相続税を10ヶ月以内に申告できなかった場合!

相続税に関しては、申告期限と納税期限がどちらも相続開始から10か月となっているので、この期限内に必要な申告と納税を済ませなければなりません。

もし期限を逸すると税務上のペナルティの対象になる他、税施策上の優遇措置を利用できなくなるなど不利益が生じる恐れがあります。

本章では、相続税の手続きで申告期限を逸してしまった場合にどうなってしまうのか見ていきます。
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相続税の申告期限は基本的に延長できないが、例外もある

相続税の申告期限は原則として延長できませんが、遺産分割協議がどうしても終わらない時には、手続きを踏むことで一定期間の延長が可能です。

ただし、必ず延長が認められるとは限らず、ケースごとに税務署が判断することになります。

また以下のような特殊な事情がある場合も、特別に延長が認められることがあります。

  • 認知等で相続人に異動があった
  • 相続税の計算に関係する胎児が無事に生まれた
  • 後から遺言書が発見された

etc

ただ、上記はレアなケースですから関係してくることは少ないでしょう。

では特に理由もなく、手続きも取らずに申告期限に遅れるとどのようなペナルティが待っているのか次の項で見ていきます。

相続税の期限を逸した場合のペナルティ

必要な相続税の申告納税が遅れた場合、以下のようなペナルティが課される可能性があります。

延滞税

延滞税は一般の借金でいうところの遅延損害金の性質をもつものです。

本来の納期限から、実際に納税がなされるまでの間ずっとかかる利息のようなもので、これによって「早く納税しなきゃ」と思わせる効果があります。

原則として、納期限から2ヶ月以内は年7.3%、2ヶ月を超えた分については年14.6%となりますが、昨今の低金利時代を反映して、一定の負担軽減措置が取られています。

納期限から2ヶ月以内は年7.3%と「特例基準割合+1%」を比べていずれか低い割合を適用し、2ヶ月を超えた分については14.6%と「特例基準割合+7.3%」を比べていずれか低い割合が適用になります。

特例基準割合というのは、銀行の短期貸出約定平均金利を基にした、市場金利を反映させるための仕組みですが、毎年変わるため、各年の数値を確認する必要があります。

低金利はしばらく続くので、原則の数値が適用されることはしばらくないと考えてよいでしょう。

このことから、平成31年1月1日から令和2年12月31日の間の二年間、延滞税は以下のようになります。

納税期限から2ヶ月以内は「特例基準割合+1%」=2.6%

2ヶ月を超えた分は「特例基準割合+7.3%」=8.9%

延滞税について詳しくはこちらで確認できます。
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai_wariai.htm

無申告加算税

無申告加算税は、必要な申告納税を怠ったことに対する罰則的意味合いを持つものです。

申告だけでなく納税が必要な場合には、本来必要な納税額に一定の額を上乗せして納税しなければならなくなります。

無申告加算税はケースによって数字に変動があり、税務署から何らかのアクションが来る前に手続きを取れれば軽く済みますが、税務署が税務調査の通知をしたりするなど手間をかけた分だけ加算割合が重くなってしまいます。

無申告加算税の加算割合は、原則として本来納めるべき税額の5%~20%です。

もし過去5年以内に相続税の手続きで一定のペナルティを課されたことがある場合、25%~30%に増額されてしまうことがあります。

重加算税

重加算税は悪質な税逃れのケースで課される可能性のあるペナルティで、上の無申告加算税または下でお話しする過少申告加算税に代えて課されます。

例えば相続財産を隠して不当に税負担を免れよう、軽減しようとしたようなケースで問題になってきます。

無申告加算税に代えて重加算税が課される場合、原則として本来納めるべき税額の40%ですが、過去5年以内に相続税で一定のペナルティを課されている場合は50%になる可能性があります。

ペナルティには上記の他に「過少申告加算税」というものもあり、これは申告納税は一応行ったものの、必要な税額よりも過少に申告納税をした場合に問題になるものです。

過少申告加算税は早く修正して追加分を収める手続きを取れば課されないこともありますが、問題になる場合は追加で納めるべき税額の5%~15%の範囲で課されることになります。

特例が使えなくなることも

相続税には色々な特例があり、配偶者の税額軽減措置や小規模宅地の特例などは税負担を大きく軽減できます。

しかし期限内に手続きを取らなかった場合、これらの有利な特例が使えなくなる恐れがあります。

前項のペナルティの対象になることに加えて、特例を使えないことでも大きなダメージになるので、必要な申告納税は期限内にしっかり手続きを取ることが大切です。

もし、相続人間で遺産分割協議がまとまらずどうしても申告期限に間に合いそうにない時には、手続きを踏むことで将来的に特例を利用できる道を残すことができます。

その場合、とりあえず法定相続分で相続したと仮定して、仮の申告納税を済ませておきます。

その際に、必ず※1「申告期限後3年以内の分割見込書」という書面を添付しておきます。

こうすることで、申告期限後3年以内であれば、事後的に修正申告を行うことで特例を利用できるようになります。

仮の申告の際には配偶者の税額軽減措置等の特例を適用できませんが、後で修正できる道を残しておくということです。

なお、「申告期限後3年以内の分割見込書」で事後的に適用できる特例は以下に限られ、全ての特例を事後的に使えるわけではありません。

配偶者の税額軽減措置

(相続税法第19条の2第1項)

小規模宅地の特例

(租税特別措置法第69条の4第1項)

特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例

(租税特別措置法第69条の5第1項)

特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例

(所得税法等の一部を改正する法律による改正前の租税特別措置法第69条の5第1項)

申告期限後3年という猶予期間内にも手続きができない場合、特別な理由があればさらに延長を認められることもあります。

裁判や調停などで時間を要している場合や、遺言で一定期間遺産分割が禁止されている場合などやむを得ない場合に限られます。

この延長手続きを行う場合、本来の相続税申告期限から3年を経過した日の翌日から2か月以内に、※2「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署に認めてもらう必要があります。

※1「申告期限後3年以内の分割見込書」

https://www.nta.go.jp/law/sozoku/kaisei/060214/pdf/02/02-30.pdf

※2「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/pdf/28sozoku15.pdf

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まとめ

本章では、相続税の手続きを期限内にできないとどうなるのかについて見てきました。

金銭面でのペナルティと特例が使えなくなる可能性があるので、二つの面から不利益が生じることになりますから、期限内にしっかり手続きを取れるように手配が必要です。

遺産分割協議が終わらないなどの理由で申告できない場合は、手続きをとることで猶予期間を設けることが可能です。

もし申告期限に間に合いそうにない場合は、早めに専門家に相談するようにしましょう。2019