相続時精算課税制度の手続きについて必要書類や申告方法、税額の計算方法のポイントを詳しく解説
相続時精算課税制度の手続きについて必要書類や申告方法、税額の計算方法のポイントを詳しく解説
生前贈与を検討されている場合に、最大2,500万円まで贈与税が非課税となる相続時精算課税制度を活用できることがあります。
相続時精算課税制度を利用するためには所定の手続きが必要になりますので、この記事では手続きに関して知っておきたいポイントを解説していきます。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫等に対してする生前贈与について、2,500万円まで贈与税が非課税になる制度です。
相続時精算課税制度を利用するための要件は以下の通りです。
- 贈与をした年の1月1日時点で、贈与者が60歳以上の父母または祖父母等であること
- 贈与を受けた年の1月1日時点で、受贈者が18歳以上の直系卑属である推定相続人または孫であること
- 相続時精算課税制度にかかる最初の贈与を受けた年の、翌年の2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税制度を選択する手続きをすること
相続時精算課税制度は、一般的には子や孫に対する贈与に適用される制度ですが、子や孫等に代襲原因がある場合は、年齢要件を満たしているひ孫等にも利用することが可能です。
なお、法人版事業承継税制の特例の適用を受ける株式等を取得する場合や、個人版事業承継税制が適用される事業用資産を取得する場合は、受贈者が18歳以上であれば、子や孫等以外の者であっても相続時精算課税制度の適用を受けることができます。
相続時精算課税制度を利用する場合は、税務署に対して届出の手続きをする必要があります。
相続時精算課税制度の手続きをするための必要書類と申告方法
相続時精算課税制度の手続きでは、必要書類を揃えて届出をする必要があります。
また、毎年、贈与税の申告をすることが求められています。
以下では、相続時精算課税制度の手続きの必要書類と申告方法について概説します。
必要書類
相続時精算課税制度の適用を受けるために必要な書類は、次の通りです。
(相続時精算課税制度の提出書類)
- 相続時精算課税選択届出書
- 贈与税の申告書
(添付書類)
受贈者や贈与者の戸籍謄本または抄本等の書類で、次の内容が明らかになるもの
- 受贈者の氏名および生年月日
- 受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人または孫であること
相続時精算課税制度を選択する場合には、相続時精算課税選択届出書の他に、贈与税の申告書の第一表と第二表を作成して提出します。
添付書類として必要になる戸籍の謄本・抄本等の書類は、相続時精算課税制度の要件を満たしていることを明らかにするものです。
申告方法
相続時精算課税制度の適用を選択する場合は、適用を希望する最初の贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、上記2つの提出書類を添付書類とともに納税地の税務署に提出する必要があります。
例えば、令和5年8月1日にあった贈与から相続時精算課税制度の適用を求める場合には、令和6年2月1日から同年3月15日までの間に、税務署で手続きをしなければなりません。
2年目以降の申告では、相続時精算課税選択届出書を提出する必要はありませんので、贈与税の申告書のみを作成して提出します。
相続時精算課税制度の手続きをした場合の税額の計算方法
相続時精算課税制度の手続きをした場合の贈与税の計算方法について、事例を用いて解説します。
(事例)60歳の親から30歳の子に、毎年1,000万円ずつ贈与する。
相続時精算課税制度が適用される場合の、贈与税の計算式は以下の通りです。
贈与税額=(贈与財産の価額-通算して2,500万円の特別控除額)×20%
この式を用いて毎年の贈与税額を計算していきます。
(1年目)贈与税額=(1,000万円-特別控除額1,000万円)×20%=0円
特別控除額の残額=2,500万円-1,000万円=1,500万円 (2年目) 贈与税額=(1,000万円-特別控除額1,000万円)×20%=0円 特別控除額の残額=1,500万円-1,000万円=500万円 (3年目) 贈与税額=(1,000万円-特別控除額500万円)×20%=100万円 特別控除額の残額=500万円-500万円=0円 (4年目以降) 贈与税額=(1,000万円-特別控除額0円)×20%=200万円 特別控除額の残額=0円 |
なお、相続時精算課税制度の特別控除額は、贈与者ごとに計算します。
父母の双方または祖父母の双方につき相続時精算課税制度の手続きをしている場合は、父母または祖父母の各自につき通算して2,500万円までの特別控除額を利用することができます。
贈与者に相続が発生した場合は、相続時精算課税制度によって受け取った贈与財産の総額を相続財産に加算し、これにより得られた金額をもとに相続税を計算します。
相続時精算課税制度の手続きを活用できるケース
相続時精算課税制度の手続きを活用できるケースを、いくつかご紹介します。
収益物件を保有している場合
贈与者が収益物件を保有している場合は、相続時精算課税制度を活用して節税できる可能性があります。
贈与者が収益物件のオーナーのままでいれば、得られた収益は贈与者の資産となるため、結果として相続財産が増大し、相続税が高額になることにつながります。
一方、相続時精算課税制度を活用して収益物件を贈与した場合は、以後はその物件から得られる収益を受贈者が受け取ることになり、贈与者の相続財産が増えることはありません。
このため、相続時精算課税制度の手続きをして収益物件を贈与することで、相続税の節税になると考えられます。
値上がりする可能性が高い財産を保有している場合
相続時精算課税制度を利用している場合は、相続税を算出する際に、贈与財産の贈与時の価額を相続財産に加算して計算します。
したがって、相続時精算課税制度を用いて、贈与時から相続時にかけて値上がりする可能性が高い土地等の財産を贈与すれば、値上がりする前の贈与時の価額で相続税が計算されるので、節税に活用することができます。
成長が見込まれる企業を事業承継する場合
相続時精算課税制度は、事業承継にも活用することができます。
今後の成長が見込まれる自社の株式を、早期に後継者に贈与するという方法です。
会社が急成長して業績が上がれば株式の評価額が高くなり、高くなった株式を相続すると相続税の負担は高額になります。
これに対し、会社が急成長する前に相続時精算課税制度を用いて後継者に株式を贈与していた場合は、贈与時の株価が相続税の対象になりますので、値上がり分は相続税の評価額に含まれず節税につながります。
このように、将来の成長が見込まれる自社の株式を後継者に贈与して、相続時精算課税制度を事業承継に役立てることも可能です。
相続時精算課税制度の手続きをする際に注意すべきポイント
相続時精算課税制度の手続きをするには、いくつかの注意すべきポイントがありますので解説していきます。
暦年贈与を利用できなくなる
相続時精算課税制度は、暦年贈与と併用することができません。
また、一度相続時精算課税制度の手続きをすると、以後は暦年贈与に戻すことができなくなります。
相続時精算課税制度を利用する場合は、暦年贈与の特徴である年間110万円の基礎控除を受けることができなくなりますので、十分に検討する必要があります。
贈与税の申告が必須になる
相続時精算課税制度の手続きをしたときは、たとえ贈与税が非課税となる場合であっても贈与税の申告が必要になります。
暦年贈与であれば、申告が必要になるのは贈与税が課税される場合に限られ、非課税の場合は申告が不要です。
相続時精算課税制度は、贈与税の申告が必須になることが注意点です。
贈与財産の価額が下落しても贈与時の価額で相続税が計算される
相続時精算課税制度を利用すると、相続が発生したときに、贈与した額を相続財産に加算して相続税を計算することになります。
このとき、贈与した財産の額は、相続発生時の価額ではなく、贈与時の価額を採用します。
贈与財産の価額が贈与時に比べて相続時には下落していても、贈与当時の価額で相続税が計算されることに注意が必要です。
孫に贈与する場合は相続税額に2割加算される
相続時精算課税制度では、孫に対して贈与をすることも可能です。
相続時精算課税制度を利用して贈与をすると、孫も相続人として相続税が計算されますが、孫に贈与する場合は、相続税額の2割加算という制度があります。
相続税額の2割加算とは、被相続人の配偶者および一親等の血族(代襲相続した孫を含む)以外の者が相続人になった場合に、相続税額が2割の増額になる制度です。
このため、孫に対して相続時精算課税制度による贈与をすると、孫が代襲相続人になるときを除いて、相続税額にその2割が加算されます。
孫に対する贈与は、相続時に孫の負担が重くなる可能性があることに留意が必要です。
小規模宅地等の特例が適用されなくなる
小規模宅地等の特例とは、所定の要件を満たす宅地等について、相続税の計算に用いられる評価額の最大80%が減額されるという制度です。
小規模宅地等の特例を利用するためには、要件として「相続または遺贈」によって宅地等を取得することが求められています。
しかし、相続時精算課税制度を用いる場合は、「贈与」で取得することになりますので、小規模宅地等の特例の要件を満たすことができません。
したがって、相続時精算課税制度により贈与を受けた土地は、小規模宅地等の特例を利用できず、結果として相続税が高くなることがあります。
登録免許税や不動産取得税の負担が増える
不動産を取得すると、不動産取得税や登記のための登録免許税が必要になります。
相続時精算課税制度により贈与を受ける場合は、不動産取得税が課税され、登録免許税は土地・建物の評価額の1000分の20(2.0%)が必要になります。
これに対し、不動産を相続する場合は、不動産取得税が課税されません。
登録免許税も、不動産評価額の1000分の4(0.4%)と軽減されています。
このように、相続時精算課税制度を利用する場合は、不動産取得税や登録免許税の負担が増えることに注意する必要があります。
まとめ
この記事では、相続時精算課税制度の手続きについて解説してきました。
相続時精算課税制度を利用すべきかの判断は慎重な検討を要し、申告書等の書類の作成も必要になりますので、専門家に相談することをおすすめします。