不動産相続の相談先とは?専門家に依頼する理由や相談内容を解説 

相続する財産の中でも、不動産の相続で問題が発生するケースは少なくありません。不動産は相続人の間で分割しにくいだけでなく、所有しているだけで維持費がかかるという特徴があります。 

不動産を相続した方やこれから相続を予定している方の中には、相談したいことがある、または相談先を探しているという方も多いでしょう。 

本記事では、不動産の相続に関する悩みの相談先を解説します。専門家に相談すべき理由や、相談時に持参すべきものも紹介していますのでお役立てください。 

不動産相続の相談先 

不動産を相続した際の相談先は、主に以下の9つが挙げられます。  

  • 弁護士 
  • 司法書士 
  • 法務局 
  • 税理士 
  • 行政書士 
  • 役所 
  • 不動産会社 
  • 管理会社 
  • ハウスメーカー 

対応範囲や役割が異なるため、相談内容に合わせて適切な相談先を選ぶことが大切です。ここからは、各相談窓口で相談できる内容や特徴を分かりやすく解説します。 

弁護士 

不動産の相続トラブルに関する相談には、弁護士が適しています。すでに他の相続人とトラブルが起きている場合や、トラブルが発生しそうな場合、話し合いで解決が難しいときは、訴訟の対応も含めて弁護士のサポートが必要です。 

さらに、弁護士は遺言書の検認手続きをはじめ、相続に必要な各種書類の作成にも対応しています。 

相続をトラブルなくスムーズに進めるためには、被相続人(相続財産の所有者)が健康で判断能力があるうちに、相続人の間で話し合いの機会を持ち、お互いの意向を確認しておくことが重要です。 

しかし、話し合いがまとまらないことも多くあります。そのような場合、弁護士に、相続人との交渉対応を依頼できます。弁護士という第三者の視点が入ることで、遺産分割協議でもスムーズかつ納得のいく決着が望めます。すでに揉めている場合でも、法的な視点から冷静に交渉対応してくれるため、トラブルが悪化することもないでしょう。 

また、トラブルを未然に防ぐためには、どのように分けるとよいか、また自分に有利に相続を進めるにはどうすれば良いか、具体的な対策を弁護士に相談しておくのも良いでしょう。 

さらに、被相続人の意思を遺言書にまとめておくことも、トラブルを防止する上で効果的です。ただし、遺言書がトラブルの原因になることもあるため、その内容についても弁護士に相談しておくことが望ましいです。 

そのほか、弁護士には、不動産の相続に関して以下のような内容を相談できます。  

  • 不動産の価値の計算 
  • 相続登記(名義変更)の手続き 
  • 二次相続に備えた相続税対策 
  • 不動産に関するトラブル全般 

司法書士 

不動産の名義変更に関する相談は、司法書士が適しています。相続登記と呼ばれる名義変更の手続きに必要な書類の取得から申請まで、すべて任せることができるためです。 

なお、不動産の名義変更は、2024年4月1日から義務付けられます。2024年4月1日より前に相続した不動産も対象となり、相続によって不動産を取得した日または2024年4月1日のいずれか遅い方から3年以内に手続きを行う必要があります。 

なお、不動産の名義変更のみであれば自力で行うことも可能です。また、遺産相続の途中で紛争が発生した場合には、弁護士への相談先の切り替えが必要となる点にもご留意ください。 

法務局 

全国の法務局では、相続登記に関する相談を受け付けています。地域によっては「予約制」で相談を受け付けている場合もあります。ただし、法務局では登記書類の作成方法については相談できますが、遺産分割などに関する相談は基本的にできませんのでご注意ください。 

税理士 

税理士は、相続税の相談先として適しています。ただし、相続税について相談する際は、相続を専門とする税理士を見つけることが重要です。 

多くの税理士は法人や個人事業主を顧客としており、毎月の顧問料や決算料を主な収益源としています。個人の相続税対応のように突発的に発生し、一度きりで継続性のない業務は、ビジネスとして成立しにくいため、相続税を専門に扱っている税理士は少ないのが現状です。 

そのため、多くの税理士は相続税に不慣れなことが多く、適切な回答が得られないこともある点にご注意ください。 

行政書士 

行政書士は、行政手続きを専門としており、遺産分割協議書の作成や相続人調査などを中心に各種手続きのサポートを受けられます。行政書士は「身近な街の法律家」と呼ばれ、他の専門家に比べて料金が比較的リーズナブルで、気軽に相談しやすい点がメリットです。 

ただし、司法書士とは業務範囲が異なり、行政書士は不動産の名義変更を行うことはできない点に注意しましょう。 

役所 

市役所や区役所では、地域住民を対象にした無料の法律相談会を実施していることがあります。相談員は弁護士や司法書士などの専門家で、不動産の相続トラブルや相続登記に関する相談も受け付けています。 

利用条件などは地域によって異なるため、市役所や区役所への相談を検討する際は、事前にお住まいの自治体の公式ホームページなどで確認することをおすすめします。 

不動産会社 

相続した不動産の売却を検討している場合は、不動産会社への相談も効果的です。不動産会社は相続の専門家ではありませんが、不動産の査定だけでなく、リフォームや取り壊しの必要性など、幅広いアドバイスを受けられます。 

ただし、不動産の売却で利益が出ると、相続税に加えて譲渡所得税もかかるため、節税の観点から売却を検討することが重要です。 

管理会社 

不動産の相続にあたって、「引き継いだアパート経営の相談をしたい」といった方も少なくありません。その場合は、管理会社への相談が適切です。 

ハウスメーカー 

相続した不動産で「土地活用」を検討するなら、ハウスメーカーへの相談が適切です。土地活用はアパート経営から太陽光発電まで幅広い種類がありますが、収益物件を建てると、不動産の相続税評価額が下がり、相続税の節税効果が期待できます。 

土地活用を考える場合は、ハウスメーカーに相談して「アパートやマンションなどを建てた場合、どの程度利益が出るのか」を確認すると良いでしょう。 

不動産相続の相談を専門家にすべき理由 

被相続人が土地や建物などの不動産を所有していた場合は、弁護士をはじめとする専門家に相談することがおすすめです。 

不動産相続を専門家に相談すべき主な理由は以下の2つです。  

  • 不動産の評価・相続方法で争いになりやすいため 
  • 相続登記には複雑な手続きが求められるため 

それぞれの理由を順番に詳しく解説します。 

不動産の評価・相続方法で争いになりやすいため 

相続人が複数いる場合、不動産の評価方法や相続方法で揉めることが多いです。 

この主な原因として、不動産が他の財産と異なり、様々な分割方法(現物分割・共有、代償分割、換価分割)があること、そして不動産が一般的に高額な財産であるため、評価方法や相続方法によって相続人同士に不平等が生じやすいことなどが挙げられます。 

不動産相続について事前に弁護士に相談しておくことで、適切な評価方法や相続方法を知ることができ、不動産相続に関する争いを防げる可能性が高まります。 

相続登記には複雑な手続きが求められるため 

不動産を相続した場合、不動産の名義変更手続きが必要になります。名義変更は、不動産の所在地を管轄する法務局で行う必要があり、登記免許税の計算や登記申請書の作成なども必要です。 

これらの手続きは複雑で時間がかかるため、自分で行うと大きな負担になります。そのため、相続登記の手続きをすべて任せられる専門家に相談し、手続きを依頼するのがおすすめです。 

不動産相続の相談をするタイミング 

相続は、被相続人が死亡したときに発生します。葬儀や金融機関への連絡など、多くの手続きが必要なため、不動産相続をいつ相談すれば良いのか悩む方もいるでしょう。ここでは、不動産相続の相談を始めるタイミングについて解説します。 

できれば相続の発生から3か月以内 

不動産相続に関する相談は、相続発生から3か月以内に行うことが望ましいです。相続の承認・放棄は、原則として、相続人が相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければならないためです(民法915条1項)。  

プラスの遺産とマイナスの遺産を比べた結果、マイナスの遺産(負債)が多い場合は、不動産があっても相続放棄をした方が良い場合もあります。期限までに相続を承認するか放棄するかを決めるためには、不動産の価値を知っておく必要があるので、まずは不動産会社に相談して、不動産の価値を調べてもらうことが望ましいです。 

また、不動産相続によって相続税が発生する場合、申告・納税期限は相続を知った日から10か月以内と定められています。相続税の発生が想定される場合は、遅くとも10か月以内に専門家に相談しましょう。 

理想は相続発生前 

不動産相続を相談する理想のタイミングは、相続発生前(生前)です。 

相続が発生してからでは、相続するか放棄するかの選択肢しかありませんが、生前であれば贈与など、財産を受け取る選択肢が多くあります。また、控除や減額制度などを利用して、節税対策を講じる選択肢もあります。 

相続発生前に相続の話をするのは気が引けるかもしれませんが、相続について話し合い、相続方法を決めたり遺言書を作成してもらったりしておくことで、相続がスムーズに進み、トラブル防止につながります。 

不動産相続の相談をする前に確認すべきこと 

事前に以下の点を確認しておくと、不動産相続の相談がスムーズに進みやすくなります。  

  • 遺言書の有無 
  • 相続財産 
  • 相続人 

それぞれ順番に詳しく解説します。 

遺言書の有無 

被相続人が遺言書を残している場合、その内容に従う必要があります。まずは遺言書の有無を確認しましょう。遺言書に従わない方法で遺産分割を行いたい場合は、相続人全員の同意を得た上で遺産分割協議が必要です。 

遺言書の存在は今後の手続きに大きく影響するため、専門家に相談する前に確認しておくことが重要です。ちなみに、平成元年以降に作成された公正証書遺言は、全国の公証役場で有無を確認できます。 

相続財産 

相続財産には、不動産などのプラスの財産と、借金などのマイナスの財産があります。相続税の対象は不動産だけでなく、すべての相続財産を把握する必要があります。自分で把握するのが難しい場合は、専門家に相談するのが良いでしょう。 

下表に、プラスの財産とマイナスの財産の代表例をまとめました。  

プラスの財産 

  • 不動産 
  • 不動産上の権利 
  • 現金・預貯金 
  • 有価証券 
  • 自動車 
  • 貴金属 
  • 骨董品 

マイナスの財産 

  • 借入金 
  • 未払金 
  • 公租公課 

相続人 

法定相続人(法的に財産を相続する権利がある人)は、被相続人が生まれてから現在までの戸籍謄本で確認できます。戸籍謄本は、被相続人の本籍地がある市区町村役場で取得できます。遠方で直接窓口へ行けない場合は、郵送でも取得可能なので、市区町村役場に問い合わせてみましょう。 

不動産相続で相談する内容 

以下のような内容を相談しておくと、不動産相続がスムーズに進みやすくなります。 

  • 名義変更手続きの方法 
  • 遺産分割の進め方 
  • 相続税の算出方法 

それぞれの内容を順番に詳しく解説します。 

名義変更手続きの方法 

不動産を相続した場合、不動産登記の変更手続き(名義変更手続き)が必要です。この手続きは自分でも行えますが、時間と手間がかかります。自分で手続きを行う場合でも、具体的な手順や必要な書類、注意点などについて専門家に相談しておくと安心です。 

遺産分割の進め方 

相続人が自分1人の場合、トラブルに発展する可能性は低いかもしれません。しかし、相続人が複数いる場合、「相続財産をどのように分割するか」でトラブルが発生することが多いです。 

特に不動産が含まれている場合は簡単に分割できないため、トラブルの発生可能性がさらに高くなります。トラブルなくスムーズに分割するためには、専門家に相談することが必要です。 

相続税の算出方法 

相続税の算出に関しても、専門家に相談しながら進めるとスムーズです。相続税がどれくらいかかるのか、納税額を自分で計算することも可能ですが、限られた時間の中で相続財産を把握し、評価して税額を算出するのは難しいでしょう。 

不動産相続の相談費用目安 

不動産相続に関する各専門家への相談料の目安は、以下のとおりです。ただし、事務所などによって異なりますので、まずはそれぞれの相談先が開催している無料相談会などを利用してみるのも一つの手です。 

相談先  相談費用の目安 
弁護士  10,000~50,000円程度/1時間 
司法書士  5,000円~10,000円程度/回 
税理士  5,000~10,000円程度/回 
行政書士  5,000円程度/回 
法務局、役所  無料 
不動産会社、管理会社、ハウスメーカー  基本的に無料 

不動産相続の相談時に持参すべきもの 

不動産相続について弁護士や司法書士などの専門家に相談する際は、以下のものを持参することをおすすめします。  

  • 不動産に関する資料(固定資産評価証明書、登記済権利証) 
  • 被相続人に関する資料(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍、住民票の除票・戸籍の附票) 
  • 相続人に関する資料(戸籍謄本、住民票) 
  • 相談に関係する資料(遺言書、遺産分割協議書、他の相続人とのやり取り) 
  • 相談したいことをまとめたメモ 
  • 身分証明書、印鑑、現金 

これらの資料を持参すると、弁護士や司法書士からより詳しいアドバイスがもらえるでしょう。また、現金を持参しておけば、不動産相続に関する手続きについて、相談後にそのままスムーズに正式な依頼をすることも可能です。 

相談時期によっては手元に資料がない場合もありますが、できる限りこれらの資料を揃えて持参することが望ましいです。 

不動産相続相談のよくある質問 

不動産相続相談にあたって、よくある質問と回答をまとめました。 

不動産相続について無料で相談できるのはどこ? 

ここまでに紹介した以外に、不動産相続について無料で相談できる主な窓口には、法テラス、司法書士総合相談センター、自治体の法律相談会などがあります。 

それぞれの相談先で対応してもらえる主な相談内容は、以下のとおりです。  

相談先  相談内容 
法テラス 
  • 経済的な余裕はないが弁護士や司法書士に相談したい 
  • 不動産相続に関する法制度や相談先を紹介してほしい 
司法書士総合相談センター 
  • 不動産の相続登記に関するアドバイスを受けたい 
  • 裁判に頼らないトラブル解決方法(ADR)を利用したい 
自治体の法律相談会 
  • 市役所や区役所などの公的機関で専門家に相談したい

 

法テラスでは、民事法律扶助業務の一環として、経済的な理由で弁護士や司法書士に相談できない方を対象に無料相談を実施しています。同一の問題について3回まで無料で利用でき、回数内であれば別の弁護士・司法書士に相談することも可能です。 

司法書士総合相談センターは、全国の司法書士会が運営している相談窓口です。多くのセンターでは司法書士による無料相談を提供しており、不動産の相続登記をはじめとする相続に関する幅広い相談に応じています。 

また、市役所や区役所でも地域住民を対象にした無料の法律相談会を実施していることがあります。相談員は弁護士や司法書士などの専門家で、不動産の相続トラブルや相続登記に関する相談も受け付けています。利用条件などは地域ごとに異なるため、まずはお住まいの地域の自治体の公式ホームページなどで確認すると良いでしょう。  

参考:法テラス「無料法律相談に関するよくあるご質問」 

   日本司法書士会連合会「各種法律相談」 

不動産相続の手続きをしないで放置するとどうなる? 

不動産相続の手続き(相続登記の手続き)を放置することには、以下のようなリスクがあります。 

リスク 

補足 

罰則が発生する 

2024年4月1日より、相続登記が義務化されています。不動産の相続を知った日から3年以内に相続登記を行わないと、10万円以下の過料が科せられます。 

 

また、2024年4月1日以前に相続した不動産も、正当な理由がない限り、3年以内に相続登記をしなければ過料が科せられます。 

権利関係が複雑になる 

相続登記をせずに放置すると、時間が経つにつれて権利関係が複雑になります。 

 

その理由は、法定相続人が亡くなり新たに相続が発生する「数次相続」や、相続人が亡くなったときに子や孫が相続人になる「代襲相続」が起こる可能性があるためです。 

 

数次相続や代襲相続が発生して相続人が増えると、相続人の把握が難しくなります。相続登記を行う際に、まず相続人の確認から始めなければならず、手間も時間もかかってしまいます。 

子孫に迷惑がかかる 

相続登記を長期間放置すると、新たな相続が発生するたびに権利関係が複雑化してしまいます。 

 

自分の代で相続登記をしなかった場合、子や孫の代で相続登記をする際に、権利関係が非常に複雑化していることが予想されます。その結果、自分が相続登記を放置したことで、子孫に迷惑をかけることになってしまいます。 

不動産を差し押さえられる
リスクがある 

相続人の中に借金を抱えている人がいる場合、その債権者(借入先)によって不動産が差し押さえられるリスクがあります。 

 

これは、借金の返済が滞ったときに、債権者が借金をしている人の法定相続分に対して相続登記を行う「債権者による代位登記」ができるためです。 

 

差し押さえられるのは「借金をしている人の法定相続分のみ」ですが、不動産の一部が差し押さえられると、その後の手続きが非常に複雑になってしまいます。 

遺産分割協議が難航する
おそれがある
 

相続登記を放置している間に相続人が認知症になると、遺産分割協議を始める際に手続きが難しくなります。 

 

これは、認知症の方は判断能力や意思能力が不十分とみなされ、法律行為が制限されるためです。 

 

認知症の方は相続放棄ができないため、財産を管理する「成年後見人」を立てて遺産分割協議を行うことになります。 

 

その場合、成年後見人は法定相続分またはそれ以上の取り分を主張することが職責となるため、遺産分割の話し合いが難航しやすくなります。 

不動産を売却・担保に
できない
 

不動産を売却したり担保にしたりできるのは、不動産の名義人だけです。被相続人名義のままでは、不動産を売却したり担保にしたりすることは認められません。 

不動産相続相談のまとめ 

不動産相続の主な相談先は、主に「弁護士」「司法書士」「法務局」「税理士」「行政書士 」「役所」「不動産会社」「管理会社」「ハウスメーカー」が挙げられます。相談内容に合わせて適した窓口を選び、不動産相続に関する悩みや不安を解消しましょう。 

事前に遺言書の有無や相続の状況を把握しておくと、不動産相続の相談がスムーズに進みます。相続発生の前後を問わず、いかなるケーズでも、後で慌てることのないように、まずはお気軽に相談窓口へ問い合わせてみてください。