アパート・マンションを相続することになったらどうする?売却か経営を続けるか、税金やメリットなどを踏まえて考える
アパート・マンションの相続では、土地や建物といった高額な不動産に加えて、毎月の家賃収入といった債権も承継するため、相続人にとっては多大なメリットがあるように見えるかもしれません。
しかし、主な相続財産がアパート・マンションのみの場合は遺産分割方法が問題になりますし、アパートローンも残っている場合、トータルの相続財産がマイナスになっている可能性もあるなど、アパート・マンションの相続では様々な問題が生じます。
相続人ご自身で判断することが難しく、弁護士などの専門家への相談が必要になることも多いです。
この記事では、アパート・マンションを相続した場合の手続きや注意点、アパート・マンションを売却すべきか経営を続けるべきかを検討する際に考えるべきことを解説します。
アパート・マンションの相続時に考えるべきこと
アパート・マンションの相続では、それだけで資産価値のある不動産と家賃による不労所得を同時に手に入れることができます。アパート・マンションを新築してから元を取るには長い時間がかかりますが、建築済みで稼働中のアパート・マンションを相続すれば、新築費用を回収する必要がありません。
多くの方にとって喜ばしいことだと思いますが、相続の際は、被相続人に属したプラスの資産だけでなくマイナスの負債も相続してしまうことを考慮する必要があります。
プラスの資産とは、アパート・マンションの土地建物や家賃収入などです。
マイナスの負債とは、アパートローンが代表例です。
アパート・マンションを経営していた被相続人が亡くなった場合でも、団体信用保険(団信)を利用すれば、アパートローンを一括返済できることもありますが、団信に加入していなかった場合は、相続人がアパートローンを引き継いでしまいます。
アパート・マンションの空室率が高く、家賃収入が見込めない状況で、アパートローンを相続してしまうと、家賃収入と相殺することもできず、相続人の個人資産でアパートローンを支払い続けなければならない事態になってしまいます。
アパート・マンションの相続だけでなく相続財産全体を俯瞰する
アパート・マンション経営をしている方は、他にも多額の資産を有していることもあると思います。
アパート・マンション経営以外にも事業を営んでいれば、アパートローンのほかにも、何らかのローンを組んでいるかもしれません。
相続人は、「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条)」のが基本ですから、アパート・マンションだけに目を奪われて、他の資産や負債を考慮しないと大変なことになります。
アパート・マンションを含めた他の資産や負債を俯瞰したうえで、相続財産の総額を算出し、資産が多い状態なのか、負債が多い状態なのか見極めなければなりません。
負債が多い状態の場合は、アパート・マンションの土地建物に価値があり、経営が黒字の場合でも、残念ながら、相続放棄を検討しなければなりません。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述するのが原則です。
3か月という短い期間で決断を下さなければならないのは、大変ですが、弁護士などの相続問題の専門家に相談しながら、手続きを進めてください。
アパート・マンションを相続した後の選択肢
被相続人が亡くなった後は、アパート・マンションを含む遺産のすべてについて、遺産分割協議を行い、具体的な相続人を確定します。
アパート・マンションを相続することになった相続人は、アパート・マンションの土地建物につき、相続を原因とする所有権移転登記手続きを済ませます。
一息ついた後で、検討しなければならないことが、アパート・マンション経営を継続するのか止めるのかということです。
現時点では、アパート・マンション経営が黒字の場合でも、将来は、大規模修繕が必要になるので、そのための資金を捻出できるかどうかを考えなければなりません。地震や災害による損壊のリスクもありますし、アパート・マンションの設備が壊れた場合は、オーナー負担で修理しなければなりません。
また、アパート・マンション経営は不労所得と思われがちですが、賃借人からの要望やクレームに対しては迅速に対応しなければならず、意外にやるべきことが多いものです。特に、自主管理物件の場合は、アパート・マンションの庭の草むしりなどもオーナー自身が行わなければならない場合もあり、家賃収入はそうした対応への対価であることを考慮すべきです。
ご自身の仕事とオーナー業を兼業できるのか考慮すべきですし、アパート・マンション管理を管理会社に委ねるにしても、将来も見据えた資金計画を立てなければなりません。
現在、少子高齢化の進展により、日本の人口は減少しており、将来的には、アパート・マンションの需要は減るでしょう。また、アパート・マンションの立地周辺の環境の変化により、需要がなくなることもあります。
様々な点を考慮し、早めに売却すること、アパート・マンションを解体して他の土地活用方法を模索することも考えましょう。
アパート・マンションを相続した後の選択肢もご自身だけで判断することは難しいこともあるので弁護士などの専門家に相談すべきです。
アパート・マンションの相続の流れ
それでは、アパート・マンションの相続手続きの流れを見ていきましょう。すでに紹介したとおり、アパート・マンションだけ相続することはできないため、遺産全体に目を配ることがポイントです。
アパート・マンションの相続も含めて遺言書の有無を確認する
まず、被相続人が遺言書を作成していたかどうかを確認します。
アパート・マンションを相続させる人について、有効な遺言書を作成していれば、遺言に従い、指定された人がアパート・マンションを相続することになります。
遺言書の種類としては、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言が一般的です。
公正証書遺言は、自宅に正本や謄本がない場合でも、公証役場に問い合わせれば、作成していたかどうか分かりますし、再発行してもらうこともできます。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、自宅や金庫などから探すしかありません。発見したら、その場で開封するのではなく、家庭裁判所で検認の手続きを受ける必要があります。
なお、自筆証書遺言でも、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用していれば、検認の手続きを省略できます。
相続人を確定する
被相続人の法定相続人が誰なのかを確定します。被相続人の出生時から亡くなった時までの戸籍を集めて、被相続人の現在の配偶者と子どもを確認します。
子どもがいない場合は、被相続人の両親などの直系尊属が生存しているかどうかを調べます。直系尊属もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹または、甥、姪が法定相続人になります。
法定相続人が確定したら、それぞれの法定相続分を確認します。
アパート・マンションの残債務などを確認する
アパート・マンションの権利関係や残債務について確認します。
アパート・マンションの土地建物は、誰が所有しているのかを不動産登記情報により確認します。建物は被相続人が所有していても、土地は借地の場合もあるためです。被相続人の先代からアパート・マンションを経営していた場合は、被相続人とその兄弟の共有になっているケースもあるかもしれません。
また、抵当権が設定されているかどうかも確認します。金融機関の抵当権が設定されていれば、アパートローンを組んでいる可能性が高いので、その金融機関に問い合わせて、アパートローンの残高等を確認します。
被相続人が団体信用保険(団信)に加入している場合は、今回、亡くなったことで、アパートローンの残債務を完済できるのか確認しましょう。
アパート・マンションの管理や修繕などの状態を確認する
アパート・マンションの建物と経営状態を確認します。
アパート・マンションの建物が新しいか、古いかにより、大規模修繕の時期について目途を付けます。
古い場合は、相続してもすぐに大規模修繕が必要になると考え、そのための費用も考慮して遺産分割に反映させる必要もあるかもしれません。
アパート・マンションの空室率が高い場合は、家賃収入が期待できないため、売却も選択肢に入ります。この場合、アパート・マンションの建物の解体が必要になることもありますし、現在の入居者に立ち退いてもらうための立ち退き料の支払いが必要になることもあります。
アパート・マンションを含む遺産総額を確認する
アパート・マンションを含む遺産のすべてについて、相続財産調査を行います。
アパート・マンションの土地建物の価値や家賃収入だけに目を奪われて、その他の遺産も併せた遺産総額がプラスなのかマイナスなのかを確認しないと膨大な負債を相続してしまうリスクがあるので注意しましょう。
相続財産調査は、被相続人が所有していた財産を一つ一つリストアップして、相続財産目録の形にまとめていく作業ですが、相続財産が多く、相続税の基礎控除額(3,000万円+(600万円×法定相続人数))を超えることが確実である場合は、専門家に依頼して正確な額を計算してもらう必要があります。
特に、アパート・マンションの土地建物を含む不動産の評価額は、正確に確定しておかないと、後でトラブルの原因になります。
相続放棄するかどうかの決定
遺産総額を確定して、負債の方が多い場合は、相続開始から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行うことを検討します。
遺産総額が明らかにプラスの場合は、そのまま遺産分割協議に進みます。
遺産総額がプラスかマイナスか分からない場合は、限定承認を行うという選択肢もあります。限定承認も相続開始から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
アパート・マンション経営に関する準確定申告
被相続人が亡くなる直前までアパート・マンション経営を行うことで得ていた家賃収入について、被相続人に代わって確定申告を行い、所得税を納税しなければなりません。亡くなった年の1月1日から亡くなった日までに得ていた家賃収入が対象になります。
期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
参考 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm
アパート・マンションを含めた遺産全体についての遺産分割協議を行う
アパート・マンションを含む遺産のすべてについて遺産分割協議を行います。
遺産分割協議で決定した内容は、遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が実印で押印します。遺産分割協議書は、相続人の人数分作成し、印鑑証明書もその数に合わせて用意するのが一般的です。
なお、アパート・マンションの遺産分割方法については、後述するように、共有とするのではなく、現物分割、代償分割、換価分割のいずれかを選択すべきです。
アパート・マンションの相続登記をする
アパート・マンションの土地建物を相続することになった相続人が、遺産分割協議書を基に相続登記手続きを行います。
相続人が単独で申請することができ、登録免許税も不動産売買よりも安く、固定資産税評価額の0.4%です。
例えば、アパート・マンションの固定資産税評価額が5,000万円の場合は、20万円の登録免許税を納税します。
なお、司法書士に相続登記手続きを委任する場合は、別途、報酬がかかります。
相続税の計算・申告を行う
相続税は、遺産総額と法定相続人の人数により計算します。納付すべき相続税の総額を確定したら、遺産分割協議により取得した財産の価額に応じて、相続税を納税します。
アパート・マンションの土地建物だけを相続することになった相続人は、アパート・マンションを売却して現金化するのでない限り、相続人自身の手元の資金から相続税を支払わなければならないこともあります。
相続税の申告と納税は、原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
アパート・マンションの入居者への連絡
アパート・マンションの入居者にオーナーが亡くなり、新しいオーナーが決まったことを知らせます。
なお、賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない(民法605条の2)のが民法の原則なので、お知らせする前に、相続登記を済ませておくのが無難です。
お知らせでは、家賃の新しい振込先などの案内も行います。
被相続人が亡くなってから新しい相続人が決まるまでの期間の家賃の扱いについてもお知らせしなければならないこともあります。
アパート・マンションの経営を続けるかどうかの判断
アパート・マンションの経営を続けるかどうかは、実際にアパート・マンションを相続した相続人が判断します。
現在のアパート・マンションの状態や経営状況、大規模修繕費用の資金計画など、様々な点を考慮しながら、いつまでアパート・マンション経営を続けるのか、いつ売却するのかといった判断を下します。
アパート・マンションの遺産分割方法
アパート・マンションは遺産の中でも大きな割合を占めることが多く、相続人の一人に相続させることが難しく、法定相続人同士で共有することも検討されるかもしれません。
しかし、アパート・マンションを共有することには下記のようなデメリットがあるため、現物分割、代償分割、換価分割などの形で、遺産分割を行うことが望ましいです。
アパート・マンションを共有するデメリット
被相続人の遺産のうち、アパート・マンションが最も高額な遺産で相続人の誰もが手放したくないと考えている場合は、相続人同士でアパート・マンションを共有することで遺産分割をまとめてしまうこともあるかもしれません。
相続人が法定相続分により共有することは、最も公平な遺産分割方法だと考えるかもしれませんが、後にトラブルの原因となることがあります。
アパート・マンションを共有するデメリットは次のとおりです。
アパート・マンションの賃貸をする度に話し合いが必要になる
3年を超えない期間でアパート・マンションの賃貸借をすることは、共有物の管理に該当し、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決めるものとされています(民法252条)。
共有者全員の一致は必要ないものの、入居者を受け入れる度に話し合いをするのは煩わしいものがあります。
また、アパート・マンションの大規模修繕を行う場合も、同様に共有者の過半数の同意が必要になります。
アパート・マンションの売却、解体時は全員の同意が必要になる
アパート・マンションの売却、解体は、共有物の変更に当たるため、共有者全員の同意が必要になります(民法251条)。
一人でも反対する人がいると、売却や解体が進まず、アパート・マンションが老朽化したまま放置されてしまうこともあります。
次の相続が発生した場合に関係者が増えてしまう
共有者の誰かが亡くなり、相続が開始した場合は、共有者が増える可能性があります。その共有持分の相続人が一人に決まれば、大きな問題になりませんが、その共有持分をさらに法定相続分で分け合う形で遺産分割協議を行った場合は共有者がさらに増えてしまい、持分も細分化されて分かりにくくなります。
共有者が増えると、アパート・マンションの賃貸、売却、解体のいずれをするにしても、話し合いをまとめることが難しくなります。
アパート・マンションの共有には、以上のようなデメリットがあるため、以下に紹介する現物分割、代償分割、換価分割などの形で、遺産分割を行うべきです。
現物分割
現物分割とは、遺産をそのままの形で分割する方法です。
例えば、アパート・マンションの土地建物以外に、不動産、預貯金債権、有価証券などがあり、それぞれの資産価値がアパート・マンションの土地建物以上であれば、アパート・マンションの土地建物を相続する人、他の不動産を相続する人、預貯金債権、有価証券を相続する人という形で、現物分割を行うことができます。
主要な遺産がアパート・マンションの土地建物のみの場合は、現物分割はできません。
代償分割
代償分割とは、法定相続分を超えて遺産分割を受けた人が、他の相続人に対して、法定相続分を超えた分につき、代償金を支払う形の遺産分割方法です。
例えば、法定相続人が子であるA、B、Cの3名、主要な遺産が3,000万円相当のアパート・マンションの土地建物のみだったとしましょう。
Aが単独でアパート・マンションを相続することに決まった場合、Aは、BとCに対して、それぞれ1,000万円ずつ代償金を支払います。
これが、代償分割と呼ばれる遺産分割方法ですが、Aは2,000万円もの資金を用意しなければなりません。
アパート・マンションの相続後の経営も考慮し、多額の資金を用意できるかどうかを検討しなければなりません。
換価分割
換価分割とは、遺産を共有名義のまま売却したうえで、売却代金を法定相続分に応じて分割する方法です。
金額が明確になるため、ほぼ法定相続分に応じた分割が可能になり、最も公平な遺産分割方法と言えます。
アパート・マンションを相続してもすぐに売却する予定なら、最初から換価分割を行っておいた方が良いでしょう。
ただ、アパート・マンションの土地建物を手放さなければならなくなることや売却に伴い譲渡所得税が課される可能性があることがデメリットになります。
アパート・マンションの相続時に発生する税金や費用
アパート・マンションの相続時には、様々な税金や費用がかかります。代表的な税金は、相続税ですが、他にも様々な税金がかかります。
相続税
相続税の基礎控除額(3,000万円+(600万円×法定相続人数))を超える場合は、相続税がかかります。
なお、相続税は、遺産額から基礎控除額と債務を差し引き、プラスの課税遺産が残る場合に課税されます。
アパート・マンションの土地建物といった資産があっても、アパートローンなどの負債が多い場合は、相続税がかからないこともあります。
固定資産税・都市計画税
アパート・マンションの土地、建物を相続し、オーナーとなった場合は、固定資産税と都市計画税を納税しなければなりません。
固定資産税と都市計画税は、その年の1月1日の時点でアパート・マンションの土地、建物の所有者となっている人に対して課税されます。
被相続人が亡くなった年は、被相続人名義で納税しますが、相続登記手続きを終えた後に到来する1月1日以後は、相続人名義で納税することになります。
所得税・住民税(アパート・マンション経営に関する準確定申告)
アパート・マンション経営を行っていた場合は、被相続人が亡くなった年に得ていた家賃収入に関して準確定申告が必要になります。
通常の確定申告と同様に様々な控除を受けられます。
被相続人が亡くなった日までに支払った医療費については医療費控除の対象となりますし、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除も死亡の日までに被相続人が支払った分が対象となります。
また、配偶者控除や扶養控除等は死亡の日の現況により適用できるかどうかが判断されます。
なお、準確定申告書には、各相続人等の氏名、住所、被相続人との続柄などを記入した準確定申告書の付表を添付します。還付金の受け取りが発生する場合もあるためです。
不動産取得税
法定相続人がアパート・マンションの土地、建物を相続した場合は、原則として不動産取得税は課税されません。
法定相続人以外の人が「特定遺贈」によって、アパート・マンションの土地建物を取得した場合は、不動産取得税がかかります。特定遺贈とは、遺言書にアパート・マンションの土地、建物を法定相続人以外の人に遺贈すると明記されている場合のことです。
また、法定相続人が生前贈与や死因贈与によりアパート・マンションの土地建物を取得した場合も、不動産取得税が課税されます。
税額は、原則として、不動産の評価額×税率(4%)により計算しますが、税負担を軽減する特例措置が適用される場合もあります。
アパート・マンションの相続税を節税する方法
アパート・マンションの土地と建物にかかる相続税は、相続税評価額を基に計算しますが、相続税評価額の減額や特例措置を受けられるため、相続税の節税が可能です。
土地の相続税評価額は、路線価方式と言い、国税庁が定める路線価を用いて算出します。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額を用います。
アパート・マンションの場合、これらの評価額がそのまま用いられるわけではなく、借地権割合、借家権割合、賃貸割合分が差し引かれます。アパート・マンションとして土地建物を貸している場合、借地借家法により賃借人の権利が保護され、所有者が自由に使うことができないためです。
また、土地については小規模宅地等の特例により、貸付事業用の宅地等として、土地の面積のうち200㎡を限度として、50%の減額を受けられることがあります。
なお、相続開始前3年以内にアパート・マンション経営を開始した土地については、小規模宅地等の特例を受けられません。
このようにアパート・マンションの土地と建物にかかる相続税は節税が可能なため、多額の資産を有している方は、早いうちにアパート・マンション経営を始めて、相続税対策を行っておくことも考えられます。
アパート・マンション経営による節税対策が有効かどうかは、収支計画なども含めて専門的な判断が必要になるため、専門家に相談しながら計画を立ててください。
アパート・マンションの相続に関する法的問題点
アパート・マンションの相続では、他の遺産とは異なる法的な問題点が生じます。
遺産分割を終えるまでの賃料の帰属とアパートローンの相続です。
それぞれ見ていきましょう。
遺産分割を終えるまでの賃料の帰属
被相続人が亡くなった直後は、葬儀などで慌ただしいですし、葬儀後もお墓の手配、49日の法要など、様々なことを行わなければなりません。また、相続手続きのために法定相続人や相続財産の確定など様々な準備が必要です。
そのため、被相続人が亡くなった時から、遺産分割を終えるまでは数か月、争いがあるケースでは数年かかってしまうことも珍しくありません。
この場合、その期間中に発生するアパート・マンションの家賃を誰が相続するのかが問題となります。
民法909条には「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定められていますから、遺産分割の結果、アパート・マンションを相続することになった人がその期間の賃料も取得するのではないかと考えられるかもしれません。
しかし、最高裁は、相続財産が相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属している(民法898条1項)点を重視し、その期間の賃料については、「遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する」と解しています(最判平成17年9月8日 民集 第59巻7号1931頁)。
アパート・マンションを相続した人が総取りできないので注意しましょう。
アパートローンの相続
被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条)のが相続なので、アパートローンに代表される負債も相続人が承継します。
では、アパートローンは相続人のうち、誰が相続するのでしょうか?
一般的には、アパート・マンションの土地建物を相続した人が、アパートローンも相続すると考えられるかもしれませんが、特別な手続きを行っていない場合は、原則として、相続人全員が法定相続分に応じてアパートローンを承継してしまう点に注意が必要です。
つまり、アパート・マンションの土地建物を相続しない人も、アパートローンは相続してしまうわけです。
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利だけでなく義務も承継します(民法899条)が、被相続人のアパートローンは可分債務なので、法定相続分に応じた負担が可能だからです。
アパート・マンションを相続した人にアパートローンを全額負担させるには、金融機関との間で、免責的債務引受契約を締結する必要があります。
また、プラスの遺産を全く相続しないのであれば、相続放棄を行うことでアパートローンの負担を免れることができます。
アパート・マンション相続後の選択肢
アパート・マンションを相続することになった時は、アパート・マンション経営を続けるべきなのか、出口戦略を探るべきなのかを検討しなければなりません。
結論から言うと、よほど条件に恵まれた物件でないかぎり、早期に売却してしまった方が、利益が出ますし、損失も少ないことが多いです。
アパート・マンション経営を続けるべきか、止めるべきかを考える際のポイントを紹介します。
アパート・マンション経営を続けるべき場合
相続したアパート・マンションの経営を続けるべき場合は、立地条件に恵まれていて、空室率が低く、アパート・マンションの建物自体も新しく、将来的にも収益が見込める場合です。
築浅物件の上、アパートローンも団信によって、完済したのであれば、ローンの返済に追われることなく、長期間にわたり安定した収入が見込めるため、アパート・マンションを手放す必要はないでしょう。
アパート・マンション経営を続ける場合の注意点
アパート・マンション経営を続ける際に注意したいことは、家賃収入が全額利益になるわけではないことです。
アパートローンを支払わなくてよい場合でも、税金や火災保険料が差し引かれることを考慮しなければなりません。
また、アパート・マンションの設備が壊れた場合は、家賃収入により積み立てた資金から修理、交換費用を捻出しなければなりません。
さらに、新築時から15年から20年も経過した場合は、屋根や外壁の塗装工事、内装設備のリフォームといった大規模修繕工事が必要になるので、そのための資金も毎月の家賃収入から積み立てておく必要があります。
こうした支出がかかるため、家賃の収益はそれほど大きなものにはなりません。
アパート・マンションを売却すべき場合
アパート・マンションの建物が老朽化しているのに大規模修繕を行っていない場合は、相続によりアパート・マンションを取得しても、近い将来、自己資金を投入するなどして、大規模修繕を行わなければなりません。
また、空室率が高い場合も、空室率改善のために一定の投資が必要になることもあります。
こうした費用を負担した上でアパート・マンション経営を継続することが難しいと判断したならば、アパート・マンションの売却を検討すべきでしょう。
アパート・マンションの売却方法としては、アパート・マンションの土地と建物をセットで売却する方法とアパート・マンションの建物を解体し、更地にした上で売却する方法があります。
解体して売却する場合は、解体費用のほか、現在の入居者に立ち退いてもらうために立ち退き料の支払いが必要になることもある点に注意が必要です。
アパート・マンションを解体して他の土地活用の検討
アパート・マンションの建物が老朽化していて、空室率も高いものの、土地自体は利用価値がある場合は、相続した後でアパート・マンションを解体し、他の土地活用方法を検討することも選択肢に入ります。
ただ、様々な法律により土地利用について制約を受けることもあるので、事前に土地活用に関する専門家への相談が必要です。
例えば、アパート・マンションが建っている土地が第一種低層住居専用地域等であれば、大規模な商業施設を建てることはできません。アパート・マンションを解体しても、駐車場、コインパーキングなどの土地活用方法くらいしかないこともあります。
アパート・マンション相続のまとめ
アパート・マンションを相続する際は、次のように考慮しなければならない点が多岐にわたります。
- アパート・マンションを相続すべきか、相続放棄を検討すべきか。
- アパート・マンションを相続するとしてどのように遺産分割すべきか。
- アパート・マンションを相続することによる相続税がかかるのか、いくらかかるのか。
- アパート・マンションを相続した後でアパート・マンション経営を続けるべきか、売却すべきか。
このような項目を検討するにあたっては、専門知識が必要ですし、額が大きいだけに相続トラブルも生じやすいです。
ご自身の判断だけでアパート・マンションの相続手続きを進めてしまうと、後々、大きなトラブルになってしまうこともあります。
少しでも分からないことや疑問点があったら、相続問題に詳しい弁護士などの専門家に相談することが大切です。