遺産相続の分配方法|財産の分配割合、順位を解説

親族が亡くなって遺産相続が発生した場合、遺産を誰に対してどのように分配していくのかが大きな問題です。相続順位や相続割合を正確に把握しておかなければ、遺産相続で揉めてしまい後々に深刻なトラブルに発展してしまうおそれがあります。

とはいえ、遺産相続の分配を行う際は、そのパターンが各人各様であるため、個々のケースに応じた分配方法を把握しておかなければなりません。そこで本記事では、遺産相続での分配方法として、財産の分配割合や順位といった観点を中心に幅広く解説していきます。

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遺産相続の分配前のチェック事項

実際に遺産相続の分配を進めていく前に、まずチェックしておくべき事項を4つ解説します。

遺言書の有無

遺産相続の分配方法は遺言書の有無によって異なるため、まずは亡くなった親族(被相続人)が遺言書を残していたかどうかチェックしてください。被相続人から遺言書の話を直接聞かされている場合、その内容をもとに遺言書を探します。

また、被相続人の遺品を調べているときに、遺言書が見つかるケースもあります。このような場合、発見した遺言書は公正証書遺言及び法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)により遺言書保管所に保管されている遺言書である場合を除き、家庭裁判所に提出して検認の手続きを経なければならない決まりです(民法第1004条第1項、同条第2項)。

もしも遺言書が封印されているならば、それを開封せずに保管し、相続人またはその代理人の立会いのもと家庭裁判所にて開封の手続きを行う必要があります(民法第1004条第3項)。仮に検認の手続きを怠ったり、家庭裁判所外で開封したりした場合、5万円以下の過料に処せられる決まりですので、ご注意ください(民法第1005条)。

なお、被相続人が公正証書遺言を作成していた場合、遺言書は公証人により遺言者の嘱託を受けて作成され、日本公証人連合会が情報をデータベースで管理されています。遺言書が見つからない場合、公証役場で遺言検索システムを利用してみるのもおすすめです。

遺言書が存在しない場合などには、遺産分割協議による財産の分配を実施することになります。遺産分割協議とは、被相続人の相続財産の分割方法について相続人全員で話し合って決めることです(詳細は後の章「遺産分割協議による分配とは」にて解説)。

相続財産の把握

遺産相続の分配を公平かつ将来的にトラブルを起こさないように実施するためには、現存する相続財産を漏れなく把握しておくことが重要です。被相続人の相続財産には、不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も含まれるため、幅広く調べなければなりません。

被相続人の相続財産を把握する方法としては、まず被相続人の預金通帳と郵便物から調査していくのが一般的です。被相続人の預金通帳を見れば、ある程度のお金の流れを把握でき、大まかな財産を予想できます。もしも預金通帳から引落しで固定資産税の支払いがされていれば、被相続人が所有する不動産およびその管轄市区町村を把握できるほか、株式の配当金があれば証券が預託されていることも判明できます。

後に相続財産が判明した際は、判明した遺産についての遺産分割を行えば問題ありませんが、他にも遺産があることを隠して遺産分割を行ってしまった場合、遺産分割をやり直さなければならないおそれがあるため、相続財産を把握した後は相続人全員が正確に相続財産を認識したうえで、遺産分割を行わなければなりません。

相続人の確定

遺産分割協議を行う際は、相続人全員の参加が必要不可欠です。相続人のうち1人でも参加が欠けていれば、遺産分割協議そのものが無効となるため、実施前に相続人を確定しておかなければなりません。相続人を確定するためには、相続人の自己申告では効力がなく、戸籍を使って証明しなければなりません。

相続人の範囲は、民法上相続人として定められている、被相続人と一定の身分関係にある者(被相続人の配偶者、子や孫、両親・祖父母、兄弟姉妹)に限定されています。

相続人を調査する際は、原則として被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取得して調査しなければなりません。まず、被相続人の死亡の事実が記載された謄本から、被相続人の出生までさかのぼります。

そこで判明した相続人の現在の戸籍を取得し、相続人が現存しているかチェックします。相続人がすでに死亡している場合、被相続人の死亡前に亡くなっているのであれば代襲相続人を調査する一方、被相続人の死亡後に亡くなっているのであれば相続人の相続人を調べましょう。戸籍等の書類を集めた後に相続関係図を作成すれば、相続人を把握するのに役立ちます。

なお、相続人の戸籍を取り寄せる際、相続人が結婚(分籍)や転籍などを行っている場合には全国各地の市区役所・町村役場から収集しなければならないケースもあり、相当の手間と時間がかかることがあります。こうしたケースでは、弁護士などの専門家に相続人を確定する手続きを依頼することがおすすめです。

生前贈与の把握

被相続人が行った過去の生前贈与は、特別受益として相続分や遺留分の計算に影響を与えるケースがあります(民法第903条第1項、同法第1044条第1項、第3項)。

特別受益に該当するかどうかの判断は、生前贈与が相続財産の前渡しとみられる贈与であるかどうかを基準に行われます。具体的なケースを用いて説明すると、婚姻または養子縁組のための贈与、高等教育を受けるための学資、居住用の不動産の贈与またはその取得のための金銭の贈与、営業資金の贈与、借地権の贈与など、生計の基礎として役立つような財産上の給付は特別受益に該当すると判断されることが多いです。

特別受益の有無をチェックする際は、被相続人の預貯金口座の入出金履歴や、被相続人が保管していた贈与契約書などを参照し、生前贈与の行われた形跡を把握することが大切です。

とはいえ、相続人全員が遺産相続について特別受益を考慮しなくてもよいと考えている場合、被相続人による生前贈与をチェックすることなく遺産相続の分配を行うことも可能です。

遺産相続の分配に関する基本ルール

遺産相続の分配は、民法の相続順位や法定相続分などに関する規定に沿って行います。ここでは、基本的なルールを解説します。

遺産相続の優先順位

遺言書で分配が定められていない遺産については、法定相続人によって遺産分割が行われます。

まず、被相続人の配偶者は、常に相続人になります(民法第890条)。ただし、内縁の配偶者は相続人になりません。

配偶者以外の相続人の優先順位は下表のとおりで、1つ前の順位の相続人がいない場合、次の順位の相続人が相続権を取得します。

順位 被相続人との続柄
1 子(民法第890条、第887条第1項)。子が先に死亡して孫が生きている場合には孫。孫もすでに死亡してひ孫がいればひ孫などの直系卑属。養子や認知した子、前婚の配偶者の子も含まれる。
2 親(民法第889条第1項第1号)。親が先に死亡していれば祖父母。祖父母も死亡していれば曽祖父母などの直系尊属。養親も含まれる。
3 兄弟姉妹。兄弟姉妹が先に死亡していれば甥や姪。

相続権取得者の基本パターン

上記で解説した遺産相続の優先順位を踏まえると、相続権の取得する人の基本パターンは、以下の7通りです。

  • 配偶者のみ
  • 配偶者と子
  • 子のみ
  • 配偶者と直系尊属
  • 直系尊属のみ
  • 配偶者と兄弟姉妹
  • 兄弟姉妹のみ

なお、代襲相続が発生すると、孫やひ孫、甥姪が相続権を取得する可能性があります。代襲相続とは、もともとの相続人が被相続人よりも先に死亡している場合に相続人の子が代わって相続することです。相続人になる人を代襲相続人、先に死亡したもともとの相続人を被代襲者と呼びます。代襲相続によって孫やひ孫、甥姪などが相続人になる場合、代襲相続人の順位は被代襲者と同等です。

遺産分配は法定相続分を基準に決められる

相続人になれる範囲と同じく、財産の相続割合も民法により規定されています(民法第900条)。これは「法定相続分」と呼ばれており、相続人の順位や組み合わせによって割合が異なる仕組みです。

相続人が配偶者のみという場合はすべての遺産を相続しますが、子がいる場合は配偶者と子で2分の1ずつ分けます。子が複数いる場合は2分の1を子の数で均等に割る仕組みです。

ここからは、相続人として以下の人が挙げられるケースをもとに、それぞれの相続人の法定相続分がどれほどになるのか計算していきます。

  1. 配偶者+子(直系卑属)のケース
  2. 配偶者+父母(直系尊属)のケース
  3. 配偶者+兄弟姉妹のケース

まず、配偶者と子(直系卑属)が相続人になるケースでは、配偶者の法定相続分は2分の1、子の法定相続分も2分の1となります。子が複数人いる場合、それぞれの子は等しい割合で相続します。例えば、被相続人の遺産が1億円あり、相続人として配偶者・長男・次男・三男・四男の合計5人である場合、それぞれの法定相続分は配偶者が5,000万円、長男が1,250万円、次男が1,250万円、三男が1,250万円、四男が1,250万円となります。

次に、配偶者と父母(直系尊属)が相続人となるケースでは、配偶者の法定相続分は3分の2、父母の法定相続分は3分の1となります。父と母の両方が存命している場合、この2人の法定相続分は平等です。例えば、被相続人の遺産が6,000万円で、被相続人の妻と父母が相続人となる場合、それぞれの法定相続分は妻が4,000万円、父が1,000万円、母が1,000万円となります。

そして、被相続人の配偶者と兄弟姉妹が相続人となるケースでは、配偶者の法定相続分は4分の3、兄弟姉妹の法定相続分は4分の1となります。被相続人の兄弟姉妹が複数人いる場合、それぞれが平等の割合で遺産を相続する仕組みです。例えば、被相続人の遺産が8,000万円で、被相続人の妻と弟・妹の合計3人が相続人となる場合、それぞれの法定相続分は妻が6,000万円、弟が1,000万円、妹が1,000万円となります。

法定相続分と遺留分の違い

法定相続分は、民法900条に規定される、遺産を相続する割合のことです。これに対して、遺留分とは、遺産のうち、一定の相続人に確保されている持分割合のことです(民法1042条)。

遺留分は、被相続人が自身の財産を死後どのように処分するかを決める自由を一部制限するものであり、被相続人による遺言や多額の生前贈与があった場合に遺留分権利者は遺留分侵害額請求をすることができます。詳細は、次章「遺留分侵害額請求」にて解説しています。

法定相続人は被相続人の配偶者および血族であるのに対して、遺留分権利者は兄弟姉妹以外の法定相続人です。

法定相続人であっても相続資格がないケース

法定相続人であったとしても、相続欠格事由に該当する場合には、相続資格がはく奪されて相続することができません。相続欠格事由としては、以下の5つが挙げられます(民法第891条)。相続欠格事由に当てはまる相続人は、被相続人の意思に関係なく、相続人としての権利を失います。

  • 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
  • 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
  • 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
  • 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
  • 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

また、被相続人から相続人廃除を受けた場合も相続することができません。相続廃除は、相続人からの虐待やその他の激しい非行があった場合に被相続人が相続人の地位を奪うことです。相続廃除できるのは、以下のようなケースです。

  • 被相続人を虐待した
  • 被相続人に対して、極度の屈辱を与えた
  • 被相続人の財産を不当に処分した
  • ギャンブルなどを繰り返し、被相続人に多額の借金を支払わせた
  • 浪費・遊興・犯罪・反社会団体への加入・異性問題を繰り返すなどの親不孝行為
  • 重大な犯罪を起こし、有罪判決を受けた(一般的には、5年以上の懲役判決)
  • 愛人と同棲するなどの不貞行為をする配偶者
  • 財産目当ての婚姻関係
  • 財産目当ての養子縁組

相続人の廃除は、被相続人が生前に家庭裁判所に申立てを行うか、遺言書で行います。

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遺産分割協議による分配とは

遺産分割協議とは、相続が発生した際に、共同相続人全員で遺産の分割について協議し、合意することで、法定相続分や遺言の内容と異なる割合で相続分を決めることも可能です。

遺産分割協議の実施について、特に期限は設けられていません。しかし、被相続人が死亡してから3か月後には開始すべきだと考えられています。相続税の申告期限は被相続人が死亡してから10ヶ月以内であり、相続税の申告が必要な場合には、誰がどの財産を引き継ぐのかといった相続の内容が申告内容に影響してくるため、早めに遺産分割協議を行い、これを成立させる必要があります。

遺産分割協議が必要なケース

遺産分割協議の実施が求められるのは、以下のようなケースです。

遺言書がなく複数の相続人がいるケース

被相続人が遺言書を残しておらず、相続人が複数人いる場合、どのように遺産を分割するかを話し合う必要があるため、遺産分割協議が必要とされます。

遺言書があるケースの遺産分配方法

遺言書がある場合、原則としてその遺言書に書かれている内容どおりに遺産を分配します。しかし、相続人全員の合意のうえでそれ以外の財産の分け方を協議・合意した場合は、その相続人全員の合意に沿って遺産分割を行うことも認められています。詳細は、「全ての相続人が遺言書と異なる方法での遺産分配に合意したケース」にて解説しています。

遺言書で分配方法が決められていない遺産があるケース

有効な遺言書が存在したとしても、その遺言書にすべての遺産の分け方が記載されているとは限りません。仮に遺言書の内容が一部の遺産しかカバーしておらず、分配方法が決まっていない遺産が存在する場合、遺産分割協議の実施が求められます。

全ての相続人が遺言書と異なる方法での遺産分配に合意したケース

遺言書があるケースでも、遺産分割協議によって遺言書の内容とは異なる遺産の分配方法を定めることについて相続人全員が合意した場合、その合意は有効であると解されています。このケースでは、相続人全員が改めて遺産分割協議を開催し、遺産の分配方法を決定することになります。

なお、相続人以外の者が遺贈を受けていたケースにおいて、遺産分割協議によって遺言書の内容とは異なる遺産の分配方法を行う際は、相続人全員だけでなく受遺者(遺贈を受けた人)全員の同意も求められます。

ただし、遺言執行者が指定されているケースにおいて、遺言執行者の同意を得ずに遺言と異なる内容の遺産分割協議をした場合、遺言執行者との間で紛争が起こりかねないため、遺言執行者の同意も得ることが望ましいです。

遺言書の内容が偏っている場合は遺留分侵害額請求が検討される

一部の相続人のみを優遇するなど遺言書の内容が偏っていることで遺留分権利者の遺留分が侵害された場合、その遺留分権利者は「遺留分侵害額請求権」を行使することで、自身の権利を回復することが可能です(民法第1046条第1項)。

遺留分侵害額請求権は、遺留分を侵害された法定相続人が、受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利です。

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効により消滅します(民法第1048条第1文)。また、相続開始の時から10年間が経過した場合、遺留分侵害額請求権は除斥期間によって消滅します。以上のことから、遺留分権利者からすると、消滅時効・除斥期間によって遺留分侵害額請求権が行使できなくなってしまう前に、早めに遺留分侵害額請求権を行使できるよう対応する必要があります。

不動産の遺産相続の分配方法

遺産の中に不動産が含まれているケースにおいて遺産相続の分配を行う際は、以下の4種類の方法から選択し対応することになります。

  • 現物分割
  • 代償分割
  • 換価分割
  • 共有

それぞれの特徴を踏まえて、自身の状況に応じて適切な遺産相続の分配方法を選択しましょう。

現物分割

現物分割とは、不動産などの遺産をそのままの形で引き継ぐ方法のことで、例えば、不動産は配偶者に相続し、株式は長男に相続するなど、相続財産そのもの(現物)を特定の相続人が相続する方法です。

そのほか、現物分割では、土地を法定相続分と同じ割合に分筆して各相続人が取得するケースもあります。

代償分割

代償分割とは、不動産などの財産を一部の相続人が取得し、他の相続人に法定相続分に応じた代償金を支払って解決する遺産相続の分配方法です。例えば、3,000万円の価値のある不動産があり3人の子が相続するというケースにおいて長男が不動産を相続した場合、その長男は自分以外の兄弟2人にそれぞれ1,000万円ずつ(法定相続分である3分の1)の代償金を支払って解決します。

代償分割を行うと、不動産が欲しい相続人と金銭が欲しい相続人の双方のニーズを満たすことが可能であるものの、不動産を取得する相続人からするとまとまった金額の代償金を準備しなければならず、資力があることが要件となります。

換価分割

換価分割とは、不動産を売却して売却金を相続人の間で分け合う方法で、相続人たちが協力して不動産を売って諸経費を差し引き、手元に残った金額を法定相続分に応じて分配します。換価分割は、現物分割が困難であり、代償金支払能力の不足や取得希望者がいないなどの理由で代償分割もできない場合などに役立つ遺産相続の分配方法だといえます。

共有

共有とは、遺産として相続する不動産を複数の相続人が共同所有することです。相続した不動産を共有する場合、法定相続人が法定相続分に応じた「共有持分」を取得します。

ただし、共有状態の不動産は、1人1人の共有持分権者が自由に管理処分することはできません。例えば、一部の共有持分権者が「賃貸に出して活用したい」「リフォームしたい」などと考えたとしても、他の共有持分権者の同意がなければ自由に管理処分できません。

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まとめ

遺産相続の分配は、それぞれの相続人の利害だけでなく、民法の規定も踏まえながら決定し実行しなければなりません。遺産相続の分配を行う際は、それぞれの相続人の分配割合や順位、遺留分など法律上の留意点が多岐にわたるため、不安があれば弁護士に相談しましょう。