代表相続人が遺産を分配しない時の対処法とは?預貯金が振り込まれないトラブルを避けるためのポイントを解説

遺産相続において、相続人が複数いる場合に「代表相続人」を設定することが、手続きをスムーズに進めるうえで有効な場合があります。しかし、代表相続人を設定した際には注意点も存在します。代表相続人が他の相続人に適切に遺産を分配しないというトラブルが発生することがあるため、この点を念頭に置くことが大切です。 

そこで本記事では、代表相続人の定義や役割などをおさらいしたうえで、代表相続人が他の相続人に対して遺産を分配しない時の対処法について解説します。代表相続人が遺産を分配しないトラブルを未然に防ぐポイントについても紹介していますので、遺産相続の実施にあたって代表相続人を立てる際の参考にしてください。 

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代表相続人とは複数いる相続人から遺産相続手続きの連絡先として選ばれる人 

代表相続人とは、複数いる相続人の中から、預貯金の払い戻しや納税など遺産相続における各種手続きの連絡先として選ばれる人のことを指します。 

代表相続人は民法などの法律によって公式に定められた地位ではなく、実務上の便宜のために相続人同士の話し合いによって選ばれることが一般的であり、選任に際して特別な書面を作成する必要はありません。 

 遺産相続では、全ての相続手続きを一人の代表相続人が行う場合もあれば、異なる手続きごとに別々の代表相続人を定めて役割を分担することもあります。 

もし相続人同士が協力して手続きを進められる状態にあるならば、取り立てて代表相続人を定める必要はありません。しかし、相続人が複数いる場合であって、相続手続きをスムーズに進めるためには、代表相続人を設定することが推奨されています。 

代表相続人はあくまで相続人の代表であり、代表になったからといって相続の配分が増えるわけではなく、また他の相続人よりも多く相続税を支払う必要があるわけではありません。代表相続人の役割は、手続きの代行や連絡の取りまとめに限られます。 

代表相続人の役割 

代表相続人の役割を、以下の5つの項目に分けてご紹介します。 

  • 金融資産の受取と分配 
  • 不動産の名義変更 
  • 固定資産税納税通知書の受取
  • 相続税申告の税理士への対応
  • その他の相続手続き 

 それぞれ順番に詳しく解説しますので、一つ一つ把握しておきましょう。 

金融資産の受取と分配 

代表相続人は、亡くなった人(被相続人)の預貯金や有価証券などの解約(払戻)や名義変更手続きを代表して行い、解約後の現金を「代表受取人」として受領することがあります。 

被相続人の預貯金等を解約し現金を受け取る際、代表相続人は遺産分割協議書や相続届、戸籍謄本、印鑑証明書、委任状などの必要な書類をひとまとめにして、金融機関に提出することが必要です。金融機関から受領した現金は、分割割合に応じて代表相続人から他の相続人に対して分配されます。 

被相続人の預貯金を受け取る際、代表相続人は自分の預貯金と区別するために、新たに自分名義の預金口座を開設することが推奨されます。 

金融機関の相続手続きは、原則として相続人全員で窓口に出向く必要があるのですが、代表相続人を指定すれば、煩雑な手続きを簡略化し、効率よく進めることが可能です。 

ただし、被相続人が利用していた金融機関により取扱い方法は異なり、解約後の現金を相続人各々に払い戻し可能な場合もあるため、事前に確認されることが望ましいです。 

不動産の名義変更 

不動産の名義変更(相続登記)の手続きを進める際も代表相続人を定めることがあり、この場合には、遺産分割協議書や戸籍謄本などの必要書類を揃えて法務局に提出したり、司法書士に依頼する場合にはその窓口としての対応を行ったりするのが一般的です。 

なお、被相続人の所有する不動産を相続しても住む予定がない場合や、相続財産のほとんどが土地・建物であった場合、該当の不動産を売却して換金し、そのお金を相続人で分ける分割方法(換価分割)を採用することがあります。  

ただし、不動産の売買契約は被相続人の名義のままでは成立しないため、相続人に一時的に名義を移さなければなりません。その場合、相続人の人数が多ければ売買契約自体が煩雑になってしまうため、代表相続人を決めて、その人に売却行為を託すことで、手続きが簡略化されてスムーズに進みやすくなります。 

遺産分割協議書には、代表相続人に不動産の売却行為を任せ、換金された後に必要経費などを全て差し引いて分割を行う旨を明記しておけば、贈与とみなされる心配はありません。 

固定資産税納税通知書の受取 

不動産を所有されている方に届く「固定資産税納税通知書」は、原則としてその年の1月1日時点の登記上の名義人宛に送付されています。 

相続が発生した場合、相続登記が完了するまでは、いつまでも被相続人宛に通知書が送付されることになってしまい、受け取り手が不在となって固定資産税が未納となる事態が発生することが考えられます。 

そこで、役所より「相続人代表者指定届」という書類が相続人宛に送られますが、代表相続人を指定しておけば、その方宛に固定資産税納税通知書が届くため、支払い漏れを防ぐことができます。 

なお、代表相続人が納税通知書の受取人となることによって、その人にすべての納税責任が発生するわけではありません。代表相続人の役割は、納税通知書を受け取り、相続人全員の代わりに必要な手続きを行うことに限られています。この点は、他の相続人にも誤解がないように、しっかりと理解してもらうことが重要です。 

相続税申告の税理士への対応 

通常、相続税の申告書は全ての相続人の連名で提出されますが、実際の申告手続きにおいては代表相続人を指名してこの手続きを代行させることがあります。特に相続人が多い場合は、代表相続人を定めたほうがスムーズに手続きが進むことが多く、結果として納税期限に遅れてしまうことを回避できます。 

相続税には「被相続人が亡くなってから10ヶ月」という申告・納税の期限があり、この期限までに相続人全員が共同で署名押印して相続税申告書を管轄の税務署へ提出しなければなりません。 

相続税の申告は複雑なので、税理士の助けを借りることがよくありますが、この際に代表相続人が税理士とのやり取りを担う窓口としての役割を果たすことがあります。代表相続人が必要な書類を整理して税理士に提供することにより、税理士は相続税の申告手続きを効率的に進めることができます。 

その他の相続手続き 

代表相続人は、自動車の相続手続きや相続放棄の手続きを代わりに行うこともあります。通常、相続放棄は各相続人が個別に行いますが、複数の相続人が一緒に手続きを進めることも可能です。 

代表相続人が遺産を分配しない場合の対処法 

遺産相続にあたって代表相続人を定めた場合、代表相続人が他の相続人に適切に遺産を分配しないというトラブルが発生することがあるため、この点を念頭に置いて適切に対処することが大切です。 

 「代表相続人が預貯金を出金した後に他の相続人への分配を拒否している」ケースを例に挙げて、適切な対処法として以下の2つをご紹介します。 

  • 話し合いを試みる 
  • 遺産分割調停・訴訟を利用する 

 それぞれの方法を把握しておき、トラブル発生時には適切に対処できるようにしておきましょう。 

話し合いを試みる 

まずは、代表相続人と話し合いを試みて、遺産分割の進捗や遺産を分配しない理由を確認することが重要です。代表相続人との間で誤解があれば解消し、円滑な遺産分割に向けて話し合いを行いましょう。 

代表相続人との話し合いには、できる限り全ての相続人が出席することが大切です。相続人全員が出席できない場合は代理人を立てるなどして、全員の意見が反映されるようにします。 

また、弁護士に同席してもらうと、法的なアドバイスや中立的な意見を得られます。加えて、あらかじめ弁護士からサポートを受けながら、遺産の詳細や相続の法的な権利について調査し、情報を共有しておくことで、話し合いがスムーズに進みやすくなります。 

代表相続人との話し合いでは、全員の意見を尊重しつつ、一方的な主張を避けることが大切です。そのうえで、話し合いで解決できずに訴訟に発展した場合に発生する費用や手間などを代表相続人に伝えながら、和解に応じるよう粘り強く説得していくことも大切です。 

話し合いによって合意に至った内容については文書に残し、全員で署名もしくは押印することで、将来的なトラブルを防ぎましょう。 

なお、弁護士のような専門家にサポートを依頼すれば、和解の提案にあたって、遺産の分配額の計算においてまずは当方に有利な計算書(見込まれる落とし所よりも有利な計算結果となる計算書)を作成し、そこから話し合いで譲歩をしていくというスタンスで和解の提案をスムーズに行っていくことも可能です。 

遺産分割調停・訴訟を利用する 

代表相続人との話し合いで合意に至らない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるのが一般的な解決方法です。 

遺産分割調停では、裁判所から選ばれた調停委員へ各相続人が個別に権利等を主張します。相続人全員の出頭を原則としていますが、遠隔地で出席が困難な場合など、裁判所が認める事情があれば電話での出頭も可能です。 

遺産分割調停で解決しない場合は、訴訟を起こすことが有力な選択肢となります。原則として遺産分割調停が不成立になると自動的に審判手続に移行しますが、遺産分割後の紛争調整の調停が不成立で終了した場合には自動的に審判手続に移行せず、改めて地方裁判所に訴訟を起こすことになります。 

以上の2つが代表相続人が遺産を分配しない場合の対処法ですが、このように代表相続人が遺産の分配を拒否することで生じるトラブルへの対処には様々な手続きや準備が求められますので、遺産相続に強い弁護士に相談することをおすすめします。 

遺産相続の専門家には、弁護士のほかに司法書士や税理士などもいますが、司法書士や税理士は法律の専門家ではないため、法的に難しい問題が生じた場合に柔軟かつ適切な対応ができません。弁護士は遺産相続の手続や紛争に精通していますので、遺産相続の最初から最後まで一貫して対応することが可能です。 

参考:裁判所「遺産分割調停」 

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代表相続人が遺産を分配しないトラブルを避けるためのポイント 

代表相続人が遺産を分配しない問題の発生を未然に防ぐためには、以下2つの対策を講じておくことが効果的です。 

  • 代表相続人に適している人を選ぶ 
  • 遺産分割協議書を作成しておく 

それぞれの方法を順番に解説しますので、遺産相続の実施にあたってお役立てください。 

代表相続人に適している人を選ぶ 

代表相続人を立てたことで生じるトラブルを避けるためには、適している人物を選んでおくことが大切です。 

一般的に代表相続人に適していると考えられている人の特徴は以下のとおりです。 

  • 責任感が強い人 
  • 時間的な余裕がある人
  • 信用できる人 

代表相続人は、遺産相続に関わる様々な手続きを代わりに行う役割を担います。相続手続きは複雑で時間や労力がかかることが多いため、途中で作業を断念する可能性がある人は、代表相続人として適していないと言えます。 

また、相続手続きには役所や金融機関への訪問が必要で、これらの場所は大抵平日の日中にしか開いていません。さらに、他の相続人との連絡や弁護士、税理士とのやり取りにも時間と手間がかかるため、代表相続人は日中の時間を柔軟に使える人が向いています。 

そして、代表相続人を選ぶ際には、その人の信頼性を重視することも大切です。代表相続人は一時的に被相続人の金融資産を受け取り、その後で他の相続人に適切に分配する役割を担います。そのため、遺産を不正に使用したり、管理を怠ったりする心配がない人を代表相続人に選ぶことが重要です。 

遺産分割協議書を作成しておく 

遺産相続を行う際、もし相続人が複数いる場合は、誰が遺産のどの部分を相続するかを明確にするために、遺産分割協議書を作成することが重要です。遺産分割協議書は、全ての相続人が遺産の分割について合意したことを示す書類であり、将来的なトラブルを防ぐ役割を果たします。 

また、遺産分割協議書を作成する際、どの相続人が代表相続人として選ばれたかを明記することも重要です。遺産分割協議書は、被相続人の口座からお金を引き出す際にも必要となります。代表相続人の名前を協議書に記載することで、金融機関に対して代表相続人が他の相続人の代わりに一時的に遺産を預かり、分配する立場であることをはっきりさせることができます。 

代表相続人が遺産分割協議書で自身の立場を証明せずに金融資産を受け取って分配すると、税務上は「故人から相続人への遺産相続」として扱われるのではなく、「代表相続人から他の相続人への贈与」と見なされる可能性があるため、注意が必要です。 

以下に、代表相続人が金融機関の解約(払い戻し)を行う場合における遺産分割協議書の記載例を示します。 

  • 相続人代表者を〜〜とし、代表して金融機関の相続手続きを行うこととし、相続人代表者の指定口座に解約金全額を振り込むものとする。その後、振込手数料は差し引き、相続割合に応じて(もしくは、いくらと限定)、各人の指定口座に、相続人代表者が○月○日までに各々に振り込むものとする。 

代表相続人が分配しない問題のまとめ 

相続人代表者は、相続人の方が複数名いる場合において、代表して相続手続きを進めていく方のことです。 

遺産相続の手続きをスムーズに進めるうえで様々な役割を担いますが、代表相続人が他の相続人に適切に遺産を分配しないという問題が発生する可能性がある点には注意しなければなりません。 

相続人の間でよく話し合って、責任感があり信頼できる人を相続人代表者に選んだうえで、相続の手続きを進めましょう。 

代表相続人が遺産を分配しない問題が発生したら、話し合いや調停などを通じて解決を図りましょう。このような代表相続人にまつわる問題を解決する際には様々な手続きや準備が求められますので、遺産相続に強い弁護士に相談することをおすすめします。 

 専門家からアドバイスを得ることで、最適な遺産相続の方法を把握することが可能です。 

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