相続税の算出方法!
日本の税金は非常に多くの種類がありますが、その中でも相続税は仕組み自体が非常にややこしく、税額の計算方法も複雑です。
固定資産税のように、課税標準に税率をかけてすぐに計算できるようなものではなく、納税義務者が自分の頭で考えるべき事項が色々とあります。
本章では、相続税を計算するための手順を3つの段階に分けて、基本的な計算手順を解説していきます。
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課税価格の計算
最初に必要になるのが課税価格の計算です。
課税価格とは、税金をかける対象になるものです。
被相続人は色々な相続財産を残すことになりますが、種類も価額も千差万別です。
現預金であれば分かりやすいですが、不動産などは相続税評価額ベースで価額を算出します。
また本来は相続財産となるようなものも、政策的な観点や国民感情に配慮して相続財産に含まなくて良い財産もありますし、逆に一見相続財産ではなくとも、公平性の観点から相続財産に含めて計算しなくてはならないものもあります。
こういった計算操作をするのがこの第一段階です。
まずこの段階の計算の全体像を確認すると以下のようになります。
①「相続財産」+②「みなし相続財産」-③「非課税財産」-④「債務控除」+⑤「生前贈与加算」 |
①は被相続人が残した現預金や不動産などを指します。
②~⑤を以下で見ていきます。
②は本来の相続財産に加えなければならない財産で、以下のようなものが該当します。
- 一定の生命保険金等
被相続人の死亡によって相続人等に支払われる生命保険金や損害保険金で、被相続人が保険料を負担したもの
- 一定の死亡退職金
被相続人の死亡によって相続人等に支払われるもののうち、被相続人の死亡後3年以内に支給額が確定したもの
③は相続財産から控除できる財産で、以下のようなものが該当します。
- 仏壇仏具など
- 一定の生命保険金(500万円×法定相続人の数が上限)
- 一定の死亡退職金(500万円×法定相続人の数が上限)
- 一定の死亡弔慰金
etc
④の債務控除も相続財産から減額計算できる財産で、一般債務と葬儀費用の別に以下のようなものが該当します。
<債務>
- 一般的な借金
- 未払いの医療費
- 被相続人にかかる未払いの住民税、固定資産税、所得税など
- 被相続人の連帯債務
etc
<葬儀費用>
- 通夜の費用
- 本葬儀費用
- 遺体の運搬費用
etc
上記<債務>については相続人と包括受遺者だけが適用対象になり、<葬儀費用>については相続人と包括受遺者の他に相続放棄者や相続権を喪失した者で葬儀費用を負担した者も適用対象になります。
⑤は、相続開始前3年以内になされた生前贈与財産について、相続財産に組み戻して計算するという相続税独特のルールです。
相続を予期してかけこみ的になされた生前贈与の効果をなくす作用があります。
贈与税には年間110万円までの基礎控除がありますが、生前贈与加算の組み戻し計算においては考慮しません。
また贈与税の配偶者控除により財産を取得していた場合、当該控除の特例を受けた額は組み戻し計算の対象に含めなくてOKです。
当該控除額を超えた分だけが組み戻し計算の対象になります。
このような計算操作を経て、第一段階では相続税の課税価格が算出されることになります。
相続税の総額の計算
第二段階は「相続税の総額」を算出する段階です。
最初に、相続税の基礎控除の計算を行います。
相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で、前項で計算した課税価格がこれ以下であれば相続税の負担は生じないことになります。
注意が必要なのは上記の「法定相続人の数」のカウントです。
民法上と税法上では相続人の考え方が異なり、この段階で使用するのは税法上の考え方です。
まず、民法上は相続放棄をすると相続人ではなかったものとみなされますが、基礎控除の計算上は相続放棄者も相続人の人数にカウントします。
また養子がいる場合のカウント法も独特です。
被相続人に実子がいる場合養子は一人まで、実子がいない場合でも養子は二人までしかカウントできません。
養子の算入を無制限に認めると基礎控除も無制限に拡大するため、不当な税逃れにつながることを抑止する目的があります。
ちなみに民法上の特別養子は相続税の計算では実子の扱いになります。
基礎控除額が判明したら、前項で計算した課税価格から基礎控除額を引いて、「課税遺産総額」を算出します。
次に、以下の計算式で各相続人の法定相続分に応じた取得金額を計算します。
「課税遺産総額×法定相続人の法定相続分」 |
各法定相続人が一旦法定相続分で相続したと仮定した計算過程が入るわけですね。
上記を計算したら、各法定相続人の取得金額に対応する税率を掛けます。
例えばAさんBさん、Cさんの三人がいれば、それぞれの取得金額に応じた税率を適用して計算します。
税率は以下で確認できます。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
最後に、上記で計算したそれぞれの数字を合計して「相続税の総額」が算出されます。
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各相続人が負担する税額の計算
この段階は、各相続人が実際に納付する相続税額を算出する過程です。
前項で計算した「相続税の総額」に「按分割合」をかけて、基本の負担額を算出します。
「相続税の総額×按分割合」=各人の基本相続税額 |
この後、各相続人に適用のある一定の加算と減算を行います。
被相続人の一親等の血族(代襲相続人含む)及び配偶者“以外”の者は、「相続税の二割加算」ルールの対象になるため、税額を二割増しで計算することになります。
また、相続税に用意されている一定の税額控除について、各人に適用のあるものを選択して減算を行います。
税額控除には以下のようなものがあります。
贈与税額控除
生前贈与加算によって相続財産に組み戻されて計算された贈与財産について、贈与時に贈与税を支払っていた場合は、その贈与税額を相続税額から控除します。
これは二重課税を防止するものです。
配偶者控除
配偶者にだけ特別に用意された大きな減税措置で、法定相続分または1億6千万円までのどちらか多い方の額までは相続税がかかりません。
未成年者控除
一定の未成年者について適用のあるもので、「20歳-相続開始時の年齢×10万円」を控除計算することができます。
障害者控除
一定の障害者について適用のあるもので、「85歳-相続開始時の年齢×10万円(特別障害者は20万円)」を控除計算できます。
相次相続控除
10年間に2回以上の相続があった場合に適用のある、相続税の負担を軽減するための措置です。
計算方法は複雑なためここでは割愛します。
外国税額控除
相続で取得した財産のうち国外にある財産について、外国の相続税に相当する税金を課されている場合、その額を相続税額から控除するものです。
以上の過程を経て各相続人が負担する実際の相続税額が算出されます。
まとめ
本章では相続税の計算方法について、3つの段階に分けてそれぞれの過程における計算操作を見てきました。
ご覧の通り相続税の計算はかなり複雑で、素人の方には難しいのが実情です。
相続財産の評価自体がまず難しいことや、計算過程では一旦相続税の総額を計算したうえで、各相続人の負担額を求めていくことになるため、手間が非常に多く、またややこしくなってしまいます。
下手に自己処理をして間違った計算をしてしまうと、後で修正が必要になったり、税務上のペナルティを課されて余計な罰金を支払わされることになりかねません。
相続税の手続きについては、多少の費用負担は覚悟してでも専門家に相談するのがお勧めです。