遺留分の計算方法とは?パターン別の遺留分割合と遺留分侵害額請求の方法を解説
親が子供1人だけに遺産を残した場合、あきらめるしかないと思っていませんか?実は、ほかの相続人にも「遺留分」という最低限の相続分が保証されており、「遺留分侵害額請求」によって侵害額を請求できます。この記事では、遺産全体において遺留分が占める割合の具体例と遺留分額の計算方法を解説し、遺留分が侵害された場合に遺留分侵害額請求を行う方法や期限、遺留分を放棄する方法についても紹介します。
遺留分とは
遺留分とは、(被相続人の兄弟姉妹を除く)相続人に法律が最低限保証している相続分です。たとえば、親がほかの兄弟を差し置いて長男にだけ財産を遺すと遺言書に書いていたとしても、それ以外の子供にも遺留分を受け取れる権利があります。つまり、遺留分は遺言よりも優先されるのです。
遺留分の権利がある人・ない人
遺留分の権利がある人(遺留分権利者)は、被相続人の配偶者と子供、(子供がいない場合のみ)父母や祖父母といった直系尊属です。直系尊属とは、父母や祖父母など直系でつながっている親族のうち自分より前の世代を指します。
子供が後述の理由で相続権を失った場合は、代襲相続により孫に遺留分が認められ、さらに孫が相続権を失った場合には、ひ孫に遺留分が認められます。代襲相続とは、死亡、相続欠格(民法891条)、相続廃除(民法892条)のいずれかの事由によって相続人が相続権を失った場合、その子供に相続権が発生する制度です。なお、子供が相続放棄によって相続権を失った場合は、孫に遺留分は発生しません。
また、被相続人の兄弟姉妹には遺留分の権利がない点に注意しましょう。兄弟姉妹に遺留分の権利がない理由は明らかにされていませんが、相続人の優先順位を決める場合でも兄弟姉妹の順位は高くありません。被相続人の配偶者は常に相続人となりますが、それ以外の相続人は優先順位によって決定し、兄弟姉妹は直系卑属(子供や孫)・直系尊属(父母や祖父母)に次いで第三順位です。そのような事情から、兄弟姉妹には遺留分がないのかもしれません。
遺産における遺留分割合の具体例
それでは、相続される財産のうち、何割が遺留分として保証されているのでしょうか。遺留分権利者の遺留分をすべて合計したものを「総体的遺留分」といい、全体に占める割合は次の通りです(民法1042条)。
- 直系尊属以外にも相続人がいる場合:総体的遺留分は2分の1
- 相続人が直系尊属のみの場合:総体的遺留分は3分の1
つまり、相続人が非相続人の父母や祖父母しかいない場合は財産全体の3分の1、直系尊属以外の相続人がいる場合は財産全体の2分の1が、総体的遺留分として遺留分権利者に保証されます。各相続人がどれだけもらえるかは、総体的遺留分に個別の遺留分(個別的遺留分)を乗算して計算します。
遺留分の割合:相続人が直系尊属以外にもいる
具体的に、パターンごとに遺留分の割合を見ていきましょう。まず、被相続人の直系尊属以外にも配偶者や子供などの相続人がいるパターンAでは、総体的遺留分は財産全体の2分の1になります。実際はこのパターンが大半です。
相続人が配偶者のみ
パターンAはすべて、総体的遺留分が財産全体の2分の1です。相続人が配偶者のみのケースでは、ほかに相続人がいないため配偶者に総体的遺留分がまるごと保証されます。たとえば、遺産が1億のケースでは、配偶者の遺留分は1億×1/2=5000万円です。
相続人が配偶者と子供1人
相続人が配偶者と子供1人のケースでは、配偶者と子供1人が総体的遺留分を法定相続分の割合で分け合います。具体的には、総体的遺留分に法定相続分を乗算して、個別的遺留分を計算します。
法定相続分 配偶者:1/2 子供A:1/2
個別的遺留分(総体的遺留分×法定相続分) 配偶者:1/2×1/2=1/4 子供A:1/2×1/2=1/4
たとえば、遺産が1億のケースでは、配偶者と子供Aの遺留分はそれぞれ1億×1/4=2500万円ずつになります。
相続人が配偶者と子供2人
相続人が配偶者と子供2人のケースでは、配偶者と子供2人が総体的遺留分を法定相続分の割合で分け合います。法定相続分は子供2人のトータルが2分の1となるため、各子供の法定相続分は1/2×1/2=4分の1です。
法定相続分 配偶者:1/2 子供A・B:各1/2×1/2=1/4ずつ
個別的遺留分 配偶者:1/2×1/2=1/4 子供A・B:1/2×1/4=1/8
たとえば、遺産が1億のケースでは、配偶者の遺留分は1億×1/4=2500万円、子供A・Bの遺留分はそれぞれ1億×1/8=1250万円ずつになります。
相続人が配偶者と子供3人
相続人が配偶者と子供3人のケースでは、配偶者と子供3人が総体的遺留分を法定相続分の割合で分け合います。法定相続分は子供3人のトータルが2分の1となるため、各子供の法定相続分は1/2×1/3=6分の1です。
法定相続分 配偶者:1/2 子供A・B・C:各1/2×1/3=1/6ずつ
個別的遺留分 配偶者:1/2×1/2=1/4 子供A・B・C:1/2×1/6=1/12
たとえば、遺産が1億のケースでは、配偶者の遺留分は1億×1/4=2500万円、子供A・B・Cの遺留分はそれぞれ1億×1/12=833万円3333円ずつになります。
相続人が配偶者と父母(子供なし)
相続人が配偶者と父母(子供なし)のケースでは、配偶者と父母が総体的遺留分を法定相続分の割合で分け合います。法定相続分は配偶者が3分の2、父母2人で3分の1です。父母が2人とも健在なら各人の法定相続分は1/3×1/2=6分の1ずつ、父母がどちらかのみなら1人で3分の1になります。
法定相続分 配偶者:2/3 父母:1/3×1/2=1/6ずつ
個別的遺留分 配偶者:1/2*2/3=1/3 父母:1/2*1/6=1/12ずつ
たとえば、遺産が1億のケースでは、配偶者の遺留分は1億×1/3=3333万3333円、父母の遺留分はそれぞれ1億*1/12=833万3333円ずつです。また、父母が片方のみの場合は、配偶者の遺留分は変わらず、父母どちらか1人のみの法定相続分は1/3、個別的遺留分は1/2×1/3=1/6となり、1億×1/6=1666万6666円となります。
相続人が配偶者と兄弟姉妹
相続人が配偶者と兄弟姉妹(子供や父母なし)のケースでは、兄弟姉妹に遺留分の権利がないため相続人が配偶者のみのケースと同様に、配偶者に総体的遺留分がまるごと保証されます。たとえば、遺産が1億のケースでは、配偶者の遺留分は1億×1/2=5000万円、兄弟姉妹は0円です。
遺留分の割合:相続人が直系尊属のみ
相続人が被相続人の直系尊属(父母や祖父母)のみのパターンBでは、総体的遺留分が財産全体の3分の1となります。
相続人が父母どちらか1人
相続人が父母どちらか1人のみのケースでは、その1人に総体的遺留分(財産全体の3分の1)がまるごと保証されます。たとえば、遺産が1億のケースでは、父母どちらか1人の遺留分は1億×1/3=3333万3333円です。
相続人が父母2人
相続人が父母2人のケースでは、父母2人で総体的遺留分を等しく分け合います。たとえば、遺産が1億のケースでは、父母2人の遺留分はそれぞれ1億×1/3×1/2=1666万6666円ずつです。
遺留分額の計算方法:基礎財産の計算が重要
ここまで個人の遺留分の割合を出すために、総体的遺留分に法的相続分を乗算して個別的遺留分を計算してきました。
個別的遺留分=総体的遺留分×法的相続分
割合だけではなく遺留分の金額(遺留分額)を計算するには、次の式のように「遺留分算定の基礎となる財産」の金額確定が必要です。
遺留分額=遺留分算定の基礎となる財産×個別的遺留分
そのためには、次の式に従って3つの財産をそれぞれ洗い出します。
遺留分算定の基礎となる財産=相続開始時の財産+贈与財産ー債務
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。(民法第1043条)
基礎財産の確定手順1.相続開始時の財産を洗い出す
まず、相続開始時に被相続人が有していた財産がいくらだったのか、財産を洗い出して価額を明らかにします。ここでは基礎財産の計算に必要な最低限の書類を挙げていますが、実務上は他にも複数の書類が必要となるため、弁護士などの専門家に相談するのがよいでしょう。
- 預貯金や現金
- 株式や投資信託などの有価証券
- 家や土地などの不動産
- 動産やその他の財産
預貯金や現金
預貯金は、金融機関に相続開始時点の残高証明書の発行を依頼します。現金は、残高が分かる書類を用意します。
株式や投資信託などの有価証券
上場株式や投資信託などの金融商品は、証券会社に相続開始時点の残高証明書の発行を依頼します。ただし、非上場株式については、上場株式のように明確な評価額がないため、発行会社に保有数を確認後、弁護士や税理士などの専門家に評価額の算定を依頼します。
家や土地などの不動産
不動産における相続開始時の評価額を求めるには次の方法があります。それぞれに特徴があるので、遺留分侵害額請求に適した方法を選ぶことが必要です。
1.公示地価や基準地価
公示地価は国(国土交通省の土地鑑定委員会)、基準地価は都道府県が年1回調査している地価で、国土交通省のホームページで検索できます。
2.固定資産税評価額
固定資産税を計算する際の基準価格で、相続税などの計算に使われます。毎年5月頃に市区町村から郵送される「固定資産税課税明細書」に記載されています。評価額は公示地価の7割程度です。
3.相続税路線価
国税庁が年1回調査している地価で、国税庁のホームページで検索できます。評価額は公示地価の8割程度です。
4.時価評価額
時価を調べるには決まった方法はありません。複数の不動産業者から見積もりをもらって平均額を目安とする方法や、不動産鑑定士に鑑定を依頼する方法、固定資産税評価額は公示地価の7割(つまり×0.7)なので、逆に0.7で割り戻して時価を推定する方法などが考えられます。
1から3の方法は簡単に地価が分かるのがメリットですが、2と3は評価額が低めに出るため請求する侵害額も低くなってしまうのがデメリットです。4のうち、不動産鑑定士に鑑定を依頼すれば比較的高めの評価額が出る傾向がありますが、鑑定費用がかかる点がデメリットといえます。
動産やその他の財産
自動車や家財などの動産、貴金属や骨董などの収集品、ゴルフ会員権などその他の財産は、リストアップして弁護士などの専門家に評価を依頼します。
死亡退職金や生命保険金は遺留分侵害額請求の対象外
死亡退職金は遺族の生活を保障するためのものなので、遺留分を算定する基礎財産には含まれません。生命保険金も原則的に基礎財産には含まれませんが、受取人が相続人で、保険金が高額かつ遺産に占める割合が高いなど「特段の事情」が存在する場合のみ例外的に、基礎財産に含まれて遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります。
基礎財産の確定手順2.贈与財産を足す
相続開始時における財産の価額を明らかにしたら、以下の贈与を洗い出して価額を足します。
- 相続開始前の1年間に成された贈与(民法1044条1項)
- 相続開始前の10年間に、婚姻や養子縁組による、または生計の資本のために成された特別受益(民法1044条3項)
- 遺留分権利者に損害を与えると当事者双方が分かっていて成された贈与(民法1044条1項)
- 高額な売買など不相当な対価による有償行為のうち、遺留分権利者に損害を与えると当事者双方が分かっていて成されたもの(民法1045条2項)
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。(民法1044条1項)
相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。(民法1044条3項)
不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。(民法1045条2項)
特別受益とは、複数の相続人がいるのに一部の相続人のみが受け取った利益を指します。しかし、子供が親から結婚のお祝いなどをもらうのはよくある話です。特別受益にあたるかは、その贈与が相続分の前渡しに該当するかどうかで判断します。
基礎財産の確定手順3.債務を引く
相続開始時の財産に上記の贈与財産を足したら、債務の金額を差し引きます。控除の対象となる債務は、被相続人名義の借金やローン、買掛金や事業資金の借入分、家賃や医療費の未払い分などです。ただし、被相続人が連帯保証人になっている債務は対象となりません。葬儀費用は被相続人の債務ではないため差し引けない点にも注意しましょう。
基礎財産の確定後は、個別的遺留分を乗算
ここまで、次の式に従って遺留分算定の基礎となる財産を計算してきました。
遺留分算定の基礎となる財産=相続開始時の財産+贈与財産ー債務
個人が受け取れる遺留分額を計算するには、前章で解説した個別的遺留分を、ここまで求めてきた遺留分算定の基礎となる財産に掛けます。
遺留分額=遺留分算定の基礎となる財産×個別的遺留分
遺留分侵害時の防衛策:遺留分侵害額請求の方法と手順
法律で保証されている遺留分を無視した遺言が書かれるなどのケースは現実に多々あります。そのような時に遺留分を取り戻すための手段が「遺留分侵害額請求」です。
遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、遺留分の権利を持つ人が(遺留分権利者)が遺留分を侵害された場合に、侵害した相手に侵害額相当の金銭支払いを請求することです。遺留分の侵害は、遺贈(遺言による財産移転)や生前贈与、死因贈与によって発生します。たとえば、父親が全財産を愛人に遺すと遺言に書いていたなどのケースです。
遺留分侵害額請求の方法と手順
遺留分侵害額請求の手順と具体的な方法を簡単に解説します。
協議を行う
前提として、遺留分侵害額請求を行う前に、協議(話し合いによる交渉)のみで清算金を支払ってもらえるならそれに越したことはありません。そのため、まずは協議で相手方と合意できないか試みることが大切です。協議をうまく進めるには、専門家である弁護士に進め方を相談するのがよいでしょう。
遺留分侵害額請求を意思表示(内容証明郵便で送付)
協議で合意に至れない場合は、次の手順を踏んで遺留分侵害額請求を行います。
- 遺留分侵害額請求を意思表示
- 遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
- 遺留分侵害額請求訴訟を起こす
まず、遺留分侵害額の請求を行うという意思を、相手方に表示する必要があります。具体的には、遺留分侵害額請求書を内容証明郵便で相手方に送付するのが一般的です。内容証明郵便を使う理由は、後述する遺留分侵害額請求の時効(1年)に引っかからないよう、時効が消滅する前に請求の意思表示をした履歴を残すためです。請求の送付後に相手と協議をし、この段階で合意できればそのまま支払を受けます。
遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
遺留分侵害額請求の意思表示をしても相手方から無視される、協議しても合意に至らない場合は、次の段階として遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。具体的には、裁判所のホームページでダウンロードできる雛形などで申立書を作成して家庭裁判所に提出します。提出先の家庭裁判所は、相手方の住所地を管轄または当事者間で合意した家庭裁判所です。自分と相手方の居住地が離れている場合は中間地点にするなど、家庭裁判所の管轄の点だけでも合意できるよう試みてみましょう。
調停では、調停委員会が当事者間に入って話し合いを仲介するため冷静に協議しやすい点がメリットですが、半年程度の期間を要します。当事者が合意に至って調停が成立すれば、調停調書が作成され取り決めに従って支払を受けられます。調停調書通りの支払が受けられない場合は、地方裁判所に強制執行の申立てを起こすことが可能です。
遺留分侵害額請求訴訟を起こす
遺留分侵害額請求の意思表示をし、調停を申し立てる、2つの段階を踏んでも合意に至れなかった場合、遺留分侵害額請求訴訟を起こすことができます。なお、いきなり訴訟に踏み切ることはできず、2つの段階を経由することが必要です。訴訟提起は具体的に、原告(自分)が地方裁判所または簡易裁判所に訴訟を提出することから始まります。提出先の裁判所は、この訴訟は金銭訴訟となるため調停を申し立てる時とは異なり、自らの住所地を管轄する裁判所に提出が可能です。
訴訟で和解や勝訴判決を勝ち取れれば、相手方から支払を受ける権利を得ます。相手方が支払をしなければ、強制執行を行って強制的に支払を受けることが可能です。
遺留分侵害額請求の期限(時効・除斥期間)に注意
前述したように、遺留分侵害額請求書を内容証明郵便で送付して履歴を残すのは、遺留分侵害額請求の時効を意識しているためです。
遺留分侵害額請求の時効
遺留分侵害額請求は、「相続開始」「遺留分を侵害されている事実」この両方の事実を知ってから1年以内に行わなければなりません。1年を過ぎると請求できる権利は消滅するため(時効にかかる)、請求できなくなります。両方の事実を知ってから1年なので、たとえば相続開始を知って1年後に遺留分侵害の事実を新たに知った場合は、その時点から1年と計算します。
遺留分侵害額請求の意思表示を口頭のみで行うと、相手方が受け流して1年経った頃に時効を主張されるケースもあるので、遺留分侵害額請求の意思表示は必ず内容証明郵便で送付して履歴を残しましょう。なお、1年以内に支払を受ける必要はなく、遺留分侵害額請求の意思表示を行えば足ります。
遺留分侵害額請求の除斥期間
除斥期間とは一定期間が過ぎると権利が消滅する制度で、法律関係を長引かせず速やかに確定させるために設けられています。遺留分侵害額請求の除斥期間は相続開始から10年で、それを過ぎると権利が消滅します。なお、権利者が相続開始の事実自体を知らなくても権利が消滅してしまう点に注意しましょう。
遺留分の放棄
遺留分侵害額請求は相続人間で少なからずトラブルとなるため、付随する煩わしさを避けたいなら遺留分の放棄が可能です。遺留分は、被相続人の生前と死後、どちらのタイミングでも放棄できます。
また、遺留分の放棄と相続放棄は異なります。遺留分の放棄は遺留分のみの放棄になります。遺言などにより遺留分が侵害され、自らの相続分は遺留分以下の状態で遺留分を放棄すると、遺留分は受け取れませんが相続分の受け取りは可能です。これに対して、相続放棄は相続人としての地位の放棄となり、一切の相続の放棄になります。また、遺留分の放棄は被相続人の生前でもできますが、相続放棄は生前はできません。
遺留分を放棄する方法
遺留分を放棄するには、被相続人が亡くなる前とその後では方法が異なります。
被相続人が亡くなる前(生前)
被相続人が亡くなる前に遺留分を放棄する場合は、遺留分権利者が被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に「遺留分放棄の許可」を申し立てて許可を受ける必要があります。
被相続人の死後
被相続人の死後に遺留分を放棄する場合は、遺留分権利者が侵害者に「遺留分を放棄する」旨を意思表示するだけで足ります。または、相続開始と遺留分侵害の2つの事実を知ってから1年以内に何もしなければ、遺留分侵害額請求の時効が成立し、遺留分を放棄したのと同じ状態になります。
被相続人の生前と死後で方法が異なる理由
遺留分を放棄するには、被相続人が生きている間は厳格な手続きが必要ですが、被相続人の死後なら簡単に放棄できます。このように被相続人の生前と死後で手続きの難易度が異なる理由は、生前は被相続人が遺留分の放棄を迫るなど不当に干渉できるからです。遺留分は法律が相続人に保証している権利なので、他者の強要によらず、権利者の意思で放棄する必要があります。
とはいえ、事業承継などで後継者の子供に遺産を集中させたいケースもあるでしょう。その場合は、被相続人が強要することなく、生前贈与など何らかの代償を与える方がスムーズに進みます。
まとめ
被相続人の兄弟姉妹を除く相続人であれば、法律が最低限保証している遺留分を受け取る権利があります。遺留分を計算するには、算定の基礎となる財産の価額に、個別的遺留分を乗算します。
ただし、遺言などにより遺留分が侵害されていても、当然のように遺留分が受け取れるのではなく、侵害相手に遺留分侵害額請求を起こす必要があります。遺留分侵害額請求は、調停や訴訟といった手続きを要し時間や労力がかかります。相手方との協議だけで支払を受けられるに越したことはなく、協議をスムーズに進めるには、冷静な第三者である専門家の弁護士に相談するのがよいでしょう。