事業承継でよくあるトラブルとは?問題が起きる原因や避けるための対策を解説 

事業承継とは、経営者が自身の会社や事業を第三者に引き継ぐことを言います。 

ただし、事業承継は様々な要因で失敗するケースがあり、失敗しないためにも、失敗原因やトラブル事例などを理解しておく必要があります。 

この記事では、事業承継で起こり得るトラブルについて解説します。 

具体的なトラブル事例や問題が起きる原因、トラブルを避けるための対策についても詳しく説明するのでぜひ参考にしてください。 

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事業承継でよくあるトラブル例 

 事業承継でよくあるトラブル例として、以下の7つが挙げられます。 

  •  株式が分散し、会社の意思決定に影響がでる
  • 承継人が株式の取得費用を払えない
  • 後継者への引き継ぎが上手くいかない
  • 取引先が離れてしまう
  • 事業承継の着手が遅れる
  • 派閥争いにより資金が流出する
  • 引退した経営者が口出しをする 

 ここからは、それぞれの事例について詳しく説明します。 

株式が分散し、会社の意識決定に影響がでる 

会社の経営者が遺言書を残さないまま亡くなった場合などに起こり得るトラブルです。 

仮に経営者に子供が2人いたとして、長男が会社の取締役となり、次男は別の会社のサラリーマンとなりました。その後、経営者である父親が遺言書を残さずに亡くなってしまい、長男は自分が株式を含め会社の事業資産を全て引き継ぐことを提案しましたが、次男がそれに反対しました。 

話し合いの結果、法定割合で相続することとなり、経営に関係のない次男も一定の決定権を有することとなりました。しかしその後、会社の後継者である長男は自由に意思決定することができず、事業に悪影響を及ぼしました。 

生前に暦年贈与で自社株を少しずつ譲り渡すなどすれば、このようなトラブルを防げた可能性があるでしょう。 

承継人が株式の取得費用を払えない 

会社を引き継いだ後継者が、株式の取得費を支払えず、株式を引き継ぐことができないケースがあります。 

ある後継者が経営者から株式を引き継ぎました。しかし、株式の取得費に加えて贈与税などの税金を支払う必要があり、想定よりも多額の資金が必要となることがわかりました。結局取得費や税金などの費用を支払うことができず、事業承継に失敗することとなりました。 

このケースの場合、事前に十分な資金を準備しておくか、事業承継税制を利用するのがお勧めです。 

事業承継税制とは、後継人が事業資産や非上場企業の株式を後継人が贈与または相続によって引き継ぐ場合や、経営承継円滑化法による都道府県の認定を受けることで、贈与税や相続税が猶予または免除される制度です。 

一番良いのは十分な資金を確保しておくことですが、事業承継税制を利用することで負担を減らせるでしょう。 

後継者への引き継ぎが上手くいかない 

後継者への教育や引継ぎが上手くいかず、事業承継に失敗するケースがあります。 

ある経営者が子供への事業承継を検討していましたが、引き継ぎを目前に控えて、準備や税金対策などに手間をとられて、後継者への教育などが十分にできませんでした。その結果、後継者には会社の内情や経営者としてのノウハウが不足しており、事業を悪化させてしまいました。 

「親族だから」と安易な気持ちで後継者を決定したものの教育や引き継ぎがしっかり行われなかった場合に、このような失敗が起こります。最悪の場合、経営や事業を悪化させ、会社が倒産や廃業に追い込まれる可能性があります。 

このケースの場合は、早い段階で後継者への教育を行ったり、経営経験のある親族以外の人物への引き継ぎを検討したりすることで失敗を防げる可能性があります。 

取引先が離れてしまう 

事業承継を行ったことをきっかけに取引先が離れてしまうケースがあります。 

ある会社の経営者は、長年の付き合いで得意先である取引先との関係が続いていました。しかし、事業承継が行われ経営者が交代したことで取引を断られてしまいました。 

後継者が別業界出身であることを取引先から快く思われなかったこと、突然経営者が交代したことで取引先との信頼関係を築けなかったことが理由でした。 

このケースでは、後継者への承継前に、先代社長が後継者を連れて取引先に訪問し、しっかり信頼関係の構築に努めることで失敗を回避できる可能性があるでしょう。 

事業承継の着手が遅れる 

M&Aの着手が遅かったために事業承継に失敗するケースがあります。 

ある経営者は、日々の業務に追われ後継者問題を後回しにしていました。その後、どんどん事業の業績が悪化していき、M&Aを試みるも事業が傾いていることを理由に買い手が見つかりませんでした。 

M&Aを行う場合、その準備や交渉などで通常数か月から1年程度かかるものです。なるべく早めに事業承継に着手することで、選択肢も広がり、しっかり時間をかけて計画的に進めることができるでしょう。 

派閥争いにより資金が流出する 

事業承継後、親族間の派閥争いが起こるケースがあります。 

ある経営者が、自身の子供である長男と次男にそれぞれ60%、40%ずつ株式を保有させており、そのまま長男を社長、次男を専務として事業承継を行いました。しかし、長男が社長になったことについて次男が不満を持っており、派閥争いに発展しました。次男は会社を退職することとなり、社長である長男に対して、自分が保有していた株式の買取を求め、結果会社から数億円の資金が流出することとなりました。 

後継者選びは慎重に行う必要があり、特に今回のケースのように兄弟の一方が株式を保有している場合は会社に損害をもたらすリスクがあるので特に注意する必要があります。後継者の候補が複数存在する場合は、派閥争いに発展しないよう慎重に進めることが重要と言えます。 

引退した経営者が口出しをする 

経営者が引退したにもかかわらず経営に口出しをして失敗するケースもあります。 

ある会社の経営者が高齢となり、後継者に会社を引き継いだものの、先代経営者が会長となって株式の過半数を保有していました。そのため、実質的な経営権が先代経営者にあり、先代経営者が会社の運営について口出しをし、後継者である社長との間で対立が起こりました。その結果、後継者となった社長は会社を追い出される形となりました。 

このようなトラブルを避けるためにも、先代経営者はしっかりと時間をかけて後継者を教育し、事業承継後は後継者を信頼して任せることが重要です。経営権は持たず、必要に応じてアドバイスをするなどして会社に貢献していくことで、このようなトラブルを回避できるでしょう。 

事業承継でトラブルが起きる原因 

 事業承継でトラブルが起きる原因としては、以下の4つが挙げられます。 

  •  後継者の教育や引継ぎができていない
  • 相続問題が生じる
  • 事業承継のための準備が不足している
  • 誰にも相談をしない 

それぞれの原因について詳しく説明します。 

後継者の教育や引継ぎができていない 

後継者への教育や引き継ぎがしっかりできていなかったことが原因で事業承継に失敗するケースがあります。 

特に、これまで経営の経験が無い人や、会社の事業や内情をよく理解していない人が会社を引き継ぐと、業績悪化や倒産を余儀なくされる可能性があります。「親族だから」などの理由だけで経営を引き継ぐのは危険です。 

後継者の経営者としての経験が浅い場合や、後継者が承継する事業に携わっていなかった場合は、十分に時間をかけて教育や引き継ぎを行うことが重要でしょう。 

相続問題が生じる 

事例でも紹介したとおり、「相続問題」は事業承継を失敗させる要因の1つです。 

相続人が1人であれば、トラブルは起こりにくいですが、相続人が複数人いる場合は相続問題は発生する可能性があるので注意が必要です。 

株式が分散してしまったり、先代経営者の生前から複数相続人がその会社に在籍していたような場合であれば派閥争いに発展したりする恐れがあります。 

事業承継のための準備が不足している 

事業承継のための準備不足は、事業承継を失敗に終わらせる要因となります。 

ここで言う準備不足とは、後継者がなかなか見つからないまま放置したり、相続問題が発生しそうであるにもかかわらずそのまま対処しなかったり、M&Aを検討するも何の準備もしなかったりすることが挙げられます。 

準備しておかないと、事業承継がスムーズに進まなかったり、余分な費用が発生したり、事業承継後にトラブルが発生し経営が上手くいかないなどの問題が起こる可能性があります。 

誰にも相談をしない 

誰にも相談しないで事業承継を進めると、周りが混乱しスムーズに進まない可能性があります。そのため、事業承継を行う際は、あらかじめ後継者候補や信頼できる役員などに相談し、タイミングをみて従業員にも説明し、理解を得ておくことが重要です。そうすることで、失敗せず円滑に事業承継を進められるでしょう。 

事業承継でトラブルを起こさないための対策 

 事業承継でトラブルを起こさないためには、以下の4つが有効です。 

  • 遺言書等で相続間のトラブルを防ぐ
  • 事業を継続できる後継者を選任する
  • 後継者への教育を徹底する
  • 早めに事業承継に着手する 

 それぞれの対策について詳しく説明します。 

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遺言書等で相続間のトラブルを防ぐ 

相続間のトラブルを防ぐために、遺言書を残しておく方法があります。 

複数の相続人が会社に在籍していたり、相続財産のほとんどが事業用資産の場合は、紛争が生じやすいため遺言書を準備しておくことをお勧めします。 

特に経営者が高齢の場合は、急逝の可能性もあるため、遺言書の作成を早めに着手するのが良いでしょう。 

事業を継続できる後継者を選任する 

事業承継後、事業を継続・成長させていくには、経営者としての資質のある人物を後継者に選任する必要があります。 

例えば、事業の発展に貢献したいという思いが強い、事業の問題解決に意欲的、経営のビジョンが明確、能力が高いという人は、承継後も事業を持続し成長させられるでしょう。 

また、選任基準を明確に示しておくことで、無用な後継者争いが起こる可能性も減るでしょう。 

後継者への教育を徹底する 

先述したとおり、後継者への教育や引き継ぎは非常に重要です。 

新たな社長が事業をうまく運営できず業績が悪化しては本末転倒でしょう。 

業務のプロセスだけでなく、経営のノウハウや経営者としての心構え、企業理念等をしっかり時間をかけて共有する必要があります。 

また、先代経営者が引退する前に、なるべく早い段階で後継者に経営経験を積ませることも事業承継を成功させる方法の1つでしょう。 

早めに事業承継に着手する 

 事業承継は、なるべく早く着手することが重要です。 

後継者を探し始めても、すぐには見つからない可能性があり、仮にすぐに見つかったとしても、ノウハウや取引先の引き継ぎ、後継者育成などを含めて事業承継には数年はかかると考えておくとよいでしょう。 

将来を見据えて早めに着手することが重要です。 

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事業承継のトラブルを避けて成功した事例 

 事業承継の際、トラブルにならず成功した事例として、以下の3つが挙げられます。 

  •  M&Aで会社を売却したことによる成功事例
  • 親族内で事業承継を行ったことによる成功事例
  • 早期に事業承継に着手したことによる成功事例 

ここからは、それぞれの事例を詳しく紹介します。 

M&Aで会社を売却したことによる成功事例 

薬局を営んでいた経営者が、自身が高齢になったこともあり事業承継を考えるようになりました。子供が3人いましたが、誰も薬学の道に進んでおらず、親族内での承継は選択肢にありませんでした。 

そこでM&Aを行うべく弁護士に相談し、大手薬局へ引き継がれることが決まりました。手続きや交渉などを弁護士にお願いしたことからスムーズに進み、無事事業承継を完了することができました。 

M&Aは専門的な知識や交渉などが必要になるため、独自で進めるのは非常に困難です。M&Aを検討する際は、事業承継に精通した弁護士に相談するのがお勧めです。 

親族内で事業承継を行ったことによる成功事例 

機械製造業の経営者の息子は、大学卒業と同時に父親の会社に入社し、製造業や技術職、経理や財務まであらゆる業務を経験しました。その後入社から20年経ち、専務取締役として社長の補佐役などを担いました。また、父親のことを経営者として尊敬していたことから、大きなトラブルなどもありませんでした。 

いざ会社を引き継ぐ際も、入社当初から会社の後継者として自覚があり、20年もの歳月をかけて経験やスキルを積んでいたため、非常にスムーズに進み、事業承継に成功しました。 

早期に事業承継に着手したことによる成功事例 

 製造業を営む経営者が、早期の段階で事業承継に着手した事例です。 

経営者には子供がいなかったため、会社の従業員に会社を継がせると決めました。そして、後継者に選ばれた従業員に対して約5年の歳月を重ねて、経営ノウハウなどを教育し、取引先などとの関係を構築していきました。その結果、スムーズに事業承継が進み、無事完了することができました。 

多くの場合、自身の引退を考え始めてから事業承継に着手しますが、それではすでに遅い場合があります。自身が現役のタイミングで後継者探しや後継者への教育を始めるなど、早期着手を心がけることで事業承継を成功できる可能性が高まるでしょう。 

まとめ 

 事業承継を行う際、相続問題や準備不足などが原因で失敗するケースがあります。事業承継を成功させるには、事前にトラブルや問題が起こる原因を知り、対策をとることが重要と言えます。 

親族や従業員の中で後継者候補が見つからない場合は、M&Aを検討するのも良いでしょう。なお、M&Aを含め事業承継を独自で進めるのは難しいため、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。 

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