事業承継税制とは?相続税や贈与税の負担を減らす仕組みや条件をわかりやすく解説
事業承継税制とは、事業を引き継ぐときに相続税や贈与税の負担を減らせる制度です。条件を満たせば、税額の支払いを猶予されます。
税金の支払いを抑えられることで、後継者の負担を抑えられたり、資金繰りが楽になったりします。
そこで今回は、事業承継税制の仕組みや条件、メリットやデメリットを詳しく解説します。手続きの流れについても解説するので、最後まで読んで参考にしてください。
事業承継税制とは
事業承継税制とは、後継者に事業を引き継ぐときに発生する相続税や贈与税の負担を軽減するための税制優遇措置です。2009年の税制改正で創設されました。
事業を引き継ぐときに課される相続税や贈与税の支払いが猶予されます。条件を満たせば最終的に税を免除されるケースもあります。
適用条件には、中小企業基本法に定められている中小企業であることや後継者が一定期間事業を継続するなど定められています。条件を満たせば利用でき、企業の資金繰りや後継者の負担軽減に繋がる制度です。
事業承継税制には「相続税」と「贈与税」の2つが関係しています。どちらも条件を満たすことで、納税を猶予できます。
事業承継税制と相続税・贈与税の関係
事業承継税制と相続税や贈与税の関係性を理解しておきましょう。事業承継をするときには、相続税と贈与税が発生します。これらの負担を減らすための制度が事業承継税制です。
中小企業では経営資源が株式に集中していることも多く、事業を引き継ぐときに後継者の負担になったり、資金繰りが難しくなったりしてしまいます。そのため、納税が猶予されれば、後継者の負担も少なく、資金を事業に集中して使いやすくなります。
相続税と贈与税で税率や控除額など違いがあるため、ここからは相続税と贈与税を分けて解説します。
相続税
相続税は、被相続人から相続などで財産を受け取った人にかかる税金です。経営者が亡くなって後継者が会社を引き継ぐ場合、株式や不動産などの事業資産に対して相続税が課されます。
相続税は財産の取得金額が高くなるほど、相続税率も上がります。以下の表に相続税率や控除額をまとめました。
法定相続分に応じた財産の取得金額 | 相続税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
贈与税
贈与税とは、個人から財産を贈与された人にかかる税金です。経営者が生前に会社の株式や事業用資産を後継者に引き継ぐ場合、贈与税が発生します。
贈与税の税率の方が相続税より高く設定されていることが多く、事業承継の大きな負担になることもあります。
贈与税率と控除額を以下の表にまとめました。
基礎控除後の財産の合計額 | 贈与税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | なし |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
事業承継税制の仕組み
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」があります。どちらも事業を引き継ぐときの税負担を軽減するための制度です。適用条件や内容に違いがあるため、それぞれ分けて解説します。
一般措置の概要
比較的広く適用できる基本的な制度です。特例措置ほど要件は厳しくありませんが、税負担の軽減効果は特例措置より小さくなります。
一般措置では、後継者が相続や贈与によって取得した株式などに対して、相続税や贈与税が猶予されます。ただし、特例措置と比べると猶予される額は少なくなっています。
対象株式 | 発行済議決権株式総数の2/3まで |
適用期間 | なし |
特例承継計画の提出 | 不要 |
納税猶予割合 | 相続100%
贈与80% |
後継者 | 後継経営者の1人 |
雇用確保要件 | 5年平均で相続・贈与時の80%以上を維持 |
特例措置の概要
一般措置より大きい効果が期待できますが、要件は厳しくなっています。税額の100%が猶予されるため、全額猶予が受けられます。また、一定期間後に条件を満たすことで最終的に税額が全額免除される可能性もあります。
ただし、中小企業庁への事前の計画提出や認定が必要になるなど、利用条件も厳しくなっています。
対象株式 | 全株式 |
適用期間 | 2027年12月31日 |
特例承継計画の提出 | 必要 |
納税猶予割合 | 100% |
後継者 | 持ち株10%以上の後継者3人まで |
雇用確保要件 | 実質撤廃 |
事業承継税制の条件
事業承継税制を利用するために必要な条件は主に以下の4つです。
- 対象企業の条件
- 先代経営者の条件
- 後継者の条件
- 事業継続の条件
それぞれ詳しく解説します。
対象企業の条件
事業承継税制は、中小企業基本法に基づく中小企業が対象です。具体的には、資本金や従業員数が一定の基準を満たさなければなりません。
業種 | 資本金 | 従業員 |
製造業・建設業・運輸業 | 3億円 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
先代経営者の条件
先代経営者の条件は主に以下の2つです。
- 会社の代表者を務めていたこと
- 相続や贈与の前に筆頭株主または総議決権の過半数を保有していたこと
会社の代表者であるだけでなく、一族のなかで筆頭株主であることや、一族の保有する議決権と合わせてそう議決権の過半数を保有している必要があります。また、贈与時に代表者の役職から降りていなければなりません。
後継者の条件
後継者にも条件があります。
- 後継者の選定:原則、事業承継のあとに会社の代表者にならなければなりません。
- 株式の保有:後継者が取得する株式の割合は、発行済株式の2/3以上が必要です。引き継いだ株式を一定期間(通常5年以上)保有し続ける必要があります。
- 経営継続:後継者が事業承継後、一定期間(通常5年間)に渡って経営に関わる必要があります。
後継者として会社を引き継ぐだけでなく、継続して代表者である必要があります。引き継ぎ後のことも考えた上で選定しましょう。また、後継者は状況によって複数人を選べることもあります。
事業継続の条件
事業継続も適用されるために必要な条件です。納税が猶予されるためには、5年間の継続が求められます。
- 後継者が会社の代表者であり続けること
- 受け継いだ株式を保有し続けること
- 相続・贈与時の雇用人数における8割を維持すること
条件を認められたとしても、代表者や保有株式など一定期間継続する必要があります。雇用条件については、日本の人手不足もあり条件が緩和されています。今までは、雇用の8割を満たせなかった時点で猶予は終了でした。しかし、現在では5年間の平均で8割を超えていれば条件が満たされるようになりました。
事業承継税制の特例措置のメリット
特例措置のメリットは主に以下のとおりです。
- 相続税や贈与税の納税が全額猶予される
- 最終的に税金が免除される
- 雇用の安定と企業の存続を支援できる
それぞれ解説します。
相続税や贈与税の納税が全額猶予される
後継者が取得する株式などにかかる相続税や贈与税が100%猶予されます。事業承継をすると、自社株の株価に応じた相続税や贈与税の納税義務が課されるため、納税の資金が大きな負担になりかねません。
特例措置を利用すれば、税金の支払いが一時的に免除されるため、後継者は負担少なく事業を引き継げます。企業の資金繰りや後継者の負担軽減に繋がるため、経営資源が株式に集中している中小企業にとって大きなメリットといえるでしょう。
最終的に税金が免除される
特例措置を受け、後継者が一定期間の経営を続けるなど条件を満たした場合、猶予された相続税や贈与税が最終的に全額免除されます。
税金の猶予だけでなく、免除されれば資金繰りがかなり有利になります。これにより、将来の税金支払いの心配がなくなり、事業の発展や拡大に集中しやすくなるでしょう。
雇用の安定と企業の存続を支援できる
特例措置では、事業承継後の雇用維持が条件となっています。これにより、会社全体に雇用維持に取り組む姿勢が高まり、従業員の安心感も高まるでしょう。
従業員が大幅に減少することなく、安定した経営を続けることで企業の存続する可能性が高くなります。
事業承継税制の特例措置のデメリット
特例措置のデメリットは主に以下のとおりです。
- 適用期限が決まっている
- 免除を受けるために一定の贈与などが必要になる
それぞれ解説します。
適用期限が決まっている
特例措置は適用期限が決まっています。2027年12月31日までに行われた相続や贈与でなければ特例措置の適用を受けられません。2028年以降は特例措置を受けられないため、期限には注意して早めに準備していきましょう。
特例措置を受けるためには、特例承継計画や認定申請が必要です。そのため、手続きに時間もかかります。手続きはスムーズに進められるようにスケジュール管理と準備は怠らないようにしましょう。
免除を受けるために一定の贈与などが必要になる
税額の猶予だけでなく、免除を受けるためには後継者が一定の贈与などをする必要があります。特例措置の1番の目的は納税の猶予ですが、一定の要件を満たせば納税を免除できます。
免除を受けるためには、原則として後継者が死亡するまたは一定期間経過したあとに次の後継者に事業承継税制の適用を受けるための贈与が必要です。納税の猶予と免除を受けるための要件は異なるため注意しましょう。
事業承継税制の手続きの流れ(相続税の場合)
相続税における事業承継税制の手続きの流れは主に以下のとおりです。
- 特例承継計画を作成する
- 相続開始後に都道府県庁へ認定申請をする
- 税務署への申告書を作成する
- 納税猶予
それぞれ詳しく解説します。
特例承継計画を作成する
事業承継税制の特例措置を受けるためには、特例承継計画の作成が必要です。
特例承継計画書の内容には、会社の事業内容や従業員などの基本情報から承継前と承継後の経営計画を記載する必要があります。
計画書を作成したら都道府県知事に計画書を提出しましょう。必要な書類は以下のとおりです。
- 確認申請書
- 履歴事項全部証明書
相続開始後に都道府県庁へ認定申請をする
2027年12月31日までに相続が発生した場合、特例措置が適用されます。
相続が開始されたら都道府県庁に認定申請をしましょう。期間は、相続が発生した日の翌日から8ヶ月以内に申請しなければなりません。
認定申請に必要な書類は、以下のとおりです。
- 認定申請書またはその写し
- 定款の写し
- 株主名簿の写し
- 履歴事項全部証明書
- 相続税に関する書類
- 従業員数証明書
- 相続認定申請基準事業年度の決算関係書類
- 相続開始後の上場会社または風俗営業会社に該当しない旨の誓約書
- 特別子会社に関する誓約書
- 被相続人・相続人等の戸籍謄本等または法定相続情報一覧図
- 特例承継計画またはその確認書
税務署への申告書を作成する
都道府県知事から認定をもらえたら、税務署に申告しましょう。
相続税の申告期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。申告期限までに、相続税の申告書と付随する書類を税務署に提出します。
納税猶予
書類の不備などがなければ、相続税の納税猶予期間に入ります。猶予期間も一定の条件を満たし続ける必要があります。
申請期限後の5年間は都道府県庁へ年次報告書を税務署へ継続届出書を年1回提出しなければなりません。5年後からも3年に1回は税務署へ継続届出書を提出する必要があります。
提出期限は必要書類も多くなってくるため、しっかり準備しておきましょう。
事業承継税制の手続きの流れ(贈与税の場合)
贈与税における事業承継税制の手続きの流れは主に以下のとおりです。
- 特例承継計画を作成する
- 非上場株式などの贈与を行う
- 都道府県庁へ認定申請をする
- 納税猶予
それぞれ詳しく解説します。
特例承継計画を作成する
相続税の場合と同様に特例承継計画書の作成をして、都道府県知事へ提出しましょう。
非上場株式などの贈与を行う
贈与の場合、先代経営者等の贈与者から全部または一定数以上の非上場株式の贈与が必要です。
贈与に必要な株数は後継者の人数によって異なるため、必要な株数を事前に調べておきましょう。
都道府県庁へ認定申請をする
都道府県知事の認定を受けて、贈与税の申告期限までに税務署へ申告書や書類の提出を行います。
都道府県知事からの認定の申請は、贈与年の10月15日〜翌年1月15日までに行いましょう。また、贈与税の申告期限は贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。
相続税と期限が異なるため、注意しましょう。
納税猶予
納税猶予期間に入ってからも条件を満たす必要があります。
申告期限から5年以内の年次報告書や継続届出書を毎年提出します。贈与税の場合は、報告基準日が3月15日で提出期限が6月15日です。
こちらも相続税と間違えないようにしましょう。
まとめ
今回は、事業承継税制の仕組みや条件について解説しました。
事業承継には相続税や贈与税などの納税が必要です。そのため、後継者の負担が大きくなったり、資金繰りが厳しくなったりします。
事業承継税制を利用すれば、後継者の負担も少なくなり、資金も事業に充てられます。一定の条件を満たせば、納税の猶予だけでなく、免除されることもあります。
事業を引き継いだあとに、スムーズな経営ができるようにするためにも事業承継税制を理解しておきましょう。