や母などの直系尊属もいない場合は、相続人は「配偶者」と「兄弟姉妹」になります。
相続割合とは?
相続割合は相続人によって異なります。
- 相続人が配偶者と子の場合:配偶者1/2・子1/2
- 相続人が配偶者と父や母などの直系尊属の場合:配偶者2/3・直系尊属1/3
- 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合:配偶者3/4・兄弟姉妹1/4
例えば、相続財産が6,000万円・相続人が配偶者と子で子が3人いた場合、配偶者3/6(3,000万円)・子A1/6(1,000万円)・子B1/6(1,000万円)・子C1/6(1,000万円)となります。
どのような財産が相続財産の対象になるか?
- 現金
- 預貯金
- 株式などの有価証券
- 土地や建物などの不動産
- 車両
- 貴金属
- 保険
- 賃借権
- 特許権や著作権
- 金融機関からの借入金
などが挙げられます。
また、「名義預金」も相続財産となります。
名義預金とは、子や孫の預金口座に親などが入金していた場合、実質的にはその親の財産とみなされ相続財産となります。
相続で揉める原因・パターン
なぜ相続で揉めるのか、その原因・パターンをご案内します。
家族の仲が悪い
一番わかりやすいケースですが、家族の仲が悪く財産の分割の際に揉めてしまうことがあります。
家族の仲が悪い場合は特に、生前に遺言書を作成するなど対策を講じましょう。
仲が良い家族が揉めるケース
意外かもしれませんが、仲が良い家族でも揉めてしまうケースがあります。
なぜ仲が良い家族でも揉めてしまうのか例を挙げます。
- 兄が事業を経営しており、その事業がうまくいってなく資金に困っており相続財産に固執する
- 姉の配偶者や知り合いが、あれこれと口をはさんでくる
- 生前介護をしていたのに、他の相続人と同じ相続割合は不満だと感じる
家族同士は仲が良くても、それぞれの背景事情によって揉めてしまうことがあります。
相続人が多い
相続人が多ければ多いほど複雑になり、遺産分割協議で揉めてしまうということがあります。
遺産分割協議とは、相続財産の分割方法について相続人全員で話し合い決めることで、成立には相続人全員の合意が必要なので相続人が多ければ多いほどまとまりにくくなります。
生前に特定の相続人だけ贈与を受けている
年間110万円までは贈与税がかからないため、生前に年間110万円ずつ贈与するというケースがあります。
しかし、その贈与の相手が特定の相続人だけだったと判明した場合、他の相続人から不公平だと言われて揉めてしまうことがあります。
被相続人の介護の負担割合が異なっている
親に介護が必要で、その介護を3人兄弟の長男だけがしていたとします。
その親が亡くなったとき、長男からすれば介護をしていたのだから自分が優先して相続財産を受けたいという気持ちがありますが、他の2人から理解を得ることができず揉めてしまうことがあります。
相続財産のほとんどが不動産である
相続財産のほとんどが不動産の場合、例えば相続人が3人いたとして、不動産を3つに分けるということはできません。
不動産を売却して、その売却代金を3人に分けられれば問題ありませんが、相続人の一人がその不動産に住んでおり他に移住したくないとなった場合揉めてしまうことがあります。
被相続人が会社の経営者である
被相続人が会社の経営者(=株主)であった場合、その会社の株式も相続財産となります。
その会社の業績が良ければよい程、株式の価額が高くなり相続税額も高くなってしまいます。
また、その株式を受けるということは、その会社の経営者になるということで、自身だけでなく従業員や取引先などに多大な影響を及ぼすことになりますので、相続人が経営者としての素質があるかなど複雑になり揉めてしまうことがあります。
相続で揉めないために知っておきたい知識
相続で揉めないためには、事前に知っておくべきことがいくつかありますのでご案内します。
遺言書
相続で揉めないために、最も効果的と言っても過言ではないのが遺言書です。
遺言書とは、被相続人(亡くなった人)が、生前に「自宅は妻に、現預金は子供に渡す」など自身の財産を誰にどのように渡したいという旨を文章にしてのこすことです。
相続で揉めるときに最も多いのが、遺産分割協議(相続人全員で相続財産の分割方法を決める)時に折り合いがつかずに揉めることがあります。
しかし、遺言書は遺産分割協議よりも優先されるため、遺言書があれば遺産分割協議を行う必要がなく相続手続きを行うことができます。
エンディングノート
エンディングノートとは、自身が亡くなったときのために家族や友人に伝えておきたい想いや希望を記したノートのことです。
遺言書との大きな違いは、遺言書には「法的強制力がある」に対しエンディングノートには「法的強制力がない」点が挙げられます。
よって、エンディングノートだけに希望を記したとしても、その希望が叶えられるとは限りません。
では、なぜエンディングノートをのこすかと言いますと、エンディングノートの書式は自由なので、存分に想いを記すことができ遺族にその想いが伝わる可能性が上がります。
一方、遺言書の書式は厳格に決められており、想いとしてのこしたいことも記せなかったりします。
相続で揉めないためには、遺言書とエンディングノートの両方をのこされることをおすすめします。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続財産の分割方法について相続人全員で話し合い決めることです。
成立には相続人全員の合意が必要なので、相続人が多かったり仲が悪かったりすると揉めてしまうことがあります。
遺産分割協議が必要なケースは、主に下記の通りです。
- 遺言書がなく法定相続分とは異なる遺産分割を行う場合
- 遺言書に記載のない財産が出てきた場合
よって、有効な遺言書があれば遺産分割協議をする必要がなく揉める可能性が下がります。
遺留分
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が最低限相続できる割合のことです。
例えば、法定相続人が長男・次男・長女の3人だったとした場合、それぞれの法定相続割合は以下の通りです。
- 長男1/3
- 次男1/3
- 長女1/3
相続人が子だけの場合の遺留分は、各人1/2となりますので以下の通りです。
- 長男1/6(1/3×1/2)
- 次男1/6(1/3×1/2)
- 長女1/6(1/3×1/2)
よって、仮に相続財産が6,000万円だった場合、遺言書に「6,000万円は全て長女に相続させる」と記したとしても、長男と次男はそれぞれ1,000万円(6,000万円×1/6)の遺留分があるので、長男と次男は遺留分侵害額の請求を行うことができます。
生前贈与
相続はその人が亡くなったときに、その人の財産を引き継ぐことです。
一方、生前贈与とはその字のごとく生きている間に財産を引き継ぐことです。
生きている間に財産を引き継ぐので、なぜその人に財産を引き継いで欲しいのか直接説明することができますので、理解を得られやすくなります。
注意点としましては、生前贈与をする財産の額が一人当たり年間110万円を超えてしまいますと贈与税が発生します。
贈与税と相続税は累進課税(財産が多いほど税率が高くなる)であり、贈与税は相続税よりも早い段階で最高税率に達しやすくなります。
- 贈与税:基礎控除後の課税価格3,000万円超(場合によっては4,500万円超)⇒税率55%
- 相続税:法定相続分に応ずる各人の取得金額6億円超⇒税率55%
相続で揉めないために生前に行っておくこと
相続で揉めないために生前に行っておきたいことをご案内します。
遺言書を作成する
相続で揉めないために最も効果的と言っても過言ではないのが遺言書なので、遺言書は是非作成しましょう。
遺言書の種類
遺言書には一般的に3種類あります。
一つ目が「自筆証書遺言」で、遺言者が自ら書いて押印し作成する遺言書のことです。
メリットは、自ら作成するので費用がかからず、また、遺言書を書いたという事実を誰にも伝えなくていいので手軽に作成できることです。
デメリットは、不備があった場合は無効になってしまうのと、管理の仕方によっては偽造されてしまったり紛失してしまったり、遺言書の存在が相続人に知られないといったリスクもあります。
また、家庭裁判所の検認を受けなければならず手間や時間がかかります。
不備があった場合は無効になってしまうリスクがあるため、あまりおすすめはできません。
二つ目が「公正証書遺言」で、2人の証人が立ち合いの下、公証人が遺言者から遺言内容を確認しながら作成する遺言書で、作成した遺言書は公証役場で保管されます。
メリットは、公証人が作成するので内容に不備が生じる可能性が低く、保管もしてもらえるので偽造や紛失のリスクがなくなります。
デメリットは、手続きに手間がかかることと、公証役場への手数料がかかることです。
手数料は相続財産額により異なりますが、数万円程度かかることが多いです。
手数料は発生してしまいますが、不備が生じる可能性が低く保管もしてもらえ安心なので、3種類の中で公正証書遺言をおすすめします。
三つ目は「秘密証書遺言」で、内容は秘密にしたままで存在だけを公証役場で認証してもらえる遺言書のことです。
メリットは、内容を誰にも知られないことと、遺言書が存在するという証明ができます。
デメリットは、内容を公証人が確認しないので、不備があれば無効になってしまうのと、保管するのは遺言者なので紛失や盗難のリスクがあります。
また、公証役場への手数料もかかります。
メリットに対しデメリットが大きいので、実務ではあまり見られません。
遺言書を作成する上でのチェックポイント
遺言書を作成するにあたりチェックポイントは以下の項目が挙げられます。
- 遺言書の種類を決める
- 遺言書の書き方に不備がないように気をつける
- 相続財産を漏らさないようにする
- 相続人の心情を想像しながら作成する
- 遺言執行者(遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人)を決めておく
ただし、より細かいチェックポイントを挙げるときりがありません。
遺言書の作成は弁護士などの専門家に依頼するのがおすすめ
相続は被相続人(亡くなった人)や相続人(相続財産を引き継ぐ人)の関係性によりどのような内容の遺言書を作成すべきか大きく異なります。
被相続人や相続人の関係性によって千差万別でチェックポイントも異なりますので、遺言書の作成は専門家である弁護士などに依頼しましょう。
エンディングノートも作成する
遺言書の作成とともに、エンディングノートも作成しましょう。
遺言書は書式が決められておりますが、エンディングノートは書式が自由なため相続人へ想いを伝えやすいので、遺言書とエンディングノートの両方を作成しましょう。
相続財産目録を作成する
相続財産があいまいだと混乱をまねきます。
これだけの現金や預貯金・不動産、絵画などのアート作品があるといった相続財産目録を作成することにより、混乱を避けることができます。
相続シミュレーションをする
自身の相続財産の対象は何になるのか、誰が相続人になるのか、財産を引き継ぐ相続人の相続税額はいくらなのかなど、事前にシミュレーションすることにより問題点が浮き彫りになります。
- 相続財産の多くが不動産の場合、相続人に相続税の納税資金はあるか
- 被相続人が会社経営者(=株主)の場合、その会社の株式は相続財産になるが、その株式を引き継ぐ相続人に経営者としての素質はあるか
生前のうちに問題点が浮き彫りになれば、対策を講じることができ揉めることを防ぐことができます。
生前に贈与する
相続はその人が亡くなったときにその人の財産を引き継ぐことなので、亡くなる前(生前)に財産を贈与するという方法もあります。
ただし、贈与税は相続税に比べ税金が高くなる可能性が高いので注意が必要です。
生前に家族に想いを伝える
遺言書やエンディングノートに想いを記す方法がありますが、生前に直接家族に想いを伝えるのも大事です。
センシティブな内容なので生前に想いを伝えるのは抵抗があるかもしれませんが、のこされた家族に直接自身の声で伝えるのは、相続時に揉めることを防ぐ効果的な方法と言えます。
相続で揉めないためにはいつから準備を始めたらいいか?
相続で揉めないために準備は、結論は「早ければ早いほうがいい」ですが、そうは言っても相続はセンシティブな内容のため、単純なことではありません。
健康状態を鑑みて考える
自身の健康状態により、相続対策をいつから始めるかというのは変わります。
現時点で健康であれば急ぐ必要はありませんが、そうでなければ、いつ万が一のことが起こるとも限りませんので、早めに対策を講じる必要があります。
不慮の事件・事故を鑑みて考える
現時点で健康であれば急ぐ必要がないと前述しましたが、不慮な事件・事故に巻き込まれる可能性も否定できません。
よって現時点で健康であっても、不慮の事態が起こり得るというお考えをお持ち下さい。
相続で揉めないための準備は早ければ早いほうがいい
前述の通り、のこされた家族が相続で揉めないための準備は早ければ早いほうがいいので、自身が亡くなられたときのことを考えるのは気が乗らないと思いますが、のこされた家族が揉めないために早めに相続対策をされることをおすすめします。
既に相続で揉めてしまった際の解決策
既に相続で揉めてしまった場合は、お互い感情が入り混じり当事者同士で解決するのは難しいです。
そうなってしまったら、第三者として弁護士などの専門家を入れましょう。
第三者として弁護士などの専門家を入れる
非常に残念ですが、相続で揉めてしまった場合は、弁護士などの専門家で冷静な立場の第三者を入れましょう。
ただし、注意点としましては、弁護士によっても相続が得意な弁護士とそうでない弁護士がいますので注意が必要です。
相続に得意な弁護士の探し方
知り合いに相続に得意な弁護士がいれば理想ですが、そのようなケースは少ないと思います。
そもそも、知り合いに弁護士がいるというケース自体が少ないと思います。
そのような場合、弁護士を紹介してくれるようなサービスで「法テラス」や「弁護士ドットコム」などで弁護士を紹介してくれますが、その弁護士が相続に強いかは限りませんので、弁護士を紹介されましたらHPなどで確認するようにしましょう。
まとめ
相続で揉めないためには、主に以下3点です。
- 遺言書を作成する
- 相続人(のこされた人達)のことを考える
- 弁護士などの専門家へ相談する
相続は複雑で被相続人と相続人の関係性により、また被相続人の相続財産がどのような財産かによりどのような対策を講じるべきかが異なります。
その複雑さゆえ、仲が良かった家族同士でも揉めてしまうというケースも珍しくありません。
大切なのは、どのような揉めるポイントがあるのか把握し、早めにその揉めるであろうポイントの対策を講じることです。